電源確保計画
「電気、来てないのかな」
宮野が不安になるようなことを言う。
「ブレーカーを上げてもつかないんだからそうかもしれないな。考えたくはないけどさ、送電ができているのかもこれじゃ分からないよな。周りもあんな状況だとしたらさ」
ゾンビが街に溢れている状況。
変電設備になにかあったとか、ただ単に電線が切られたのか、それは分からないけど窓の隙間から外を見ると、明かりのついている建物は見当たらない。
商店街のネオンも消えたままだ。
少なくともこの一帯は停電の範囲なのだろう。
「あの、ちょっと提案があるんですけど」
江楠が済まなそうに声を上げる。
大人しそうな声。確かに俺には見せない姿だ。
「電気屋か大型の家電量販店ってありますか」
おやっさんが一階から上がってきてそれに答える。
「うーん、うちの三軒隣が電気屋さんだけど。でも、電気使えないっぽいよ?」
「電気屋ならあると思うんです。電池とか。あと、ポータブルテレビかラジオみたいなやつ」
ああ、確かにラジオだったらあるかも。電池でも使えるやつだってあるだろう。
「それにケーブルとかも欲しいし。できたらソーラーパネルかな。小さいやつでも繋げればそれなりに量は稼げるし。あとは車のバッテリーも。インバーターとかあれば家電にも使えるしいくつか方法はあると思う」
「なるほど、さすがは工業系だな。電気とか工事には強そうだ」
「なによそれって偏見でしょ」
「ちげえよ。たまに誉めりゃあこれだ。で、やれそうか?」
江楠は薬局から持ってきた手斧を構える。
「行ってみないことには、ね」
青くなった瞳がキラリと光ったような、そんな気がした。
「なんだ、江楠はまた一緒に行くってのか」
「なに、悪い?」
よし。
「なら、行くか」
江楠はニヤリと口角を上げる。
「大丈夫かい鉄心」
神月が心配そうに俺を見る。
その隣には同じように心配顔の宮野。
「ああ。バッテリーになるようなものを持ってくるよ。あと他の店でも持ってこられる物があったら探してみる」
「あんたさあ、カバンはどうすんのよ」
江楠は手斧のグリップの様子を確かめるようにもてあそび始めた。
「カバンはどこかで探す。少なくともレジの近くにはレジ袋があるだろう。それより江楠、肩は大丈夫かよ。さっきの今だぞ」
「あんたの咬み傷なんか猫の甘噛みよりたいしたことなかったわ」
「それだけ減らず口がきければ平気だな」
心配はあるけど俺が傷つけてしまったんだ。なんとかフォローしてやりたい。
「待って。私も行くわ」
有希音が胸とポニーテールを揺らして立ち上がる。
「変異した私なら、あいつらも寄ってこないかもしれないから」
確かに有希音は一度ゾンビになってから、意識を戻した珍しいケースだ。
ゾンビが寄ってこないっていう可能性がを試したいという思いもあるんだろう。
「そんなの分かんねえけど、いいのか」
「うん、少しでも役に立てるなら」
そこへ相田が割って入る。左腕をゾンビに引き千切られた彼だ。もう激しい活動は難しい。
「鈴本さん、変異したからって無敵ってわけじゃないし、痛みは感じなくても噛まれて手足を持っていかれたら動けなくなるんだよ。実際私は腕を持っていかれたんだからね」
そうだ。安全である保証はない。平和な頃の商店街じゃないし隣の店に行くのですら命懸けだ。
「解っているわ。でも、戦力は一人でも多い方がいいと思って」
そう言いながら有希音は俺にメタルラックの支柱を渡す。
鈍器として使える鉄柱だ。
薬局に行った時も活躍した武器。
その有希音は襲撃者から奪ったバールを手にしている。
「鋼くん、確かスポーツ用品店がはす向かい、薬局とは逆の方にあったと思うんだけど」
「そうだな、あったかも。それなら電気屋へ行くまでに寄っていけるかもな」
「スポーツバッグとか、あと武器になりそうなものもあるかもね」
なるほど、商品のラインナップからしたらそうかもな。
ある程度計画とは言えないまでも考えをまとめた俺たちは玄関に集まる。
一階の店内は外から見えないように窓には目張りをしているから、太陽が出ても薄暗い。
「鉄心、大丈夫かい。今ならやめても」
「ただここで引き籠っても埒が明かねえからな。神月は宮野たちを守ってやっててくれよ」
「うん、それはいいんだけどさ」
また覗き窓から外の様子をうかがう。
「見たところいなさそうだけど。行くか」
有希音と江楠が頷く。
「じゃあ開けるよ。気をつけて」
バリケードをどかして神月がドアノブに手をかける。
ゆっくりと玄関のドアを開けると、その隙間から生臭い臭いが店の中に流れ込んできた。
汚物の臭いだ。
それと物の焼ける焦げた臭い。
近くで火事があったのだろう。
辺りを見回しても、ゾンビらしき影は見当たらない。
だが薬局の時のこともある。どこかに身を潜めているのか、見えないところにかなりの数がいると思った方がいいだろう。
俺は神月と視線で合図し、一歩外へ出る。
俺の脚首をつかむやつがいた。
「なっ、しまっ!」
「シャアァ!」
あまりに低すぎて死角だった。ドアすれすれのところに上半身だけのゾンビが這ってきていたのだ。
「このっ」
すぐに俺は持っていた鉄柱をゾンビの頭に突き立てる。ぐしゃりと潰れる感触がしてゾンビの動きが止まる。
「幸先がいいわね」
江楠が嫌味を言うが俺はそれを無視して動きの止まったゾンビを店から蹴り出す。




