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謎肉

有希音ゆきね用のカレー?」


 おやっさんが首を縦に振る。


「勝手口にいたあのゾンビの身体、あそこから使えそうな部位をね。

 ほら、カレーに使う香辛料って、肉の臭み消しや柔らかくする効果とかいろいろ期待できそうだから、ね?」


 ね、じゃねえよ。


 確かに有希音は津川に噛まれてゾンビになった。

 有希音にゾンビの肉を喰わせたら、人間の頃の意識を取り戻した。

 一度は死んでいたのに、だ。


 ゾンビにかじりつくから食べにくいわけで、ちゃんと処理して料理にすれば。


 おやっさん、あんた天才かよ。


「勝手に食べるとは思わないからさ、別の鍋で作ってたんだけど……。この人たちが食べちゃって」

「それでか……。にしても、生きている人間がゾンビの肉を食うと」


 ゾンビ化するっていうのか。

 噛まれていないし、死んでもいないのにか。


「鉄心、この人たちにゾンビの身体を噛ませたらどうなるのかな」

「お前変な好奇心をかきたてられやがって。でも神月の言う通りかもしれないな。おやっさん、まだおばさんゾンビの肉あるよな?」

「そりゃあるけどさ、ほんとにやるの?」


 いまさら言ってもしょうがない。やるったらやるぞ。


「ん? おやっさん、勝手口のバリケードなんだけどさ」


 閉めた時に倒したロッカーがどかされていた。


「ああそれね。重森さんが出て行くときに動かしたらしくて。それからバタバタしてたから戻してないんだよね」

「それでか、やつらが入ってきたのは。まったくあのメタボオヤジ、余計なことするだけじゃなくて問題も残していきやがって」

「今更だけど、鍵だけはかけているから」


「え、ってことはそれまでは鍵が開いていたってことかよ」


 うわあ、背筋が寒くなるぜ。


「でもさ鋼、入ってきたのがゾンビの群れじゃなかっただけでもよかったのかも……」

「宮野、ゾンビの方が楽かもしれなかったぜ?」


 不思議そうな顔をする宮野にヒントを出してやる俺って優しい。


「ゾンビだったら頭を潰せばそれまでだ。そりゃあ人間だって同じだがな。でも人間相手だとそうはいかないだろ?」

「あ。今だって人間だと思っていたから」

「そういうこと。やっぱり殺人ともなると抵抗もあるのかなって思うよ」

「うん、そうかもしれない」


 人間は利己的なもので、ほとんどの人間は人間と会話が成立するのは人間だけだと思い込んでいる。

 だから言葉の通じないやつにはどんな酷いことをしても許されるってね。

 噂でもたまに出る鳥や動物の虐待話も、相手の言葉が通じないから遊び半分で殺したりできる。


「確かに俺もガキの頃アリの脚をもいだりカエルに爆竹突っ込んだりしたけど、遊び感覚だったな」

「鋼、そんなことやってたの……? これだから男子は」


 うわ、宮野がドン引きだ。


「小学校の低学年の頃だから、命とかよくほら理解していない、なんていうか、あの、なんだ」

「うわあ、鉄心が慌ててるのって珍しいな~」

「ちゃかすなよ神月!」


 でも確かにそうだよな。

 家畜だって生きているし殺したらかわいそうだと思うけど、殺して肉を食うために生かしているくらいなんだし、肉になってスーパーにでも並んでしまえば生き物を殺している感覚なんてないんだからな。


 人間は生きる上で生き物を合法的に殺していく。

 人間を殺したら殺人だ。


 それと同じなのかもしれない。


 ゾンビは殺せるけど人間を殺すことには抵抗がある、というのは。


 殺人鬼とかもいるけど、それは特殊なんだろうな。今の社会では。


 難しいことはわからねえ。俺は俺の仕事をしよう。


「じゃあ取ってくるな、肉」


 おばさんゾンビの身体は業務用ごみ袋に入れてあって、血やら体液やらが外に漏れださないようにしていた。


 外じゃあ死体も放置なんだけど、生活拠点にほったらかしもないからな。


 袋の口を開けると、ドブのような下水のような牛乳を拭いた雑巾みたいな臭いがした。


「うっぷ、ウンコくせえ」


 おばさんゾンビの腸は下処理なんてしていないんだから、そりゃあ排泄物の臭いがするのは当然だろう。


「やっぱそういうのはきちんと処理しないとな……屠畜とちくとかよく判んねえし」


 適当な部位を袋から出してボウルに入れる。後は袋の口を縛って元に戻しておく。


「そういやあ冷蔵庫に入れておかなくて大丈夫かな」


 変な心配をしながら店内に戻っていく。


「シャガッ、ガウッ」

「ガアッ! フガアッ!」


 あーあ。ガリチビの方もゾンビ化しちまったようだ。


「なあ神月、チビガリの方はいつこうなったんだ?」

「ちょっと前かな。鉄心があっちで、おわっとかくっせとか言ってた頃だよ」


 あ、そうですか。


「となると、生きたままゾンビ化したってことみたいだな」

「そうね。私みたいに意識が戻るかどうか」


 俺が渡したデカシャツを着た有希音が転がってるゾンビどもを見る。


「あ、あのさ有希音。着替えてきてくれないかな」

「あらどうして?」

「あいやそのちょっと……」


 デカシャツの隙間から白い身体がちらちら見えるし、薄手のシャツだから胸の形が浮き出ているし。


「あんた、サイテー」


 江楠えくすが俺をなじりながら有希音を二階に連れて行く。


 あいつは俺の思考を読んだのか?

 タイミングよすぎて気持ち悪いぜ。

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