第21話 肯定は肯定か
閑散とした住宅街を月明かりが優しく照らしている。辺りに街灯はない。まるで世界に二人きりみたいだね、と咲良はいった。ご機嫌に足を運んでいく咲良の少し後ろを勇人は見守るように着いていった
少し歩いたところで、公園に辿り着いた。並木公園、幼い頃によく咲良に連れられてきた公園だった
「懐かしいでしょ。小さい頃によく来たよね」
咲良は近くのブランコに腰掛けた
「嫌がってる勇人を家から引きずり出して、公園に連れてって、不機嫌だったからブランコに乗せて、後ろから押してあげたりしてさ」
「咲良の押す力が強すぎるせいで、いつも僕は落ちて、泣かされてたっけ」
あはは、と咲良は小さく笑う
「今度は勇人が押してよ、ブランコ」
咲良はどこか含みのある言い方をした。断る理由もなかったので、「いいよ」と返事をして、勇人は咲良の後ろ側に回った
「押すよ」
うん、と小さな咲良の頷きを確認してから、ゆっくりとブランコを揺らし始めた
夏の静けさが二人のためだけに用意されているようで、何だか気分が良かった。ブランコが振れる度にブランコの軋む音だけが規則的に流れていく
「何か私に言いたいことがあるんじゃないの」
突然の切り出しに、一瞬手が止まるが、再び勇人はブランコを揺らし続けた
「何でそう思うの?」
「んーなんとなくかな。ずーっと一緒にいるから、なんでかな。わかっちゃうんだ。言ったでしょ。勇人は私に隠しごとなんてできないんだよ」
「そういうもの?」
「そーゆーもの」
咲良は微笑した後に、「もう押さなくていいよ」と言った
ブランコを押す手を止めて、勇人は咲良の横のブランコに座った
「やっぱり咲良はすごいね」
敵わないな、と改めて感じた。今の関係から越えていこうという試みに相手から手を差し伸べられてしまうのだから
「勇人には私がそう見えるんだよね。知ってるよ。だからこそ、私は勇人を待ってる」
頭の下がった勇人の顔を咲良は顔を近づけて、下から覗き込んできた。咲良の見通すような眼差しが突き刺さり、勇人の心臓の鼓動が大きくなる。少しずつ、ゆっくりと勇人は言葉を紡いでいった
「咲良は花火大会終わったら何か予定はあるの?」
顔を離して、咲良は少し黙ってから答えた
「特にないかな、どうして?」
「よかったらその後、時間をくれないか」
声が上擦る。ちゃんと言えてるのか、伝わってるのか、勇人は不安になりつつも咲良の顔を見た
「ちゃんと言葉にしてくれなきゃ、やだよ」
咲良も勇人を見つめて、真剣な顔付きになった
緊張で手に汗を感じる。言わなきゃ。言わなきゃ、だって変われない。これからも咲良と一緒にいたいのなら、言葉にしなきゃだめだ
「デートをして下さい」
想いを吐き出すように、勇人は発した。さっきまで心地の良かった静寂も、心臓の鼓動が煩いせいで、静かなのかもよく分からなくなっていた。答えを待つ間が永遠に続いたのなら、きっと僕は死んでしまう気さえした
「いいよ」
静寂を待ち望んだ声が破った。僕はきっと呆けた顔をしていたのだろう。聞こえなかったのか、と思った咲良がもう一度言った
「いいよ、デートしてあげる」
現実かどうか分からなかったので、古典的な方法ではあるが、頬をつねった。どうやら現実らしい。それからのことは、記憶がふわふわしている。もう遅いから帰ろっか、という咲良の声掛けで、二人は別れ、それぞれの家路についた
帰るとまだルペは寝ていた。そっと部屋の電気を消して、勇人は横になった
「よっしゃ」
寝ながら小さく拳を握って喜んだ。そしていつの間にか眠っていた。幸せだった
次の日、咲良は学校に来なかった
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