情報収集
「えーっと気を取り直して。今いる人はこれくらいか。さてと神月、携帯はどうだ? おやっさん、電話で外に連絡は取れないかな。相田さん、テレビをつけてくれないか」
「判った。テレビテレビっと。
そういえば鋼くん、だっけか。君は携帯電話持っていないのかい?」
相田が自分の携帯電話を開いてどこかへ電話をかけながらテレビの電源を入れる。
俺は苦笑いをして答える。
俺の家は道場をやっているからというわけじゃないけど、ガチガチの古い考えで親父はまだ俺に携帯を買ってくれない。それどころかうちの電話はダイヤル式の黒電話だ。道場の生徒さんが電話を借りようとして使い方がわからないなんてこともあった。
ようやく体操コーチのバイトで貯めた金で買えるかどうかといったところだったのにな。
「流石にテレビはやってるか」
いくつかチャンネルを回してみるが、どこもテロップが流れているくらいで平常運転。
夕方の情報番組やアニメの再放送、テレビ通販が映っている。
テロップには、怪我人が多数出ている話と病院で治療しているという話くらい。
事故が起きたのではないかということだが、どの局も原因は不明としていた。
この商店街で起きていることはまったくと言って話題に上っていない。
「あーっ!」
突然の神月の悲鳴に、その場にいた全員に緊張が走った。
「鉄心聞いてよ。アプリは立ち上がるのにサーバーと通信できませんだって!」
涙声で訴える神月。
「何かと思えばそんなことか。今はそれどころじゃねえだろ」
「こっちだってそれどころじゃないよ! 今回のレイドは神更新だったから課金しまくったのに! サーバーダウンとか運営詫び石はよ!」
「ちょっと、なにバカなことを言ってんのよ。ゲームどころか他のサイト行ってみなさいよ」
「え、うん」
江楠に指摘されて神月がスマートフォンのブラウザを立ち上げる。
「あ、ポータルが開かない。タイムアウトエラーだって」
「なんだ神月、どう言うことだ」
「あのね鉄心、電波は生きているんだけどネットが使えないみたいなんだ」
「んーと、俺、よくわかんねえけど、お前のケータイ使えねえってことか?」
「私のもそうなんだよ」
相田が自分の携帯電話を見せる。
電波は立っているけど検索サイトもポータルサイトも表示されない。
「基地局は通電しているのでしょうけど、そこから先のネットワークが死んでるんでしょうね。
通話も混み合ってるとかでちっともかからないし」
江楠も補足するように説明してくれた。
「家族どころか誰にも連絡できないんだ。会社に連絡しなきゃならなかったのに」
「こんな時に会社も仕事もないですよねえ。おいちゃんは自主休暇だよん」
相田の言葉に重森がおどけてみせる。
「私のは圏外。キャリアがみんなとは違うから?」
宮野に言われて確認してみる。確かに通信事業者が違うようだが、こうなるとアンテナが立っていようがいまいが不通という事実は変わらない。
「店の電話も通じないし、外との連絡手段は無いか」
おやっさんが店舗の電話を確認してくれたが結果は言葉通り。
「言いたくはないけど警察に連絡する手段は今の所無いって事だな」
俺の言葉はこの場の全員の背筋を寒くさせる事には成功したらしいが、なんら前向きな事ではないし。言って後悔した。
「だから籠城なんていうから」
「いまさら蒸し返すなよ。言葉尻なんか捕らえてねえでこれからどうしたらいいか考えようぜ」
江楠には過剰に反応しない方がいい。面倒くさいだけだ。
「ネットが駄目だとするとSNSも使えないのかな。テレビの情報を見ている限りじゃ外に情報が伝わっているようにも思えないし」
神月は喋りながらも食い入るようにテレビのテロップを追っている。
「逆に言えば、外はまだ平和で安全だということだよね? 警察だって消防署だって警官や救急隊員がこの商店街に行ったっきり帰ってこないんだし……」
神月の言うことはもっともだ。
確かにテレビが報じている内容はこの惨状を伝えていない。
とはいえ隊員たちが戻ってこなくなってからそれなりに時間が経つ。
音信不通ともなれば応援に駆けつけることだってあるだろう。
「でもねえ、テレビはことが起きてからじゃないと報道できないし、今はまだ病院で怪我人が多いなあくらいしか思われていないんじゃないかなあ?」
重森ののんびりとした発言は、かえって店内の空気を緊張に包む。
安心させようとしたなら逆効果だったな。
ほれ。相変わらず、亜美は宮野のシャツを離そうとしない。
「なんにしても、外に出るかどうかを決めなくちゃならないだろうな」
俺は全員の顔を見て、これからどうしたいかを口にする。