改造銃
男たちが本屋の一階へ下りていく。
人が少なくなってきているところで、大前田が俺たちのところへ寄ってきた。
「腹は減ってないかい」
「いや特に」
「そうか。君たちに頼みたいのはね、遊撃部隊なんだ」
「遊撃部隊? 好き勝手に戦ってりゃいいのか」
「まあそういうことになるけど、どこに行っても最前線だ。とにかくバリケードの構築を邪魔するやつらを排除してもらいたい」
手当たり次第かよ。
ただ、さっきの逃避行と違って、ターゲットが俺たち以外に分散するのはやりやすくなるかもな。こっちも準備やらローテーションが組めるから。
「武器はどうなる。俺たちが使える物をくれるのか。自動小銃とかあるようだけどさ」
そう言われて大前田は少し困った顔をする。
「バットやハンマー、斧とかならそこにある物を使ってくれて構わない。ただ、飛び道具は無しだ」
大前田が顎で示す先には無造作に置かれた鈍器が転がっている。
いくつかの物には血の跡もこびりついていた。
「こりゃどうも」
俺がそっけない返事をすると、大前田は階段を下っていった。
「あんたちょっといい?」
男たちがいなくなったところを見計らって江楠が俺に呼びかける。
「どうした神様、信者でもできて嬉しいか」
俺の言葉を聞いて江楠は俺の脛を蹴とばす。
「ってぇ、なんだよ」
「静かに。いい? さっき玉木っていう中学生と話をしたんだけど」
「ああ」
「あれ、やっぱりモデルガンよ」
えっ、そうなのか? おかしいと思ったんだよな、この国で銃がゴロゴロしているなんてさ。
でも一応表向きは知ったかぶりをしておこう。
「そ、そりゃあそうだろう。この国であれだけの銃があるわけないだろう」
「それもそうだけど、アサヒっていう単語に釣られたのよ」
「なんだそれ」
「モデルガンメーカーよ。正規の銃じゃなくておもちゃの部類」
なんだよ、だったらそんなにビビることはなかったんじゃ。
「でも銃刀法に引っかかるような改造銃だったら、十分殺傷能力はあるわ」
ダメじゃん! どっちにしても撃たれたら死ぬじゃん。
「まあそれがいいのか悪いのか。ゾンビ相手に役立つ武器だったら飛び道具は有利だよな。それこそ映画みたいにさ」
自分で言ってて納得するけど、確かにそれだけの攻撃力があるならおもちゃだろうが本物だろうが結果としては同じだ。
「そうね。壊れたり暴発したりしなければね」
それもあるのか。大前田が銃を渡そうとしなかった理由は。
不慣れなやつが触ったら壊すんじゃないかって。
「本当のところは自分たちが自分用にカスタマイズしたっていう可能性もあるけど。仲間内でこっそり改造銃を持っていた、とかね」
ああ。俺の銃は誰にも貸さねえぞ、っていうことなのかな。
そういう気持ちなら解らないでもない。
「だとしたら元々ヤバい連中だったのかもな。サバゲーマーの風上にも置けない連中が集まってこんなグループ作っているんだからさ」
「推測でしかないけど、鬱屈した思いがこの状況で爆発したのかもしれないわね」
「変に選民思想なんか出てこないことを祈るよ」
荷物を降ろして元々持っていた鉄柱をつかむ。
俺は物騒な考えは捨てて物騒な物を手にするというわけだ。
江楠と有希音も何やら物色していたが、江楠は自分の持っていた手斧を使うようで、有希音は何も持たずに一階へ向かった。
「有希音、素手で大丈夫か」
「うん、まあいっかって思って」
「いいのかよ。心配というか不安だな」
「そう?」
特に気にするでもなく、有希音は手ぶらで本屋の外を見る。
既に突撃部隊は戦闘を開始していて、バリケード構築部隊も本屋から出ようとしていたところだった。
バリケードの第一弾は、ホームセンターで売っているような金網のロール。
支えがあれば広げるだけでも簡単には突破できなくなる。ゾンビ相手にはそれでもかなり効果がありそうだ。
端を商店街の入り口にあるアーケードの門にでもつなげれば、簡易的なバリケードの一丁上がり。
その後に本棚や商品棚を重ねて置くことで、それなりに強度も保てる壁ができる。
そして陣地ができたらその先にまた壁を造って手前の壁は撤去して使いまわす。
段々と空間を広げようという考えだ。
建物と建物の間は人が通れるサイズではなく、建物自体が大きな壁の役目を果たしている。
建物の出入り口を確保してアーケードの通路さえ押さえてしまえば、そこは安全地帯と言ってもいい。
「俺たちも援護するか」
雄叫びを上げて店から出て行く連中に合わせて俺も店を出る。
俺たちの役目は壁ができるまでの防衛。損な役回りだが壁の外で戦って壁ができたら用意されている脚立で建物の上を通って脱出する計画だ。
「戦って逃げるのは一度やったことだからな。縄ばしごよりは使いやすいだろうし」
パスパスと空気銃の音がする。
実際の銃の発射音なんて聞いたことはないけど火薬が爆発するような派手な音ではないくせに、撃たれたゾンビは肉が飛び散り、額にでも当たれば後頭部が吹き飛ぶ威力だ。
その向こうではウィータタタタタッ、と連射の音も聞こえてきた。
「電動ガンもあるみたいだけど、撃ち出しているのはBB弾じゃないわね」
転がってきた弾を江楠が拾う。
金属製の弾だ。
「これがあれだけの威力で出せるんだから、改造も改造、違法どころの物じゃないわ」
「なかなか怖えな。もうおもちゃってレベルじゃねえよ」
さっきはそんな物を向けられていたのかと思うとぞっとする。
平和な国と言われていたのに、こんなのを隠し持っているやつがこれだけいたなんてな。
「俺たちは俺たちで近寄ってくるやつをなんとか蹴散らすか」
「そうね」
駅側にあるアーケードの入り口へ向かうと、商店街の外からもゾンビどもが押し寄せてくるのが見えた。
動きの遅いゾンビ相手とはいえ、ここまででこちら側の被害は出ていないようだ。こちらの戦力もなかなかのものと言えるのかな。
「とっとと壁を造るぞ!」
大前田がバリケード部隊に加わり発破をかける。
俺は近寄るゾンビの頭を鉄柱で吹き飛ばしながら、バリケード部隊の邪魔をさせないように蹴散らしていく。
俺たちの他にも何人かが援護部隊としてゾンビを倒してくれていて、その中には改造銃を持ったやつもちらほらいる。
「金網の中から狙い撃ちにすればいいのにな。そうすりゃ俺たちが壁の外で戦う必要もないのに」
そこまでは銃を持っているやつがいないのだろう。
肉弾戦でゾンビに立ち向かっていくやつも少なくはない。
江楠は金網につかみかかろうとするゾンビの腕を切り落とし、返す勢いで首を刎ねる。
有希音はとにかく近寄ってくるゾンビを蹴り倒しては頭を踏み潰していく。
俺がゾンビの頭を鉄柱で突き刺していた時、俺の隣にいた男が持っていた銃が爆発した。




