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にらみ合い

 俺は店のドアに近づいていく。


「大丈夫かい鉄心ちゃん」

「平気だよおっちゃん。ちょっと様子を見るだけだよ」


 そうは言ったものの、シャッターを閉めちまうと窓からは何も見えない。

 ドアが外から開かないように置いたストレッチャー越しに、入り口ドアののぞき穴(ドアスコープ)から外をうかがう。


「うわぁ……」


 商店街は廃墟と化していた。


 ワゴンや店頭の商品はひっくり返されて、買い物かごや日用品や雑貨、野菜や果物なんかがバラバラに散らばっている。

 窓ガラスは割られ、看板は倒れ、そこかしこにべっとりと血飛沫ちしぶきの跡が。

 どこかの店からは煙が上がっていたりもした。


 そして当たり前のように転がる死体。

 中にはよく行く店のエプロンの姿や俺の高校の制服もちらほら見える。


 幼稚園児の黄色い帽子が踏みつけられて転がっていた。


 うろうろと行きかう者は全て血まみれの死者どもだ。

 たまに人だかりがあると思えば、そこには人間に群がるゾンビたちの集団。


「こりゃひでえ。もう映画の世界だな……」


 おやっさんに言われたあたりを見ると、首を振るカエルの置き物が割れて倒れていた。

 調剤もやっているドラッグストア。

 見える範囲では窓ガラスは割られていないようだ。


「薬局は……少し距離があるな」


「ガアッ!」


 のぞき窓の向こうにゾンビの濁った眼が突然現れた。

 ドガンとドアにぶつかる音。


 ドアのこちら側に何かを感じたとでもいうのか。

 のぞき窓は外から見えないようにレンズが入っているはずだが。

 音か? 匂いか?


 息を殺してドアののぞき窓を挟んだにらめっこが続く。


「グア、アグ……」


 ゾンビがドアから顔を遠ざけて後ろに下がる。


「こいつ……」


 下がったことで顔がよく見える。

 そいつの頭は丸刈りで野球部の練習着姿だった。


 左胸に書かれた名前で誰だか判った。


「山上……か」


 津川と仲のよかった山上。俺とはクラスが違うが、休み時間にしょっちゅう俺の教室へやってきては津川とつるんでいた。

 その津川も遠くでよくわからないが、頭を撃ち抜かれたまま放置されている状態なんだろうな。


 山上だったゾンビは、どこかへふらふらと歩き去っていく。

 もしかして、こんな姿になっても津川のことを探していたりするんだろうか。


「大丈夫か」

「うひゃっ!」


 急に肩を叩かれてとんでもない声を出してしまった。


「お、脅かすかフツー」

「悪い悪い。でどうだったのさ」


 神月がいつの間にか俺の背後に立っていたわけだ。


「どうもこうも、もう外はやつらだらけだよ。薬局の場所は判ったけどあそこに行くのは厳しいぜ」

「やっぱりか……」

「こういう時どうしたらいいかゾンビ研究家の知恵を拝借はいしゃくしたいものだな」

「そんなんじゃないよ。ただ映画とかアニメでゾンビ物が好きだってだけで」


 俺は神月の肩に腕をまわして顔を近づける。


「お前の知ってるゾンビってのと今とじゃどう違うんだ?」

「ど、どうって、ほとんど一緒だよ。痛みを感じないでほとんど不死身。身体や手足を攻撃してもひるみもしないのに頭を破壊されると活動を停止する。

 それに人に襲いかかってくる」

「そして噛まれたら感染する……」

「鉄心……」


 大きくため息をつく。


「いいんだ。どうせ感染してもゾンビになるのは死んでからだろう? だったら死ななきゃいいんだ」

「そうだけどさ、感染したら体力がどんどん奪われて衰弱しちゃうのがお約束だよ」

「そんなやわな鍛え方はしてねえよ。こればっかりは道場やってる親父に感謝、だな」


 そうだ、死ななきゃいいんだ。

 そう俺は自分に言い聞かせた。

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