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プロテクター

 商店街のアーケードに出て辺りを見回す。


 すえたほこりくさいなにかが鼻孔びこうを刺激する。


 通りのずっと奥で何かがうずくまっているが、距離もあるし気にしないようにしよう。

 別に俺たちは駆除くじょ業者じゃないんだから、いちいち始末してやる必要もないはずだ。


「でも、襲ってきやがったら返り討ちにしてやる」

「え、鋼くんなにか言った?」

「いやなんでもない。行こう」

「うん」


 俺と有希音が言葉を交わしていると、黙って周りを警戒しなさいとでも言いたげな江楠えくすの視線が刺さる。


 昨日の昼間までは、何もないただの地方都市の商店街だったのにな。


 混乱があったからなのか、丸一日も経ってはいないというのに、辺りはほこりやゴミで薄汚れていたし、ガラクタがあちらこちらに散乱していた。


 そして何より、至る所に転がる血まみれの人間。


 動かないということは、死んでいるということなんだろうか。

 それともただゾンビが止まって、バカな獲物が近寄ってくるのを待ち構えているのだろうか。


 あえて俺たちはそんな死体ともいえるかどうか判らないものの側は通らないようにする。


君子くんし危うきに近寄らず、だからな」

「バカね。あんたが君子なわけないでしょ。それにそれは偉い人が危険なところに行かないんじゃなくて、危険なところへは部下を行かせるから、結果として偉い人は危なくないところでのんびりしているってことなのよ」

「へえ、江楠さんって面白いこと言うわね」

「そんなことないって。テレビの受け売りよ」


 テレビって、どうせ漫才まんざいかバラエティあたりだろう。

 だが確かにそれはそれでひねくれた意味で面白いかもな。

 江楠、お前にぴったりだ。


「でもさ江楠さん、虎穴こけつに入らずんば虎子こじを得ずっていう言葉もあるでしょ」

「そうだな。危険かもしれないけど、得るものは大きいかもな」

「あんたバカなの。だからわざわざ命懸けでお店から出たんでしょ。じゃなきゃこんなことするわけないじゃない」


 江楠のやつ、相変わらず俺が言うとなにかと突っかかってくる。ゾンビ化してますます嫌味にみがきがかかった気もするぜ。


「そんなことより、着いたわよ。第一目標」


 俺たちの目の前に、斜めになったスポーツショップの看板があった。


「ドアも窓も割られているな。中にはやつらがひそんでいるかもしれねえから気をつけろよ」


 緊張が場の空気を支配する。


 気をつけるのは当たり前のことだが、今回ばかりはあの江楠でさえ余計な茶々は入れないくらいに集中する。


 俺は鉄柱を握りなおし店に近づく。

 割れたガラスを踏むたびにチャリチャリと音がした。


「おじゃましま~す」


 ゆっくりと声をかけながら店内に足を踏み入れる。

 荒らされた店内には、ところどころに残された商品が転がっていた。


「誰かいませんか……」


 返事を期待してのことではない。

 だが、ゾンビがいたとしても声を聞けば何らかの反応があるはず。

 不意に後ろから襲われるようなことは避けたいからな。


「大丈夫そうね」

「だな」


 俺たちは互いの顔を見合わせ、その背後を警戒する。


 ガランっ。


「はっ!」


 奥で缶が落ちたような音がした。


「有希音、外を見ていてくれ。江楠は俺と。音の正体を突き止める」

「わかった。鋼くん江楠さん、気をつけて」

「鈴本さんもね」

「うん」


 有希音は店にあったゴルフクラブを手にしていた。

 チタンヘッドのドライバー。あれで殴られれば頭蓋骨とうがいこつだって粉々だろう。


「なにかあったらすぐ呼べよ。すぐ駆けつける」

「わかったわ」


 そう言うと有希音は店の入り口でクラブを構えて外を見回した。


 警戒は有希音に任せておこう。


 俺は鉄柱を、江楠は赤い手斧をそれぞれ握りしめて奥へと歩を進める。


 店の奥、商品の保管場所にそいつは座っていた。


 バイクのフルフェイスヘルメットをかぶったそいつは、下敷きにしているやつにその手を突っ込み、なにかを引きずり出してはそれをヘルメットの隙間すきまへと運ぶ。


「シャアッ!」


 俺たちに気がついたのか、そいつはゆっくりと立ち上がると俺たちに向かってその血だらけの手を伸ばす。

 ゾンビにまたがられていたのは、腹を引き裂かれた女性だった。

 スポーツショップのエプロンを羽織っているから、多分店員さんだったのだろう。


「噛まれる心配はないかもしれないけど、あのメットは邪魔だな」


 フルフェイスヘルメットは、頭部全体を覆うヘルメットだ。バイクに乗る時にあごまですっぽりとかぶるやつで頭や顔を保護できる。

 ゾンビになるには別に頭を噛まれる必要はない。手でも脚でも、噛まれて死ねばゾンビになれる。


「噛まれないにしても問題は攻撃方法だな。こいつは厄介やっかいだぞ」


 ガチンっ。


 江楠の振り下ろした手斧がヘルメットに弾かれる。


「やっぱりダメね。少しは割れたりするかと思ったのに」


 再度江楠が手斧で頭を狙うが、丸いヘルメットの形は力をスライドしてしまう。

 斧の刃先がゾンビの肩に食い込むものの、当然それくらいではゾンビの行動に影響しない。


 じわり、じわりと寄ってくる。


「鋼流健康体操一二の型。突三弾剛つきみだんごっ!」


 俺はビリヤードの要領で、左手を支えにして右手に握った鉄柱を三回突き出す。


「バギャッ!」


 三回目に突き入れた鉄柱がヘルメットの隙間からゾンビの口元を直撃し、そのままの勢いでヘルメットごと後頭部を貫通した。

 獲物の血で真っ赤に染まっていたゾンビの口元に、新しい赤が加わる。


「お見事」


 江楠は肩をすくめてやれやれというような表情をする。

 まったくお前はどこの外国人だよ。


 それにしてもそこまで力を入れたつもりはなかったのに、ヘルメットすら突き破るこの破壊力はなんだ。

 もしかして俺もリミッターが外れるようになったのか。


 俺がメットゾンビから鉄柱を引き抜くと、顔にできた穴からどろりとしたものが出てきた。

既存回で、神月たちが鉄心の貪り食う姿を見てビビる様子を追加しました。

やはりあっさりしすぎていたかな、というところですね。

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