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こわしたい

「案内するよ。他のメンバーがいるところへ」


 大前田おおまえだは屋上からつながっているアーケードの屋根に移る。


「そ、そこ行くのかよ」

「そうだよ。メンテナンス用のはしごがあるから大丈夫さ」


 確かに見ると鉄のはしごが屋根を伝うように向こう側へ続いている。

 支えになるのは細い手すりがあるだけ。


 俺がこれからはしごに足をかけようとした時に江楠えくすが話しかける。


「どうしたのよあんた」

「べ、別にどうもしねえよ」


 これから行くんだ今から行くんだ、声をかけるなよ。


「あれぇもしかして。怖いの?」


 江楠えくすがニヤニヤしながら俺の顔をのぞく。


「ばっ、バカなこと、い、言うなよこわかねえっての」


 息を整えて。()(しん)()(きゅう)()だ。

 すう、はあ。すう。はあ。


「こんなの、ちゃっちゃと渡ってやらあ」

「後ろがつかえてるからね~」


 いちいちうるさいな。


 はしごに足をかけて、一段進む。


 半透明な天井の板は、プラスチック製みたいだ。

 大丈夫、はしごの上を歩いて行けば。


「こんなの踏み抜いたら落っこっちまうだろ……」


 慎重に、確実に。一段一段進んでいく。


「ほらあ、遅いぞ~」


 だあっ、気が散るっ。


「落ち着いて。下は見ないようにね」


 有希音のフォローがありがたいけど、そう言われるとやっぱり下を……。


 建物の二階より少し高い位置から地面がうっすらと透けて見える。

 下には大勢のゾンビどもがうろうろしているけど、俺たちがいなくなって標的が見えなくなったのかさっきほどの数じゃないように見える。

 でもそれなりに多いから今地上を歩くことは自殺行為かもな。


「ここから落っこったら、助からないんだろうなあ……」

「なに弱気なことを言ってんのよ。落ちたくらいじゃ死なないわよ頭からじゃなきゃ。せいぜい脚が変な方向に折れて背骨が砕けるとかその程度……あ、そうなったらやつらに食べられてやっぱり死ぬわ」


 江楠のやつ、人の気も知らないでケラケラ笑ってやがる。


「そうかすなぅわっ!」


 バキバキと音がして俺の脚がプラスチックの天板を踏み抜く。

 はしごの部分を踏み外していつのまにか天井に乗っかっていたんだ。

 破片と音が地上に届き、ゾンビどもが一斉に上を、俺を見上げる。


「バカっ、何やってんのよ!」

「なななしょーがねーだろー、はひゃー」


 俺は情けない声を上げつつ金属製のはしごをつかむのがやっとで、下半身は突き破った屋根の穴からぶら下がっている状態。

 背負っているスポーツバッグとバッグの脇のベルトにメタルラックの鉄柱をくくり付けていたおかげでうまく引っかかってくれた。


「わわわ、たしゅけ……」


 俺が脚をばたつかせてもがいているところに、柔らかいものが俺の腕に触れた。


「鋼くん、もう大丈夫」


 有希音が俺の腕をつかんでいる。ここまで来てくれたんだ。


「ゆ、有希音……」

「ゆっくりね。天井の穴で引っかかないようにして」

「う、うん」


 ああ、有希音が天使に見える。ゾンビの天使だ。

 今は情けないとかどうとか言っていられない。とにかく有希音の手にすがって穴からい上がる。


「大丈夫、鋼くん」


 吊り橋効果だってなんだっていい。俺は有希音に一生かけて尽くそうと心に決めた。

 その決心は今だけかもしれないけど本気でそう思ったんだ。


「大変だったねえ。怪我はしていないかい」


 俺が有希音に手を引かれてはしごを渡りきったところで大前田が話しかける。


「はっ、はひっ、ら、大丈夫だよ」


 息を整えながら。きっと今の俺はゾンビの有希音もびっくりなくらいに血の気が引いているんだろうな。


「何件か屋上伝いに行くけど、着いてこいよ」


 いつの間にか渡ってきた江楠を確認すると、大前田は軽快な足取りで建物の上を進み始めた。


 屋上が続いているところは渡りはしごみたいなものがいくつかあったが、それがない建物には板が渡してあった。


 もうアーケードの屋根を挟んで反対側になったけど、カレー屋は三階建てだから渡りはしごはかけられていなかった。


「ここだよ俺たちの基地。恐屍隊こわしたいのアジトだ」

「こわしたい?」

「そ。しかばねおそれおののく部隊、恐屍隊こわしたいへようこそ、生者諸君!」


 大前田が屋上のドアを開ける。


「君たちを歓迎するよ」


 そこには自動小銃を構えた男たちが俺たちに銃口を向けていた。

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