第27話 告白は花火か
時計台の近くには、大きな噴水広場があり、少ない街灯が噴水を囲むように設置されている。流れる水に街灯の光源が反射して、薄く柔らかい光が周りを包み込んでいた
花火大会が終わり、あらかたの片付けを行なったところで、勇人達のグループはすぐに解散となった。なので先に、時計台で咲良を待つことにした
僕は告白をしないだろう。当初の予定は思いっきり崩れてしまったし、やっぱり自分の想いを伝えるのは怖い。この際、いつもは咲良に聞けないことでも訊いてみようか。それで僕が咲良のことを大切に思っていることだけをそれとなく伝える。うん、これでいこう
大方の流れを組み上げたところで、咲良がやって来た
「ごめんね。遅くなっちゃって、待った?」
咲良は肩で息をしていた。恐らく走ってきたのだろうと容易に想像がついた
「今来たところだよ」と返すと、「わかってんじゃん」と咲良は笑みをこぼした
「本当はどれくらい待った?」
「10分くらいかな。たいして待ってないよ」
「本当だ。大して待ってないね」
「おい」
冗談、と咲良は無邪気に笑った
「じゃあ、行こうか」
二人は神隠川の方へ歩きだした
* * *
「ねえ、勇人。この川の由来って知ってる?」
川のせせらぎと虫の音を聴きながら、川沿いをしばらく歩いていると、横から咲良が口を開いた
「知らないな。何なの?」
ひとつ、コホンと咳払いをしてから咲良は語り始めた
「その昔に、悪い呪術師に名前を取られてしまった神様がいたんだって。その神様は仮名で只の人間となってしばらく暮らしたんだ。でも本当の名前なんか無くても、神様のことを呼んでくれる人達は沢山いて。ある時、神様は気付いたんだ。自分を自分たらしめているのは名前なんかじゃない。周りの人々が向ける自分への想いこそが自分なんだって。名前なんか無くても、想いがあれば十分なんだって逸話がこの川の由来なんだ。どう、素敵でしょ?」
「そうだね」
咲良の話を聞いて、真っ先に浮かんだのはルペのことだった。ルペには名前がなかった。そして僕が適当に付けた名前を大切にしていた。ルペは想いを求めて、名前に縋っていたんだ、と今なら勇人にも理解できた。ルペは今頃どうしているだろうか
「どうしたの?」気付けば、咲良が勇人を不思議そうに見つめていた。何でもないよ、と勇人は慌てて言った
「じゃあ咲良は名前を取られても心配ないね。想ってくれる人が僕とは違ってたくさんいるから」
不意に咲良が足を止めた。勇人も足を止めて、後ろを向いた。流れてる川の流れも、虫の音も、時間でさえも咲良に合わせてるように止まった気がした
「私が欲しいのはたくさんの想いじゃないの。たった一人の強い想いをずっと待ってる」
身体の前で、咲良は両手に力を入れて拳を握り込んだ。その目は瞳いっぱいに勇人を映していた
ああ、そうか。やっと分かった。渡部が嘘を打ち明けた時から、予感はしていた。消去法で考えれば、嘘を付く理由があるのは咲良しかいない。咲良が待っているのは、僕だ
「咲良…」
咲良の瞳が僕を捉えて離さない。瞬きが出来ない。息が出来ない。口が開かない。声が出ない。身体が動かない。僕の全てが止まった
その刹那、向こう岸が音を立てて光った
「花火…」
振り向くと、市販であろう打ち上げ花火が何発も上がっていた
「…綺麗」
咲良も向こう岸を見ている
勇人は直感した
ルペだ。あいつが上げてくれたんだ。ここだ。ここが、ここしかないってタイミングだ
ルペがチサト先生が渡部が教えてくれた。今を逃したら、きっと僕は一生後悔する。言わなきゃいけない。伝えなきゃいけない。だって咲良が待ってる
「好きだ」
ストッパーの掛かった身体を無理やり動かして、勇人は想いを伝えた。聞こえたのか、聞こえてないのか。咲良は眉ひとつ動かさずに固まっていた
「遅いよ」
「え」
「遅すぎるんだっての、勇人は」
まぶたに溜めた涙を咲良はポロポロと落とし始めて、そのまま泣き始めた。どうしていいか分からずに勇人は狼狽えた
「バカ、こういう時は抱きしめてよ。言わせないで」
泣きながら咲良は怒る。言われるがままに勇人はぎこちなく咲良を抱きしめた
「うん、ありがと」
花火は止み、遠い建物から届く弱々しい光が川の上をゆらゆらと揺らめいている。勇人は咲良が泣き止むまでずっと抱きしめ続けた
楽しんで貰えたら、ブックマーク、評価の方を是非是非、励みになります
感想もどしどしお待ちしてます
ご愛読ありがとうございました
明日もよろしくお願いします!




