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バリケード作戦

 男たちが三人。


 屋上から建物の中に入るための階段に続くドア。

 その開け放たれたドアの向こうには自動小銃を構えた男たち。

 服装はバラバラだが、都市型迷彩のジャケットや防弾ベストみたいなものを着込んでいた。


「なっ、てめえなんのつもりだ!」


 俺は有希音たちにの前に立つ。少しでも弾除けになるためだ。

 そしてゆっくりと、背負っていたスポーツバッグの脇のベルトにくくり付けていた鉄柱を取る。


「待ってくれ、この人たちはゾンビじゃない」


 大前田おおまえだがフォローを入れる。


「本当かい大前田さん」


 銃を構えた三人の中でも特にいかつい男が質問する。


「ああ、ちゃんと意識もあるし人を襲ったりしない。なによりゾンビを前にしてひるまずに戦っている姿をこの目で見たんだよ。これは貴重な戦力になるよ」


 その言葉を聞くと男たちは銃を下げた。


「そういうことだったら。済まなかったな」

「いや、判ってもらえて嬉しいよ」


 俺も鉄柱を背中のバッグにくくり付けなおす。


「失礼だが、そちらのお嬢さん……髪をまとめている、そう君だ」


 いかつい男はポニーテールの有希音を見る。


「失礼だがゾンビみたいに見えたんでな。それと君たちも目が青いじゃないか。それはカラコンかい」

「初対面の対手に銃を向けるわずけずけ言うわ、ちっと失礼じゃないか」


 いかつい男の言葉に俺はカチンと来た。


「いいよ鋼くん。ほら私って色白で不健康そうだから……」


 俺を気遣きづかふうよそおってしっかりアピールしてやがる。有希音の状況判断と頭の回転は大したもんだな。


「いやあすまんすまん、俺らも命がかかってるんでね。生き延びたかったら疑わしきは殺せ(・・)ってさ」


 男は銃を大袈裟おおげさに示してみせる。

 いかつい男の視線が肉食獣のそれに見えた。


「こんな時だ。知らない連中には警戒して当然だな」

「理解が速いな。俺は小杉。恐屍隊こわしたいのリーダーだ」

「俺ははがね。こっちは江楠えくす鈴本すずもと

「どうも」

「よろしくです」

「ほう、鈴本さんかあ。さっきは銃を向けて悪かったね。素敵なお嬢さんたちが仲間になってくれたら嬉しいよ」


 小杉が有希音ゆきねを見る表情は、戦力が増えたというだけではない別の意味での喜びも感じられた。


 有希音ゆきねの貞操は俺が守る、なんて。

 柄にもないことを考えてしまう。


 表面上、俺たちは和解した感じにはなった。


 俺たちはいかつい男、小杉の後について階段を下っていく。


「ここが俺たち恐屍隊こわしたいのアジトだ」


 そこには本屋の二階、たくさんの本が並んでいただろう本棚はどかされて広い空間が確保されていた。


 ざっと見ても男たちが七、八人。

 自動小銃や拳銃、ナイフ。それぞれ思い思いの武器を手にしている。

 軍服のようなものを着ていたり、迷彩服を着ていたりして、統一感はないがどこかの傭兵部隊みたいにも見える。


「すげえ武装だな。だいたい銃なんてどうやって手に入れたんだよ」

「はっはっは。鋼くんと言ったっけ。君は好奇心旺盛だねえ」


 小杉が俺の背中をスポーツバッグ越しに叩く。


「余計なことに踏み込むと痛い目見るよ」


 俺の耳元でそうささやく。


 なんだこいつら。裏社会とでもつながりがあるっていうのか。

 ここは地方都市でチンケなヤクザが少し幅を利かせているっていう話は聞いたことがあるけど、所詮しょせんチンピラに毛の生えた程度らしい。

 拳銃ならともかく、自動小銃やあそこに座っているガキが持っているのはスナイパーライフルか。そんな物まで持てるような力はないはずだ。


「それ、M700?」


 江楠えくすがスナイパーライフルを持った少年に語りかける。


「お姉さん惜しい! これはM40なんだよねー」

「アサヒの?」

「お、詳しいじゃん。俺玉木(たまき)紘一こういち、中二」

「私、江楠えくす牧奈まきな、高二よ。よろしく」

「お姉さん機械の天才じゃないですか」

「え、どういうこと」

「デウス・エクス・マキナ、機械仕掛けの神ですよ!」

「そうなの? そりゃあ私は工業科だけど……」

「機械で物事を解決に至らせる、そんな力を持った神のこと。うわあ、かっこいいなあ」


 名前だけでそう思えるものなのか、それとも単なるリアル厨二病の中学二年なのか。

 たいだいデウスなんとかってなんだ。江楠だって困惑顔こんわくがおだ。


「よろしくお願いします、牧奈先輩っ!」


 少年、玉木は江楠えくすに深々と礼をする。

 名は体を表すなんて言うけど、江楠って確かに機械に強いところあるからな。

 それにしてもこの反応はちょっと行き過ぎな感じもするけど。


「みんなちょっと聴いてくれ」


 小杉がその場にいた面々に声をかける。


「かねてより計画していたバリケード作戦をついに実行へ移す」


 男たちから歓声が上がった。


「偵察に行っていた大前田さんが計画になかった援軍を連れてきてくれた。紹介しよう」


 小杉が俺たちを手招きする。


「彼らはゾンビの群れを突破する力と勇気を兼ね備えている。さあみんなに自己紹介を」


 小杉のやつは勝手に話を進めているが、まあいいだろう。


「俺は鋼。ゾンビの群れからでも生き残ってきた。あとこいつらは鈴本と江楠。よろしく」


 有希音ゆきねたちを見た男たちから口笛や歓声が上がる。

 そこへ大前田が一言入れた。


「彼女たちもゾンビ相手に一歩も引かない根性の座った戦士だから、余計な手出しをするとゾンビより怖いかもよ」


 男たちからの笑い声。


「ということでだ鋼くん。君たちにはいきなりで悪いが俺たちの作戦に参加してもらいたい。

 もちろんチームという形での参加は難しいだろうから、遊撃部隊としての活躍をお願いしたいんだ」

「なんだ、本当にいきなりだな。で、あんたたちは何がしたいんだ」


 俺の質問に小杉が自分のあごに手を当てる。


「この地域をバリケードで囲む。その手伝いをしてほしい」

「バリケード?」

「そうだ。皆にも今一度確認のために伝えよう。

 今の状況はかなりひどい。かなりまずい。だがこの本屋もそうだがゾンビどもを寄せ付けない方法はいくらでもある。安全地帯は作れる」


 男たちの目がキラキラと輝く。

 興奮した顔を小杉に向ける。


「だからだ。家と家、店と店を安全な壁で囲って行き来することができるようにすれば、俺たちの活動圏も広げることができるんだ」


「おう」


「ゾンビの襲撃しゅうげきおびえないように過ごせるエリアを拡大させるんだ。食料を取りに行くにも命を賭ける必要がないように」


「おう!」


「この本屋は商店街の端に近い。アーケードの入り口を封鎖ふうさしてこの本屋の正面の店までバリケードをきずき、あとは内側にあたる建物の出入り口を確保できれば安全地帯ができる。

 商店街の駅側四件が俺たちのテリトリーとして確保されたことになる」


 なるほどな。考え方としては簡単だ。

 出入り口を塞いでその中にいるゾンビどもを全て倒してしまえば、そのエリアは安全になるっていうことだ。


 それを一件レベルじゃなくて、数件の建物レベルでやろうっていうことだな。


「逃げ回っていた頃の俺たちでは組織的な反攻も難しかったが、これからは俺たち人間が世界を取り戻す番だ!」


 小杉の掛け声で男たちのテンションが上がる。


「さあ武器を取れ! 壁を建てろ! 俺たちの街を造れ! 行くぞっ!」

「おおおっ!」


 雄叫びが本屋の二階に響き渡った。

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