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僕とひと夏のルペ  作者: 高庭 千
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第25話 分裂は亀裂か

「逃げるぞ、ルペ。安川だ」


告げる頃には、もうルペの手を引いて、来た道を逆走していた。安川に自分達の姿を見られたのか、どうか定かではなかったが、直感が「逃げろ」と叫んだ。捕まってたまるかと、勇人はルペの手を強く握りしめた


「痛いぞ、勇人」


「うるさい、それどころじゃないだろ」


勇人は必死に人波を掻き分けた。後ろに目を配ると、安川が此方に向かって追いかけてきていた

やばい、やばい、最悪だ。見つかっていた。逃げなきゃ


とにかく安川から距離を取ろうとするが、人混みが全て逆流してるようで、掻き分けても、掻き分けても逃げられている気がしなかった。冷たい汗が全身から、栓が外れたように溢れ出してきた


「手前の出店の間を抜けたら、人の視線が外れる。そこで通信機に変われ、わかったか?」


一瞥すると、ルペは無言で頷いていた

抜けるぞ、とルペに声を掛ける


「今だ」


掛け声と同時にルペは勇人の右耳に通信機として収まり、勇人は近くの物置の陰に身を潜めた


ルペは康太の姿だった。あのまま安川に見つかっていたら、裏を取られてすぐに横にいる康太が実験体 Rであることが、バレてしまうところだった


息を殺して、身を隠す。口を閉じ、鼻からゆっくり呼吸する。身体の火照りで冷や汗がぬるまって生暖かい水滴となり、身体を滑り落ちる


そっと物陰から通りを窺うと、安川がすぐ側までいることが認識できた。安川は四方八方に首を巡らせていたが、勇人達を確認出来なかったためか、その場を後にした


「危なかった…」


一気に緊張が緩んだ。安堵から勇人は大きく息を吐き出した


「…ごめん、勇人。また迷惑を掛けてしまったな」


通信機から、哀しげな音声が聞こえた


「気にするなよ」いつものように勇人は通信機を二回小突いた


「でも、こうなると告白は中止かな」


勇人はおどけたように笑った


「それはダメだ」


ルペの大きな声に、耳鳴りがした。思わず勇人は耳を抑えた


「前にも言っただろ、音量には気をつけろ」


「ごめんなさいだぞ。しかし、告白をやめるのは絶対にダメだ」


ルペの口調にはいつになく熱が入っていた


「安川がいるんだ。通信機はまだいいにしろ、分裂体はどうする?見つかるかもしれないだろ。告白なんかいつでも出来る」


「絶対にダメだ!今日逃げたら、勇人は一生後悔するぞ」


間髪入れずに、ルペは荒げた音声を返してきた。勇人はルペの熱量の大きさに違和感を感じた


「大丈夫だ。勇人が心配することじゃない。勇人は告白に専念すればいいんだ」


「なんだよ、それ。こっちはお前を守ってやってるのに」


ルペの言葉に、違和感に段々と苛立ちが湧いてくるのがわかった


「ルペが守ってくれと、今日頼んだか?」


どんどん頭に血が集まっていく。呼吸が荒くなり、声が大きくなっていった


「僕はお前が捕まらないように、って必死で…」


「余計なお世話だ」


この言葉がトドメを刺した。抑えていた怒りの感情が勇人の中で一気に噴き出した


耳の通信機を外して、勇人は力いっぱい地面に叩きつけた


「もういい、たくさんだ。助けを求めたかと思えば、今度は余計だと。勝手過ぎるだろ」


叩き付けられたルペは康太の姿に戻った


「違う…。ルペはだな…」


「聞きたくない。消えてくれ」


「ルペは…」


「消えろ!」


鋭く怒鳴って、勇人は強い眼差しをルペに向けた

ルペと過ごした日々を失くしたくなくて、守りたかったが故の行動を余計だと言われたことが、勇人を裏切られたような気持ちにさせた


賑やかな祭りの声から、少し離れた物置の裏の暗がりからでも、花火の光は届いていた。打ち上げの音から少し遅れて届く光で、哀しそうな表情で何処かへ去っていくルペが現れては、消えてを何発か繰り返していた


そしていつの間にか光ってもルペは見えなくなった


楽しんで貰えたら、ブックマーク、評価の方を是非是非、励みになります

感想もどしどしお待ちしております

ご愛読ありがとうございました

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