第14話 素直は美徳か
夕方になって、教室に残っているのは勇人と渡部の二人だけだった
勇人と渡部は机を向かい合わせにした状態で、花火大会のパンフ綴じ作業を行っていた
資料室から勇人が教室に着くと、事前にパンフレット用の紙の束が教卓の上に乗せられていた。話を聞くと、どうやら渡部が職員室から持ってきてくれたとのことだった
「志波がいなくなった後に、咲良もサボりで授業を早退したんだよ。それで咲良からパンフ綴じ作業の代わりを託されたという訳だ」
「そういうことか。でも僕がいなかったら一人でやるつもりだったのか」
少し黙り込んでから、渡部は笑った
「咲良が言ったんだよ。勇人は任された仕事をサボるような人じゃないから、学校の何処かにいるはずだ。多分、生徒会資料室にいるから、見つけて仕事を手伝ってあげてってさ。咲良は志波のことになると何でもお見通しなのな」
渡部は本当に可笑しいそうにしていた
「そっか。ありがとう」
渡部の態度を見て、幾分か心が軽くなったからか、自然と感謝の言葉が出た
「いいさ、気にすんなよ。俺も手伝うって言っただろ」
喋りながらも鮮やかな手際で、次々にパンフレットを完成させていく
「缶コーヒー二本買っといたから、喉乾いたら勝手に飲んでくれ。コーヒー飲めるか?」
「飲めるよ、ありがとう」
いい奴すぎるだろ、と勇人は叫びたくなるのを心の中で留めた。置いてあるコーヒーに手を伸ばして、ありがたく頂いた
しばらくパチリ、パチリとホッチキスを使う音だけが静けさの中にあった
「なあ、志波は」と渡部が口火を切った
「咲良のことが好きなのか」
質問に勇人は一瞬固まる
「渡部、デリカシーって知ってるか」
「なあ、どうなんだよ」
当人の彼氏が修学旅行の夜のノリみたいに話し掛けてくる
流石に冗談を言っているのだろうと察し、勇人は返した
「好きだっていったら?」
すると渡部は真剣そうに考え込んでから、顔を上げて勇人を見た
「ライバルだな、と思う」
渡部の顔から冗談の色は伺えなかった。本気で言っているのだと、ここでやっと勇人は理解した。と同時に腹が立った
「やめてくれ、そういうの僕は嫌いだ」
「なあ、志波。お前はどう思っているのかは分からないが、咲良はお前のこと…」
「いい加減にしろ」
勇人は渡部を思いっきり睨んだ
「僕をからかって楽しいか。更に僕を惨めに陥れないと気が済まないのか。どんな気持ちなら、そんな言葉が吐けるんだ。神経を疑うぞ」
再び二人の間には静寂が訪れる。黙々と一定のリズムを刻みながら作業を続けてから、渡部が口を開いた
「志波、俺と咲良は付き合っている」
勇人は黙ったままで何も答えない
「だけどそれはお前が咲良を好きにならない理由にはならない」
「無茶苦茶だ」
勇人は言葉を吐き捨てた
「世の中なんて、無茶苦茶なことだらけさ。それでも前向いて一歩一歩踏みしめた奴の勝ちなんだ。そういうふうに出来てるんだって爺ちゃんが言ってたぜ」
だからな、と渡部は続けた
「逃げるな。俺からも咲良からも。真正面からぶつかれよ。リスクテイクも過ぎれば臆病者だ。これも爺ちゃんの言葉だけどな」
さてと、と言って渡部は席を立つ
「今日の分はこれで終わりだ」
気付けば、勇人の分までの綴じ作業を渡部が終えていた
「じゃあ、帰るわ。ライバルと一緒に帰るほどに俺もお人好しじゃないからな」
お先に、と渡部は教室を出て行った
静まり返った教室に虚しさだけが残った
「うるさいんだよ、くそっ」
怒りに任せて、勇人は椅子を蹴った
誰もいない教室に鈍い音が響いたあと、すぐに消えた
「無茶苦茶だ」
言い訳をするように、そう一人口にした
ご愛読ありがとうございます!
よかったら感想どしどし
ブックマークと評価も是非是非
明日もよろしくお願いします!




