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変異

「邪魔だどけどけっ!」


 俺が先頭に立ち、近寄るゾンビたちをなぎ倒す。

 足止めができればいい。

 頭が狙えないときは脚をへし折って速度を低下させる。


「よしっ、ついてこい!」


 後ろの二人に声をかけると、後ろ手にストレッチャーを引っ張る。

 前方にいるゾンビどもは鉄柱で吹っ飛ばす。


 囲まれる前にカレー屋まで戻るぞ。


 わらわらとやっては来るが、まだ密度は足りない。

 これならなんとか。


「このっ、このっ!」


 荷物を載せたストレッチャーを俺が引っ張り相田が押す。その後ろを遊撃手として江楠えくすが手斧で蹴散らす。

 相田は右腕だけになったがなんとかそれでも押している。


「しまっ!」


 ストレッチャーが死体に乗り上げた。

 一瞬担架に乗せている物資が跳ねあがる。


「持ちこたえてくれっ」


 袋がいくつか落ちる。


「一つでも多く……」

「相田さん、駄目だ! あきらめろっ」


 拾っている余裕など今の俺たちにはない。


「もっと、もっと押してくれぇ!」


 江楠がゾンビを追い払いながらストレッチャーを押し始めた。


「鉄心ちゃん、早くっ!」

「おやっさん!」


 カレー屋のドアが開いておやっさんが俺を呼ぶ。

 追いすがってくるゾンビどもを払いのけ、全速力でおやっさんの元へ向かう。

 おやっさんも神月かみつきと一緒にメタルラックの鉄柱やスコップを持って、店に寄ってくるゾンビを撃退している。


「今だっ!」


 俺は店の入り口で立ち止まり、勢いのままストレッチャーを玄関先に突っ込ませる。

 ストレッチャーは玄関口で倒れるが、上に載せていた薬は店内に転がすことができた。


 つかみかかろうとするゾンビのあごを鉄柱で下から突き上げる。

 のけぞった首がそのまま半ば千切れて後ろに倒れた。

 その後から別のゾンビが踏み越えてくる。


「相田さん、江楠は先に!」


 二人を先に押し込むと、足元にいたゾンビを蹴り飛ばす。


「鉄心!」

「いいから先に行け!」


 援護をしてくれたおやっさんと神月も中に入れる。


「いってえ!」


 蹴られたゾンビの首だけがもげて、その首が俺のふくらはぎに噛みついていた。

 すぐに上からゾンビの頭へ鉄柱を突き刺す。


「まったく、なんて執念だ」


 ふくらはぎからじんわりと血がにじんでズボンを濡らす。


「これはちょっと、まずそうだな」


 かじりつこうと両手を前に出して近づいてくるゾンビどもが俺のところへ来るよりも早く、俺は店に入ってドアの鍵をかける。

 ドアにもたれかかり、やつらが入ってこないよう俺が重しになる。


「バリケードを……頼む」


 息も切れぎれにそう訴えると、宮野とおやっさんがテーブルを持ってきて入り口に立てかける。


「鋼、脚……」

「あ、ああ。今ちょっとな」


 宮野がテーブルでバリケードを築くと俺の脚を心配してくれた。

 ズボンのすそをめくり、傷の具合を確かめる。


 歯形がくっきりと残っている。

 そんなに傷は深くなく、少し血がにじんだ程度だった。


「ちょっと見せて。手当てするから」

「いいって。これくらいなんともないし。それより有希音ゆきねの治療、薬はどうだ」


 倒れたストレッチャーからこぼれた袋が散らばっていた。

 中には薬瓶が割れたものもある。床に液体やら粉やらがぶちまけられていた。


「使えるやつだけでも使ってくれ」

 そう言って薬の入った袋を取ろうとした時。


「ギシャァッ!」

「うわああっ!」


 なにっ、内側か? 店内から聞こえた。

 もしや有希音の身に何か……。


「どうした! なにがあった!」


 立ち上がって店内の奥へ進んでいく。

 声に反応してか江楠も手斧を構えて俺についてくる。


 日も落ちて暗くなった店内。


 外から目立たないように店内の明かりは極力つけないようにしていた。


 奥で座って壁に寄りかかっている影。

 そしてうずくまっている影。


「お、おい。大丈夫か……」


 神月とおやっさんは俺たちを迎えに出てきた時に確認した。宮野はバリケード用にテーブルを持ってきてくれた。

 他に店内にいたやつと言えば、腕を噛まれて休んでいる有希音ゆきねと、メタボオヤジの重森。

 それに宮野についてきた亜美くらいだ。


「有希音……? 重森さん、亜美ちゃん?」

「は、鋼……くん」


 壁に寄りかかって座る影は有希音のようだった。

 俺が店を出る時はテーブルの上で休ませていたが、降りたのか降ろされたのか。


「うわわっ、た、助け……!」


 奥でうずくまる影が動く。


「なん、だと」


 その影が俺の方へ首を向ける。


「亜美……ちゃん……」


 俺の方を向いた亜美は、血の気の無い青白い顔で俺を見つめていた。

 白く濁った瞳で。

白く瞳が濁った状態ということは、襲っていた亜美は。

次回、「血の味」に続きます。

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