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僕とひと夏のルペ  作者: 高庭 千
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第9話 相性は拍子か

HR(ホームルーム)が終わったところで、咲良の席に勇人は目を向けると、普段どおりに取り巻き連中が咲良を囲っていた


防護壁を突破してまで、咲良に声を掛けるなんて勇気は持ち合わせていなかったので、先に教室を出てすぐ右手にあり、下へ降りれば職員室へと通じる階段の近くで一足先に待つことにした


ここなら、まず職員室への用事のある生徒くらいしか通らないので、目立たずに人を待つことができると勇人は考えたからだ


待つことしばらくの間、駆け足で咲良がやってきた


「一緒に行くって言ったのに」


咲良はふくれっ面をした


「言ってなかったし、聞いてもないよ。大体、こうして待ってる訳だし」


「そーゆー問題じゃないの」


咲良の機嫌の雲行きがあやしくなる


「これから一緒にパートナーとして花火スタッフをやっていく私達の間で、密接なコミュニケーションによる意思の疎通は不可欠でしょ。私は勇人と一緒に職員室に行くと思ってて、勇人は違った。それが問題だよ。分かる?」


逆らわないが吉だと悟った勇人は素直に非を認めた。すると満足したのか「わかればよろしい」とご機嫌そうに咲良は頷いた


「じゃあ、いこっか」


咲良は揚々と階段を降りていく。対して勇人はその後ろを少し億劫そうについていった


職員室に入ると、チサト先生は水泳部三年生の人と話していた


「おう、きたか。ちょっと待ってろな」


チサト先生は勇人達を一瞥すると、三年生にテキパキと今日の練習メニューを指示していた

指示が終わったのか、三年生がその場を去ろうとした時に、咲良が三年生に挨拶をした


「若宮先輩、おつかれさまです」


「本庄、おつかれ。今日の部活は来るの?」


「はい。チサト先生と花火大会スタッフの話を終えてから、向かいます」


「そっか、あんま無理しないようにね。休んだっていいんだよ」


「いえ、大丈夫です!」


「そうか、じゃあ待ってるよ」


若宮先輩はそう言い残すと颯爽と立ち去っていった

歩き方が綺麗で、勇人は若宮先輩に見惚れてしまっていた


「待たせたな」


チサト先生は立ち上がって、近くの空いてるソファーへ誘導したのだが


「お、折角だ。小うるさい教頭も出張みたいだし、お飾り応接室使ってやれ。こうやっていうと教頭は怒るんだけどな」


がはは、と口を大きく開けて笑ったあと、チサト先生は勇人達を奥の応接室へと連れ込んだ


「折角だ。教頭の持ってるお茶菓子出すから、大人しく座ってろよー」


さっきから”折角”のせいで、教頭先生へのフラストレーションをここぞとばかりにぶつけまくっているチサト先生の目はギラギラしていたが、反撃はそう長く続かなかった


「結城先生!大変です。教頭先生がお帰りになりました」


ちょうどチサト先生が勇人達二人にお茶を配り終えたところで、大きな丸渕眼鏡が特徴的である家庭科の小谷先生が警鐘を鳴らした


「なんだって!?ありがと、小谷ちゃん」


チサト先生は勇人達の方にぐるりと首を巡らせた


「聞いたか?お前ら各々のお茶は自分で持て、私はお菓子を守る。話はそれからだ。応接室から出るぞ、退却だ!」


職員室中が笑いに包まれていた

勇人も咲良も目を丸くしたまま、黙ってチサト先生についていく。それから咲良がクスッと微笑したのを見て、勇人も顔が綻んだ


まったく僕たちの先生は本当に愉しい人だ、と二人は思った


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