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閉じられたもの

 俺は店の入り口をふさいでいたセーラー服ゾンビを思いっきり蹴飛けとばす。

 そいつは道連れに何体かまとめて飛んでいった。


「続けっ!」


 鉄柱でぎ払い道を作る。

 飛ばされないやつは登山用の杖(トレッキングポール)を目に突き刺してやった。


「鋼くん危ないっ!」


 有希音が俺に声をかける。

 俺がとっさにしゃがむと、その上をチタンヘッドが通過していった。

 振り抜いた先のゾンビの頭にナイスショット。

 眉間みけんが割れて目玉が飛び出す。


「殺す気かよっ!」

「ごめんごめん」


 有希音は舌を出してごまかす。


 こいつらも俺ほどじゃないにしろ筋力というか攻撃力が増しているようにも見える。


 いくら武器になるような物を持っているとしても、女子の腕力で大人の頭を叩き割るなんて真似まねはできないだろう。


 だが、こんなぎりぎりの戦いを毎回繰り返さなくちゃならないのかと思うと、やはり物資ぶっし調達ちょうたつは命()けのようだな。


「カレー屋に戻れば体勢を立て直せる。神月たちもいるしな」

「ええ、ちょっとこれじゃあきりないからね。それがいいわ」


 江楠もうなずいて同意する。


 大きい荷物を持った俺たちはカレー屋に向かって進む。スポーツショップからは登山用のヘッドライトと乾電池くらいは手に入れた。電気屋はまた改めてチャレンジすればいい。

 とにかく今は安全地帯に戻ることが先決だ。


 距離にして三〇メートルくらい。

 俺たちならゾンビどもを蹴散けちらしながらでも進めるだろう。


 おじさんゾンビの頭を潰し、年寄りゾンビを蹴り飛ばす。

 俺が足払いをして倒れたOLゾンビの頭へ江楠が斧を振り下ろした。


 肉片が飛び散り血が辺りを濡らす。


 ゾンビはうなり声を上げるものの、やられた時は悲鳴も上げずに倒れていく。


 だからだろう。静かな殺戮さつりくが続いた。

 聞こえるのは皮膚ひふが破れる音、骨が砕ける音。そしてうなり声。

 水風船が落ちて割れた時のようなバシャッという音。


 むせかえるような血のにおい。


 辺り一面の赤。赤。赤。


 息が上がり、汗が流れる。

 そんな中をなんとか突破しながら、俺たちはカレー屋までたどり着く。


 玄関ドアの前に違和感があった。俺たちが出ていくときには無かったものだ。

 両手両足を縛られ、ドアをふさぐようにして座っている黒系のスーツ姿の男。


 このスーツには見覚えがある。


「相田さん……か?」


 だが顔で判断することができない。

 その男の首から上の部分には、下顎したあごしか残っていなかったからだ。


「相田さん……」


 江楠も言葉を失う。


「悪いな、ちょっとどいてもらうぜ」


 俺たちは近寄ってくるゾンビどもを撃退しつつ死体をドアから離す。

 なるべく、座った形のまま。


 神月たちは薬局に行った時のように入り口を開けて待っていてはくれなかった。

 俺は中にいる連中に聞こえるよう強めにドアをノックする。


「おい、開けてくれ。神月かみつき、戻ったぞ! おやっさん!」


 ドアノブに手をかける。

 鍵が掛けられていてバリケードも置いてあるだろう。

 それをどかしてもらわないと。


 玄関ドアを叩き割るわけにはいかないしな。


 だがドアの向こう側に鍵を開けるような気配がない。


 無駄だと知っていてもドアにあるのぞき穴を見る。


 当然中の様子は見えないが、光が見えるということは中に誰かはいるはずだ。


「おい、俺だ! はがね鉄心てっしんだ! 開けてくれ、頼むっ」


 必死になってドアを叩く。


「あっ」


 覗き穴から見える光が消えた。

 部屋の明かりが消えたのか。いや、ドアをはさんで誰かがいる(・・・・・)


 俺を見ている(・・・・)


「いるんだろ、おい、神月っ! おやっさん、宮野っ!」


 ドアの向こうにいるだろう誰かに向かって話しかける。このドアの向こうには誰かがいて覗き穴から俺を見ている。相手の息遣いまで聞こえてきそうだ。


 近づいてくるゾンビは頭を潰し、蹴り飛ばす。

 だがそれでも次々と寄ってくる。消耗戦しょうもうせんとなれば俺たちが不利に決まっている。


「宮野さん、神月さん!」


 江楠も悲鳴に近い声で店の中にいる者たちに呼びかける。

 だが、それでもドアに変化はない。


 くそっ、どういうことだ。神月たちになにがあった。どんな理由があって俺たちを中に入れないんだ。


「開けて、早くっ」


 叫ぶ江楠の肩に有希音が手を置く。


「こうなったらもう開かないわ。離れましょう、これ以上(とど)まってはこっちの身が危ない」


 有希音は冷静に状況を分析する。

 冷静? いや違う。有希音はドアが開かないことに対して感情的になっていないだけだ。


 だが、たとえ冷静になったとしても、神月たちの行動が理解できない。

 なぜドアを開けない。

 ゾンビがなだれ込んでくるからか?

 いやそれも違う。俺たちが押し返しているから、少しでも開けてくれたらそこから入ることはできる。


 じゃあなんでだ。


「うわああぁっ!」


 俺はそこらへんに転がっていた瓦礫がれきを思いっきり蹴る。


 その瓦礫がれきはゾンビの群れの中に飛んでいき、川でやるような水切りの要領でゾンビたちの頭を次々と弾け飛ばしていった。


「くそっ、理由は解らねえけど入れないということは解った。安心しろ、ドアを突き破ったりはしない」


 俺は手にしたメタルラックの鉄柱を一振りして、目の前のゾンビを破壊する。


「ちくしょう、ちくしょう……」


 自分を拒否されたと感じた江楠が肩を震わせる。

 その江楠の肩をさすりながら有希音がつぶやく。


「頑張って生き残ってね。再会を楽しみにしているわ……」


 気のせいだろうか。有希音が不気味に笑ったような気がした。


 そして俺たちがカレー屋から離れようとした時だ。


「おいあんたら!」


 俺たちを呼ぶ声が聞こえた。

お気づきの点があるかと思います。

できましたら、次話以降をお楽しみいただけたら幸いです。

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