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駆け引き

「すごい力じゃないか!」


 いきなり割って入ってきたのは店の入り口で腕を組んで仁王におう立ちしている男だ。


「戦力としては申し分ない」


 俺を見下すような視線。

 いきなり登場してきて威圧するような態度。

 数人の男たちが店に入ってきて銃口を俺に向ける。


「誰だよあんた」

「私かい? 私は恐屍隊こわしたいのリーダー、山崎だ。よろしくなゾンビくん」


 カチンとくるなその言い方。


「言っちゃあなんだけど俺はゾンビじゃねえぞ。意識や感情だってちゃんとあるんだ。あんまりバカにしてっと怪我だけじゃ済まないぜ」

「おう怖い怖い。だがなゾンビくん、君だって無敵ってわけじゃない。私たちが一斉に攻撃したら君たちだって無事では済むまい?」


 山崎があごをしゃくる。その先には有希音と江楠がいた。


「そうかもしれねえがお前の命くらいは道連れにできる自信はあるぜ」

「できるかね」

「やってみるか」


 山崎は右手を横に払う。学校の朝礼とかで休めの指示をする教師みたいなモーションだ。

 男たちはそれを見て俺に向けていた銃口を下げる。


「やめておこう。組織のリーダーたるもの危険を冒す必要はない。君たちも命拾いしたな」

「お互い様だ」


 山崎は懐から銃を抜く。


 ガァン!


「鋼くん!」


 有希音ゆきねの悲鳴。

 俺の横で奈美絵の頭が弾け飛ぶ。


 俺の顔に返り血が付いた。


「大丈夫だよ有希音」


 正直、やつの早撃ちは見切っていたが、ここで手の内をさらすこともないだろう。

 山崎は曲者くせものだ。

 平気な顔をして奈美絵の頭を吹き飛ばしやがった。


 俺の顔に付いた奈美絵の血を親指でぬぐってめる。


 うまみが増していた。


「そこでだ。君たちをこのまま一緒にっていうわけにはどうも行かないようだね。本当ならゾンビになるようなやつはコミュニティには不要な存在、それどころか排除はいじょすべき害悪がいあくなんだよ」

「争い事は好まないとでも?」

「察しがいいねえ。その通りだ。ある程度なら必要な物資は供与しよう。円満に解決しようじゃないか」


 俺は有希音と江楠の顔を見る。


「あんた、またゾンビの群れの中に行こうって言うの。それよりもここで協力して……」

「お前らしくないな江楠。自分を嫌っているやつに尻尾を振ってまで安全を買いたいか」

「死ぬよりはマシでしょ。私は反対よ。死ぬのが判ってて外に行くなんて嫌よ」


 この人間たちの中で生きることを選ぶというのか。


「江楠さん、私は鋼くんと一緒に行くわ。私を見る彼らの目はもうさっきまでのものとは違う」


 そうなんだよな。

 死者を見るようなおびえた視線。敵を見るような怒りの視線。失われた仲間の仇とでも言うような恨みの視線。

 そんないろいろな負の感情が入り乱れた視線が俺たちを突き刺す。


 既にそれは一緒にバリケードを築いたという戦友のそれではなかった。


「大丈夫だ江楠。ここまで来たら俺がなんとかする。どこか小さな家でも占拠して出入り口を押さえておけば俺たちならなんとかできるさ」


 可能性でしかなく確実な話は何もないが。

 奴隷どれい以下の扱いかすぐに訪れる死しかない状況より、少しでも生きる可能性を自分で作っていきたい。


「はぁ。あんたはいっつも強引だけど私も覚悟ができたわ。そこまで言うなら付き合ってあげるわよ」

「決まりだな。俺たちはここを出て行く。その後はそれぞれの好きにすればいい」


 俺は自分の荷物をまとめると、適当に近くにあった機材も詰める。

 食料や水は一日分もあればいいだろう。まだ外の世界にはいっぱいあるだろうからな、手付かずの物が。


「じゃあ、こんなところはとっととおさらばするかね」


 俺は手にした鉄柱をブンブンと振り回す。


「さあ! 勇者たちのお通りだよ。みんな道を開けて」


 大げさに山崎が手を広げて床屋の入り口を開く。

 その中を俺たち三人が進んでいった。


「ん? どうした」


 なんだか二階が騒がしい。それに外も。


「ゾンビが、ゾンビどもが!」


 男が二階から転がるように下りてきた。

 そしてその後からゆっくりと歩いてくるのは、何体ものゾンビ。

 外を見ると、屋上からゾンビが降ってくる。実際足を踏み外したりして落ちてきていた。


「屋上に、ゾンビどもがうじゃうじゃしているぞ……」


 俺のつぶやきはあながち間違いではなかった。

 かなりの数のゾンビが、屋上を行き来していたのだ。


「一階の出入り口は押さえてるんだろうな」


 俺が近くにいる男に聴く。さっきまで俺に敵意を向けていたやつらだが急なことだったからかそこは素直に返事をした。


「バリケードの内側は完璧だ。屋上自体もはしごは使えないから……」

「おいおい、普通に階段を上がるのはできるだろう? バリケードの外の建物までは入り口押さえてないのか。それともなにか、階段を上がれないとでも思っていたのか。だいたい屋上を渡れないようにしていないとか……」


 男たちは困惑する。

 渡れるまんまかよ。渡り板はそのままだったらゾンビだって何体かは渡れる。バリケードの外の建物に侵入、階段を使って屋上まで行って足が届けば平気で屋上を渡ってくるし、アーケードの屋根をぶち破って落ちてもそれがバリケードの内側だったりしたら結果は同じ。


 バリケードの中にゾンビがなだれ込むということだ。

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