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突然美男美女、時々あなたと恋模様  作者: 柊月エミ
(裏)恋模様は突然に
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(2)

 




(ある日の某母娘+弟の会話を抜粋 ※本編4話参照)




「そういえば凌君、あれからどうなの? ちゃんとご両親に認めてもらえたのかしら……」

 内心ずっと気に掛けていたのだろう、とうとう我慢できず母は向かいのソファに座る娘に心配気に尋ねた。

 母の言葉に、それまで明るく笑ってテレビを観ていた娘がなぜか突然どんより暗く落ち込んでしまった。

 静かにテレビの電源を落とすと、向かいの母に視線を向けた。


「……ごめんママ。私もうあの2人を応援できない」

「え!? どうして急に?」

 旧友と10年振りに再会したあの夜、幼馴染の彼に突然訪れた恋を母娘で応援しようとあれだけ固く約束したはずだったのに、娘はいつの間にか心変わりをしたらしい。

 理由を問い詰める母に、娘は再び暗く俯いた。

 

「……私、気付いちゃったんだよね。完全凌の片思いだって」

「それはどうして? 一体何があったの?」

「よくよく考えてみれば当たり前だったんだ…………新太、結子さんと離れたくなくて結子さんを故郷からわざわざこっちに連れてきたんだよ? 結子さんだって二つ返事ですぐさま故郷を捨て新太のあと追いかけてきたっていうし」

「まさか…………新太君と結子さんが?」

 娘が語る事情に複雑な友人同士の三角関係を読み取った母は、わずかに動揺し瞳を震わせた。

「しかもいきなり2人は同居だよ? 結子さんなんて早くも新太のお母さんのこと嬉しそうにお義母さんおかあさん呼びしちゃってるしさ」

「まさか…………すでに嫁姑同然ってこと?」

「決定的だったのはあの話。結子さん、毎年バレンタインに新太にチョコあげてるらしい。しかも去年は新太のお父さんにまでだよ? 新太、わざわざ去年のバレンタインの話まで持ち出して嬉しそうに笑ってた…………まるで、私と凌に結子さんとの親密な仲を自慢してるみたいだった」

「そうなの…………そんなに2人は想い合ってたのね」

「新太と結子さん、素直じゃないからお互い意地張って口では親友同士だって言い張ってるけど…………気持ちバレバレだよね」

 重い息を吐き出すと、ようやく視線を前に戻し向かいの母を見つめた。


「そういうわけだから、私はもうあいつの応援はできない…………かわいそうだけど」

「……それは仕方ないことよ。互いに想い合っている者同士を無理やり引き裂く事なんて、たとえ凌君でも許されないはずよ」

 幼馴染の彼にようやく訪れた恋を喜んであげられず悔しそうにきゅっと下唇を噛みしめた娘に、母も沈痛な面持ちで精一杯慰めた。


「うん…………あ、でもさ、凌ってちょっとおかしいんだよね。店に遊びに行くと、隙あらば新太の隣の結子さんのことばかり真剣に見つめちゃってさぁ。幸い結子さんは鈍感だから、全然気付いてないみたいだけど」

「へえ、新太君の隣の結子さんばかり……」

「私と結子さんのメールやラインの会話内容さりげなくめっちゃ気にしてくるし、私が結子さんの名前を呟くだけでめちゃくちゃ敏感に反応するんだよ? 去年のバレンタインの話の時だって、結子さんにチョコもらった新太のことずっと憎々しげに睨みつけたりして」

「……あらやだ、ママちょっと勘違いしてたのかしら。凌君の好きな人ってもしかして……」

 さすが年の功、超鈍感とはいえ母は娘より若干察しは良いようだ。


 ようやく真実に気付きかけた母が言葉を続ける前に、娘の隣からハア……と大きなため息が零れた。


「まったくこれだから超鈍感母娘は………………ヤキモチだよ、ヤキモチ。凌さんはヤキモチを焼いてるの」

 暇つぶしにテーブルで1人オセロに没頭していたはずの弟だが、しっかり聞き耳立て姉の友人の複雑三角関係情報をゲットしていたらしい。

 突然母娘の会話に割って入ってきた。


「やきもち?…………凌が店で餅焼いてる姿なんて今まで一度も見たことないけど」

「もしかして、結子さんに焼いてほしかったんじゃない? 焼き餅」

「ヤキモチとはまたの名を嫉妬のこと。つまり、凌さんはあの2人に嫉妬してるんだよ」

 ヤキモチと聞いて焼いた餅しか思い浮かべない母娘にほとほと呆れつつ、弟は再び口を開いた。

 

「結子さんと姉貴の会話をさりげなく気にするのも、結子さんにチョコを貰って喜ぶ新太さんを睨みつけるのも、すべては恋につきものの嫉妬の成せるわざ。つまり、凌さんは新太さんと仲が良い結子さんにヤキモチ焼いちゃって、結子さんが気になってしょうがないってわけ」

 普段いつも退屈そうな弟がめずらしく真剣な表情で語る幼馴染の壮絶な嫉妬心に、母娘は白目縦線で驚愕した。


「それじゃあ、やっぱり凌君が好きなのは……」

「まさかあいつ…………結子さんをライバル視してるってこと?」

「姉貴、ちゃんと凌さんを見張っておいたほうが良いかもしれないよ。そのうち毎日のように店に押しかけて2人の邪魔をした挙句、新太さんから引き離そうと結子さんにちょっかいかけてくるかもしれない」

 神妙な面持ちで忠告する弟にハッと反応した姉は、きゅっと硬く表情を引き締めた。


「あいつならやりかねない…………そんなこと私がさせない」

「そうよ……恋は盲目って言うし、このままじゃ凌くん度を越して結子さんに危害を加えるおそれもあるわ。私達でなんとか阻止しましょう!」

 互いの目を合わせた母娘は強く頷き合い、互いに想い合う2人のために彼の恋の妨害を決意すると、これから先ともに戦うことを固く誓った。



 母娘の様子を傍で見つめた弟は、一瞬母が真実に気付きかけた時は内心めずらしく慌てふためいた。

 超鈍感母娘にこんなに早く気付かれてしまうのは非常に面白くない。

 せっかくの暇つぶし材料である彼への誤解をそのままに、再び1人オセロに没頭し始めた。


 



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