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蟻の戦力

「ぎゃあぁっ!」


 大きな爆発音と炎が弾ける。

 銃が暴発した男は破片が顔に突き刺さっていてその場でもだえ苦しむ。


 そこにゾンビが集まりだす。


「くそっ、させるかよっ!」


 俺が鉄柱を振り回してゾンビどもをぎ払っていくが、あと一歩というところで悲鳴が別のものに変わった。


 暴発で怪我をした程度だったら、痛みをこらえて助かる可能性がある。

 まだ余裕がある悲鳴だった。

 それが一変する。


 生きたまま喰われる時の悲鳴だ。


 首筋に食いつかれ、腹をひっかきまわされる。

 内臓が力ずくで引きずり出されてゾンビどもの口へ運ばれていく。

 食事にありつけないゾンビは次々と生贄いけにえの身体に覆いかぶさる。


「バリケード! 今のうちに網を張れ! 柱に結び付けろ!」


 大前田が声を張った。

 俺が金網の外に出てゾンビどもを牽制けんせいする。


 既に正面左側の金網はアーケードの門に縛り付けられた。

 建物と建物の隙間とまではいかないが、アーケードの門と建物の間は子供がやっと通れる程度しかない。

 ゾンビは手を伸ばしてくるが、その隙間を抜けてくるやつはいなかった。

 そしてその隙間もタンスを押し付けて入れないようにして、下には転倒防止の土嚢どのうを積み上げていく。


 暴発した男に群がっていたゾンビどもはあらかた男を食い尽くしたのか、徐々にその包囲の輪をほどいていく。


 金網が張られている場所に寄ってくるゾンビは、内側から江楠えくすや銃を持った男たちが追い払う。

 まだエリアの内側にいるゾンビは有希音が踏み潰していた。


「最後!」


 右端に金網が届く。

 金属のワイヤーで柱に結び付ける。


 これで商店街の駅側入り口付近には金網の壁がかれ、ゾンビどもの侵入を防げるようになった。


「鋼くん!」


 有希音が金網の内側から叫ぶ。


 生きて外側にいるのは俺だけだ。

 脱出ルートにしていた脚立きゃたつを見つける。

 これを使うと建物の二階へ上がれるというわけだ。

 後はベランダ伝いに金網の内側へ戻ればいい。


 ただ問題なのが、そこまでにたむろするゾンビども。


 どこから持ってきたのか、物干し竿の先を斜めに切った槍を使って有希音が金網越しにゾンビを突き刺し、突き飛ばして俺の逃走路を確保してくれていた。


 他にも援護射撃で助けてくれる男たちが次々とゾンビを狙い撃つ。


 江楠は金網の内側から建物の二階に上がり脚立きゃたつを押さえてフォローしてくれる。


「こりゃあ無事に戻らねえとなに言われるか判ったもんじゃないな」

「ほんとよ。早く戻ってらっしゃいよ」


 俺は有希音に苦笑を投げかけると、江楠の待つ脚立へ向かっていった。


 途中邪魔をするゾンビは鉄柱のさびにしてくれよう。


 手前のやつから頭を叩き割り、次に目の前にいるやつの脚を払って倒れたところで頭に蹴りを入れる。

 右から寄ってくる手は有希音が突き刺して軌道きどうを変えてくれた。

 俺はその隙間をすり抜ける。

 転がっているゾンビをまたいで越えて、脚にすがりついてくるやつを振り払う。


 さながら障害物競走の選手にでもなった気分だ。

 失敗したらそこでゲームオーバー。死の障害物競走だけどな。


「よしつかんだ!」


 俺が脚立をつかみ、脚をかける。


 追いすがってくるゾンビは後ろ蹴りで吹き飛ばす。

 有希音たちがおとりになって金網にゾンビどもを寄せ付ける。おかげで俺のところに向かってくる数が少なくなった。


「このまま一気に来なさいよ!」


 二階のベランダから江楠が叫ぶ。

 簡単に行けたら行ってるってえの。


 ゾンビの肩を蹴飛ばし頭を踏みつけ脚立きゃたつをよじ登る。


 俺を喰えなかったゾンビどもが悔しいかどうかはともかく、もう届かないのに手を伸ばして俺をつかもうとしていた。


「確かに脚立に上がってくるやつはいないな」


 ある程度距離を開けたところで下を見る。


 群がるゾンビは次々と改造銃の餌食えじきになっていく。

 こいつらも、昨日の昼頃までは平和な生活を送っていたんだろうけどな……。


「おおう!」


 通りの向こうで勝ちどきが聞こえてきた。


 どうやら反対側もバリケードが築けたようだな。


「これで少しは一息ついてもいいよな」


 俺はベランダに乗り移ると、隣にいた江楠に話しかける。


「どうだか。安心して休めるかなんて判らないでしょ」

「そうか? 心配のし過ぎかもしれないぜ」


 バリケードの内側を見下ろすと、恐屍隊こわしたいの連中が俺たちに手を振って歓声を上げていた。

 俺もそれに応えるように手を振る。


「ふん、英雄気取りなんてあんたのがらじゃないでしょ」

「ああそうかもな。お前がいてくれたからこうして生きて戻れたんだ。助かったよ」

「ばっ、バッカじゃないの! あんたがやられて戦力が減ったら困るから……」

「そっか。一応俺も戦力として数えてくれているんだな」

「ち、ちがっ、あんたの戦力なんてね、ありが一〇匹程度ってことよ」


 そういう割には恥ずかしそうに顔を赤らめている。


 蟻が一〇匹、か。

 小学生の駄洒落並みのお礼のつもりかな。


「うん、どういたしまして」

「なによっ、そんなこと言われるようなこと言ってないんだからねっ」

「はいはい」


 苦笑する俺の背中を叩きながら、ベランダ伝いにバリケードの内側へ戻っていく。

 この建物は既に中を探索してゾンビがいないことを確認しているようなので、ベランダから部屋に入って一階へ下りる。


 バリケードの内側は恐屍隊こわしたいの連中が笑顔で待っていた。


「お疲れ様、鋼くん、江楠さん」


 有希音が俺たちを迎えてくれる。


「怪我はない?」

「ああ大丈夫だ」

「こいつは怪我くらいじゃ死なないわよ」

「ふふっ、そうかもね」


 俺たちは冗談を交わしながら、お互いに寄り添い合ってその場にへたり込んだ。

 ようやく、疲れていたことに気付いたのかもしれない。


「ああ、そういえば今までぶっ通しだったもんな……」


 力が抜けて、徐々に眠気が襲ってきた。


 そこへ大前田が歩いてくる。


「鋼くんたちありがとう、礼を言うよ。お疲れだよね、休めるところへ案内しよう」

「大前田さん助かるよ。できたらベッドか布団があるところがいいな」

「うん、そこの建物の二階に寝室があった。その部屋を使うといいさ」

「そっか。じゃあそこはこの二人で使わせてもらうから。俺はもう、そこらへんでいいや……」


 そこまで言うと、俺はその場で横になった。


 アスファルトの地面がほほに冷たくて気持ちがいい。


 少し、休ませてもらおう。


 そして俺の意識は睡魔すいままれていった。

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