深夜の襲撃者
「鋼流健康体操七の型っ!」
両手を交差してそのまま前方へ飛び出す。
「猪子玄輪散っ!」
相手が武器を振り下ろすより速く。
俺の振り向きざまのクロスチョップが、バールのようなもので殴りかかろうとしていた男の喉元に食い込む。
「ぐへっ!」
潰れたカエルのような声を出して、男はそのまま白目をむいて倒れた。
他には!?
辺りを見回す。
「きゃああっ!」
悲鳴が。
くそっ、有希音に何かしてみろ。ただでは済まさねえぞ!
有希音の方へ振り向いた俺は、後頭部に強い衝撃を受けた。
だがそれくらいでは鍛えた俺には。
痛いけど我慢する!
俺を殴った物を後ろ手につかむと、一本背負いの要領で前方へ投げ出す。
バットごと男が防音室の入り口に放り出される。
「つっつつ……。なんなんだこいつら。いきなり殴りかかってきやがって」
鍛えていたって痛いものは痛い。
二人目が持っていた木製バットを取り上げ、一人目のバールのようなものを蹴飛ばす。
まだ物陰に隠れているかもしれない。
頭を押さえながら辺りを警戒していると。
「参ったねえ。お兄ちゃん強いじゃないか」
まだいたか。まったく、おきまりのセリフだな。
「そっちこそ、痛い目見ないうちにとっとと帰るんだな」
俺が構えをとったところ。
「そうはいくか」
「ちっ!」
倒れていたやつが俺の脚にしがみつく。
そいつを蹴飛ばすと今度はもう一人が身体を投げ出して覆いかぶさろうとしてきた。
「くそっ、手加減したのが仇に」
「生意気言うなっ!」
「ようし、そのまま押さえ込んどけ」
三人目の、サングラスをかけた男がゆっくりと俺に近づいてくる。
「ぐぎゃぶ」
首筋から激しい痛みが走る。
そいつが手にしていたのは。
「ス、スタンガン……」
ちくしょう、意識が遠のく。
そして俺の視界が闇に包まれた。
……。
いてて。
頭が痛い。割れるように痛い。
どれくらい意識が飛んでいただろうか。
「お、兄ちゃん目が覚めたか?」
下品な笑い声が聞こえる。
聞きなれない声。あの襲ってきた奴ら。
ゆっくりと目を開けると、そこは地下の防音室。
「ようやっとお目覚めとはいいご身分だなあ」
目の前には男たちが三人。
頬のこけた背の低いのと、小太りで無精髭を生やしているやつ。
そして俺に話しかけた革ジャンでサングラスのやつだ。
「なんだよいきなり。何もんだお前ら」
「あららあ、お客様にはいらっしゃいませでしょう? この店の教育ってどうなってんのかしらね!」
ガリのチビがズタ袋みたいなものを蹴とばす。
「ぐふっ」
「おやっさん!?」
ズタ袋に見えたそれは、倒れこんだおやっさんの姿だった。
「てめえ、なんてことしやかる!」
少し距離があってよく判らないが、だいぶボコボコにやられているようだ。
「ほほう、威勢がいいな」
そういう俺も、手を後ろで縛られて足首もガムテープでぐるぐる巻き。まったく身動きが取れない状態で寝っ転がっている有様だ。
防音室。そこに俺たちはいた。
有希音は俺たちが鎖に繋いだまま、行動範囲が限られている状態だ。
その近くで俺とおやっさんが寝っ転がっていて、俺たちを見下ろしているのが襲ってきたやつら三人。
他に仲間はいないのか、二階にいる宮野たちは大丈夫だろうか。
「へっへへへ。女子高生が鎖に繋がれて。それにこの発育っぷり、こりゃいい見ものだな」
ヒゲダルマがいやらしい声を上げる。
「なによ、女なんか怪物のエサにでもしちゃえばいのよ。にひひ」
ガリチビは気持ち悪い笑い方をして物騒なことを。
「まあいいさ。ここは飯屋のくせにまだ荒らされていないようだったからな」
「い、いう通りにしますから、その子たちには手を出さないでください」
「おやっさん!」
情けねえ。あんなやつらを好き勝手させてしまう自分に腹が立つ。
おやっさんにも惨めな思いをさせちまって。
「お前ここの店長だろう? ちっと飯を作ってくんねえかな」
グラサンがおやっさんをつま先で小突く。
「は、はい。それはもう」
「よし、お前はこいつらを見張ってろ。俺とこいつはこれから飯を食ってくるからよ」
「はいはい。わかりやしたよ」
ヒゲダルマは不平を言いながらも、うなだれる有希音を見て舌なめずりをする。
そんな見張りを残して、グラサンとガリチビがおやっさんを連れて階段を上っていく。
「このゲスが」
呟きを聞きつけたヒゲダルマが俺に近づく。
「おい小僧、なんか言ったか、ああん?」
「ああいったさ。ゲス野郎ってな」
「おお、いい度胸してんなぁ! 彼女の前だからっていい恰好しようとしたら大間違いだぜ!」
ヒゲダルマが俺の腹を蹴り上げる。
「がっは!」
胃液がこみあげてきた。
続けざまに蹴りを入れてくる。
そのたびに、肺の空気が絞り出され胃液が逆流した。
「へっ。見張りなんてのは、役得でもなければやってらんねえからなあ」
口角が下品に捻じ曲がる。
卑しい獣のような目が有希音を見据えていた。
「女子高生ってのも、悪かあねえだろ」
ヒゲダルマが有希音に近寄る。
「や、やめて……」
鎖がじゃらりと重たい音を鳴らす。
「へへっ、こんな時だ、楽しまねえとなあ」
「や、近寄らないで……だめ」
「どうせ明日をも知れねえ命なんだからよ、せいぜい今夜は盛り上がろうぜえ」
有希音は迫ってくる男を近寄らせまいと、精一杯腕を伸ばす。
「げほっ、やめ、ろ……」
俺の声はかすれて出てこない。
「ほらほら、そんなに邪険にするなよぉ。お友達の前で見せつけてやろうぜ、ひゃひゃひゃ!」
男は力づくで有希音に覆いかぶさる。
抵抗むなしく、シャツが引き裂かれ真っ白な肌があらわになった。
蛍光灯の光に映し出された大きすぎる双丘は、有希音の意思に反して男の前にさらけ出され、その興奮した視線を釘付けにした。
男はまさぐるように有希音の腰に手を回し、ナメクジのようなぬらぬらとした舌が有希音の鎖骨を這って行く。
「だ、だめっ、そんなっ……、そんなにされたら、私……」
「子供のくせに敏感だなあ、おい」
ヒゲダルマの右手が有希音の胸を楽しむかのように撫でまわす。
手のひらを押し付けると、その形に胸が沈む。
「うっひゃ、こりゃあいいや!」
「あぁっ……!」
男の中指がまだ幼い突起を弾いた。
「うんっ……はあっ」
有希音の口が大きく開く。
「がまんできなく……なっちゃう」
思いもよらないピンク色の展開です。
次回はきっとご想像の通りとなりますでしょうか。