第26話 本心は何処か
数えたら、あと9話くらいで終わりそうです。9月中には終われそうでひとまず安心しました(笑)
それでは、どうぞ
いまだに減る気配の無い人混み、ここは楽しい場所だとばかりに主張する屋台の明かり、いつまで上がるんだと思うくらい煩わしい花火。この空間で息を吸うこと自体が、勇人にとって気持ち悪く感じた
大きな文字で大会本部と書かれた簡易テントの裏の土手に、勇人は力無く座りこんでいた。とうに休憩時間は過ぎていたが、そんな事は気にも留めなかった
「サボりか、志波」
聞き覚えのある声が、頭から降ってきた。顔を上げると、思った通り渡部がいた
「悪いか、慣れない人混みで疲れてるんだ。お前と違って、人に囲まれる生活をしてないからな」
勇人が毒を吐くと、渡部は笑った。何が可笑しいんだ、と腹立たしくなって勇人は訊ねた
「いや、すまん。チサト先生言う通りだったから、可笑しくてな。勇人は今、まさに蛇だから気をつけろ。トグロ巻いてるし、近付くと毒吐くぞって」
辺りを見渡すと、本部から此方の様子を伺っているチサト先生がいた。目が合うと、分かりやすく鳴らない口笛を吹かせて、知らん顔をしていた
「何の用だよ。お前相手なら常に、僕は虫の居所が良くないんだ。用が無いなら、放っておいてくれないか」
渡部を見ずに、勇人は再び項垂れた格好をとった。何処かへ行ってくれ、という勇人のジェスチャーもお構いなしに渡部は勇人の隣に腰を下ろした。渡部は悲しいレベルに空気が読めないのか、目ん玉が抜け落ちてしまっているのかの、どちらかだと勇人は思った
「今日、デートなんだろ?」
屋台で買ったホットドッグを頬張りながら、渡部は言葉を発した
「え」勇人は固まった
まさか咲良とのデートすることを知られているとは思わなかった。何を言われるのかと気が気ではない。勇人の身体は強ばって動かない。ただ、ドクン、ドクンと心臓の動きだけがはっきり感じられた
束の間、沈黙が続いた
「人の彼女とデートなんか、しやがってー」
とぼけた調子で後に、「なんてな」と渡部は微笑した。渡部の笑顔を見て、勇人の緊張による身体の強ばりが一気に緩んだ
「どういうことだよ」勇人はため息混じりに訊ねる
「どうもこうもないさ。もう気付いてるんだろ?」
「咲良と付き合ってないってことか。何のためにこんな嘘ついてんるんだ」
「答えばっか欲しがるのは、餓鬼のやることだ。自分で考えろ。そこに意味がある。これも引用は爺ちゃん」
ふざけた口調のあと、渡部はホットドッグを食べ切った
「ふざけるなよ」
「誰もふざけてなんかないさ、ふざけているのはむしろ。志波、お前の方だよ。いつまでも、うじうじしてんなよ」
急に渡部の顔付きが険しくなり、真剣な眼差しが勇人に突き刺さる
「好きなんだろ?咲良のこと。違うのか?」
核心を突かれて、勇人は狼狽した。なぜそんな事を渡部に言わなければならないのかと、誤魔化したい想いと何もかもを見通されているかもしれないならいっそのこと打ち明けた方がよい、という想いの間で葛藤した
「そうかもしれない」と考えた結果、勇人は中途半端な返答で言葉を濁した。勇人の答えを聞いて、渡部はまた優しい顔付きに戻った
「きっと、そうだよ」
渡部は勇人の想いを肯定した
「そうか」
無言で自分の顔を隠すように下を向いた。口角が上がっているのを渡部に見られたくなかったからだ。自分の想いを肯定してくれた渡部の言葉が少しだけ嬉しかった
「こらぁ、お前らサボってんじゃないぞ!」
気付けば渡部のおじいさんが勇人達を見て、怒鳴りをあげた
「やべぇ、爺ちゃんだ。じゃあな、志波。頑張れ、応援してるからよ」
そう言って渡部は逃げるように消えていった
もうすぐ花火大会は終わりを迎える。フィナーレを飾る連発の花火が打ち終われば、いよいよ勇人と咲良のデートが始まる
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