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暴走

「ど、どうしたの鉄心……」

 神月が恐る恐る俺の方へやってくる。

 ネズミどころじゃない状況だったから、それが遠目でもわかったのかも。


「なんでもねえよ、大丈夫だ。襲撃者の一人が変異していたんでな」


 左手でゾンビの頭をつかんだまま振り向く。

 上半身だけのゾンビが持ち上げられてプラプラとしている。


「もうこうなっちまったら、人間に戻るとか関係ないよな」


 血を浴びて赤く染まった俺が、神月に返事をする。

 この血の匂い、くらくらする。

 顔にかかった返り血をひとめ。


 ドクン。

 これだ。

 心臓が高鳴る。


「カハッ、コアッ」


 下(あご)を無くしたヒゲダルマゾンビが、それでも俺に威嚇いかくのような音を出す。


 頭がカアっとする。


「うるせえよ」


 軽く左手の力を入れると、オレンジを握りつぶすくらいの感覚でゾンビの頭が割れて砕ける。

 そのままゾンビの上半身は床に落ち、新しい血だまりを作った。


 じゅるっ。


 俺の左手に残った肉片を舐めとる。

 握った時に潰れなかった眼球がするっとのどを通っていく。


 ふわわあっ、とろりとした感触にこののどし。

 ねっとりとした脳のかけらがまたコクを生み出す。


「うまっ……」


 ナマでもイケる。

 まあ、基本的にナマしょくだしな。


「え、なに?」

「あいや、なんでもない。うん。なんでもない」


 血まみれながらもほこりを払うふりだけして、神月たちの元へ戻る。


「で、なんであんた」

「ん?」

「そんな怖い顔して笑ってるのよ」


 へ、笑ってる? 俺が?


「なんか鉄心興奮しているみたいだし。平気?」

「あ、ああ。平気だぜ、全然問題ない。それよりもさ」


 俺は階段の手前まで行ってやつらを見る。


「これ、喰っていい?」


 視野が狭くなる。


「美味いんだよなあ、こいつら」


 視界が赤く染まる。


「まだ動いているしさ、イキがいいだろ?」


 鼓動こどうが速くなる。


「鉄心……」


 神月の声がうっすらと聞こえたが、それよりもそこに転がっている動くえさに喰らいつきたくてたまらない。


「二匹も、二匹もいるよぉう!」


 俺はまず脚の取れたやつに飛び掛かる。

 なにか口にくわえているからモゴモゴとしか聞こえない。


「黙って喰われてろよ」


 うるさいやつの首筋にかぶりつく。


 飛び出す液体。今まで飲んだどのドリンクよりも甘く、香ばしく、俺を狂わせる。


「ひゃーっはっはっは!」


 噴き出す赤いジュースを全身に浴びる今! まさに至福しふくっ。


 次は腹。小さくてガリガリなやつだったけど、それでも中身は美味い。

 手でほじくり、奥に行くほど汁が出てさらに香りが強くなった。

 まだなまあたたかくてヒクヒクしているところもある。


「踊り喰いだぁ!」


 口の中にうごめく塊。噛み潰すと中から芳醇ほうじゅんな汁があふれ出す。

 鼻に抜ける香り。のどを通る時の感触。

 口の中だけではない美味さへの喜びが全身を駆け巡る。


 手でつかむ。口へ運ぶ。

 もどかしい。

 顔をそのままやつの身体の中へうずめる。


 コリコリとした触感を楽しむ。

 柔らかな部分をめまわす。


「今日は贅沢ぜいたくだなあ、おい! はーっはっはっは!」


 脇で動いている人間が口をパクパクしている。

 なんだ? これが欲しいのか?

 俺をうらやんでいるのか?


 こんな美味いもんは他に渡さねえ。

 横取りしようとするなら……。


 近づく人間を払いのける。

 思ったより遠くへ飛んだな。箱の上に飛ばされて動かなくなった。


「俺の食事を邪魔するからだ。はっはあ!」


 ああ、なんて清々(すがすが)しいんだ。力がみなぎる。何でもできそうな気がする。


「ほほう。もう一匹いるじゃあないか。ま、知ってたけど」


 俺は一匹目を喰い散らかすと、二匹目を見た。

 こいつも一匹目と同じで、手足が縛られて口に何かをくわえていた。


「なんだあ、張り合いのない。でも楽でいいや!」


 俺は口を大きく開けて、二匹目にかじりつこうと……。


「もうやめてっ!」


 二匹目のやつを押しのけて人間が俺につかみかかってきた。

 なんで俺の食事を邪魔しようとする。


 人間は俺の身体を抱えるようにしてしがみついているが、それくらいの力では俺をどうこうすることはできない。

 普通に直立している俺に、背伸びをして捕まっているような形だ。


「お願い、もうやめて! そんなあんた見たくないよっ!」


 なにを言っているんだこの人間は。


「ガアッ! シャアッ!」


 俺ののどからうなり声が出る。

 人間になんて興味はない。においからしてまずそうだからな。


 俺が人間を突き飛ばすと、そいつは階段に身体をぶつけて倒れた。


 これで邪魔者はいなくなった。

 存分に二匹目を味わうとするか。


 俺は二匹目の餌をつかみ、持ち上げる。


 どこからかじってやろうか。腹か。腕か。頭から行くか。


 そこへ横からいきなり何かが飛び付いた。

 階段にいた人間か。また邪魔をするのかこいつは。


 階段で高さをかせいだのか、俺よりも頭一つ分人間の方が高い。


 急なことだったからか踏ん張りが利かない。

 俺はその人間に押し倒される形で仰向けになる。


 俺の顔に人間の身体が押し付けられ……。


「うっ」


 人間の顔が苦痛にゆがむ。


 俺の開けた口に人間の肩がはまっていた。

 歯が皮膚ひふを破り、赤い血が流れた。

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