第29話 口無は死人か
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それでは、29話です。どうぞ、
朝になって、アラーム音が部屋に頭に響いた。枕元においてあるスマホのロックを解除して、アラームを止めた。窓から差し込む光が徐々に意識を覚醒に向かわせる。布団を蹴り上げて、体を起こす。ベッドから立ち上がり、制服に着替える。荷物を持って、一階に降りる。叔父、叔母に挨拶をしてから、洗面所で身支度を整える。リビングのテーブルに用意された朝ご飯を食べる。再び洗面所に戻り、歯を磨く。時計に目をやり、いつもの時間になる。鞄を持って、家を出た
あれからルペは自滅を選んだのだ、と安川は説明した。自分自身の成分を掛け合わせて反応させれば十分可能らしい。ルペの消滅を見届けてから「つまらない結果になった」と言い残して安川は去っていった
外に出ると、容赦無く差し込む夏の強い日差しと蝉の声が襲ってきた。眩しさに手をかざしてから、学校に足を向けた。信号の無い、新緑に色付いた並木道を抜ける。ちらほらと同じ制服の生徒が目につき始めた
安川がいなくなってからも、勇人は川沿いの岸に留まり続けた。目の前にあるのは、ルペだった筈の金属の塊だった。助けられなかったのに、ありがとうと言われて死んでしまった。ルペはもういない。涙は出ずに、勇人の心には虚無の感情だけが残った
校門をくぐり、周りは同じ制服で溢れる。昇降口へと向かい、下駄箱で上靴に履き替える。階段を登り、教室へ入る。いた。いつも通りに、咲良は友達に囲まれていた
あれから、咲良とは殆ど会話をしていなかった。すれ違いに挨拶を交わすくらいで、あの日のことを改めて話す機会は訪れていなかった。話したい気もしたし、話したく無い気もした。もしかしたら咲良と恋人みたいになれるかもという期待と、引っかかるルペの死が勇人の感情を掻き混ぜていた
チサト先生が教室に入ってきて、HRが始まる。一限、二限と授業が進む、教壇に立つ教師は揃って魚のように口をパクパクさせている。昼休憩になり、机に突っ伏した。休憩が終わると、体起こした。教師は、またお魚になっていた。鐘が鳴り、学校の終わりを告げた
「咲良、一緒に帰ろう」
咲良の座る席の前に行き、誘いをかけた
勇人は決心した
あの日のことも、ルペのことも咲良に話してみよう。自分が楽になりたいだけかもしれないけれど、それでも話をしよう。解決や結果を望むのではなく、咲良の笑顔がみたいと思ったから。理由はそれだけだった
「部活の後ならいいよ、帰ろっか」
勇人から声を掛けてきたことに、驚いていたが、咲良はすぐに承諾した
咲良の部活が終わる頃には、太陽は沈みかかっていた。夕日から作られる影は濃く、校門手前にもたれかかる勇人の姿をくっきりと浮かび上がらせていた。部活終わりを知らせる放送が流れて、次々と校門を出て行く制服達が増えていった
「お待たせ」
咲良がやって来た。少し濡れた髪を後ろで束ねて、水泳用バックと鞄を背負っている。「待った?」と咲良は言わなかった
帰り道にまず、ルペのことから話した。ルペは父の仲間に引き取られて、いなくなってしまったと伝えた。ルペと過ごした日々が楽しかったこと、いなくなってしまって寂しいことを咲良は黙って聞いてくれた
「私もルペちゃんといられて楽しかったよ」
視線を下に落としながら咲良は言った。それから、と勇人は続けた
「あの日のことだけど…」
咲良は視線を下げたまま喋らない
「咲良って意外と泣き虫だったんだな」
煽って、咲良が怒ったところで謝り、咲良に笑って貰おうと勇人は考えた。しかし咲良は何も口にしない。勇人は違和感を覚えた
「どうかしたの?」
勇人が訪ねると、黙って咲良は涙を頬につたわせた
「え!?どうしたの、咲良?なんか悪いことした?僕」
慌てて謝る勇人に、咲良は小さく何かを繰り返し呟いていた。なんとか勇人は咲良の一言を聞き取ることが出来た
「ごめんなさいだぞ」
背筋が凍った。世界が真っ黒になった。そこから咲良が一言、二言と言葉を落としていった。何を言っているのか分からなかった。咲良がまだ話している途中で、勇人は走りだした。咲良から辛うじて聞き取った単語を頼りに、歩いて来た方向とは逆に
「嘘だ…。嘘だ」
額に汗を薄く這わせた。受ける風が凍えそうなほどに寒く感じながらも、懸命に息を切らしながら夢中で走った。近くの市民病院に入る。正面玄関を突っ切り、右手に見えた階段を使って三階まで駆け上がった。廊下を進み、306号室に飛び込んだ。 部屋には咲良の両親と担当医の先生や看護婦が横たわる死人を囲っていた
死人の近くまで寄ると、その手には一枚のメッセージカードが握られていた
『私の勝ちだよ、勇人』
死人は咲良だった
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