第18話 約束は拘束か
志波 敦己は活発に外を駆け回ったりするような少年ではなかったが、聡明であり、母親に似て優しい弟だった
当時、父親は幼い頃に一度だけ顔を見たきりで、家族はほぼ母親の志波 沙也加と勇人と敦己の三人で暮らしていた
特別なことは何もなかったが、一緒にご飯を囲んだり、偶に咲良も遊びに来たりして、たわいもない出来事を語ったり、笑ったりした記憶が強く印象に残っていた
幸せとはこのとき過ごした時間のようなことをいうのだろうと勇人は感じていた
しかし幸せな日々は本当に長くは続かないものだ
生活が変わったのは、母親が病を患い入退院を繰り返すようになってからだった。勇人達二人は咲良の家の世話になったり、遠くから叔父、叔母が泊まり込みで面倒を見てもらっていた
母親の容体は見舞いに行く度に、芳しくないのは痩せ細った体付きや弱々しい笑顔から感じ取れた。どこかで自分の母親は死んでしまうという直感を受け止めて、同時に母親の見舞いに一度も顔を見せずにいる父親の存在に強い嫌悪を抱いた
担当医から母親の危篤を告げられたのは、ちょうど敦己の誕生日のことだった
「お母さんはもう寝るね。忘れないで。いつでもあなた達の事を愛しているから」
その言葉を最後に母親は息を引き取った
「おやすみ」
優しく母親に挨拶をして、敦己は足早に病室を出た
叔父達に敦己の様子を見てくると言ってその場を離れ、敦己を追いかけた
屋上で敦己は空を見ていた
敦己、と勇人は声をかける
勇人を見ずに、敦己は喋り始めた
「お兄ちゃん。今日は僕の誕生日だから、うなぎを食べるんだよ。そしたら、だってお母さんも嬉しくなってくれるよね」
別段、敦己は鰻が好きなわけではなかった。前に母親がみんなで鰻を食べるのが一番好きだ、という言葉を受けて、自分の好物と決めているようだった
「そうだな。一緒に食べにいこう」
目に涙を一杯に溜めた敦己が勇人の方に顔を向けた
「それから、お兄ちゃん」
「なんだ?」
涙をこぼさないようにするのが、敦己には精一杯だった
「もう泣いてもいい?」
「ああ、もういいよ」
次の瞬間、敦己は慟哭した
母親が床に伏せてから今まで、お母さんが生きている間は泣かないという約束を敦己としていた。理由は僕達が泣いていることを知ったら、お母さんが悲しむからだった
勇人も母親を想うと目が涙で滲んだが、敦己を見て、自分がしっかりしなければと涙を拭った
「敦己、また約束をしよう」
敦己の両肩を勇人は掴んだ
「僕達がお互いに勝手にいなくなるなのはなしだ。わかったか?」
溢れる大粒の涙や鼻水をぼたぼたと落としながら、敦己は何度も何度も頷いた
それから二週間後に、敦己は車に轢かれて死んだ
ご愛読ありがとうございます!
楽しんでもらえましたら、ブックマーク、評価の方を是非是非、励みになります
感想もどしどしお待ちしてます
今日はもう1話更新予定です!




