(20)
「私と新太………………ええええ!?」
隣に座る凌に驚愕し、思わず叫んだ。
唖然と見つめる結子に彼が頷きで肯定したので、途端がっくりと肩を落とした。
互いの想いにようやく気付いた新太と瑞姫をそっとその場に残し、凌に連れられるまま近くの公園までやって来た。
この前花火を眺めたベンチに並んで腰を下ろすと、凌は詳しい事情を話し始めた。
「私と新太が両片思いなんて…………ありえない、何でそんな勘違いを?」
なんと瑞姫は、結子と新太が互いに好き同士だとずっと勘違いしていたらしい。
新太への恋心をようやく自覚した瑞姫は、気持ちを隠そうとするあまり下手な嘘を重ね新太と結子を避け続けた。
しまいには結子に凌が好きかと問われ、とっさに誤魔化し肯定してしまったのだそうだ。
嘘下手で根っから正直者の瑞姫に結子は最後の最後まで騙された。
どうりで新太に告白され、その後すぐ結子に泣きながら謝ってきたわけだ。
「超鈍感なあいつが勘違いするのも無理はないな…………結子さんと新太はそれだけ仲が良すぎる」
じっと前を見つめ顔をしかめる凌は明らかに機嫌が悪そうだ。
確かに親友同士とはいえ仕事も住居もすべて一緒の結子と新太は、傍から見れば夫婦と勘違いされてもおかしくない。
今さら自分と新太を振り返り、勘違いさせてしまった瑞姫に心の中で深く謝った。
「あいつにとって俺は相当な邪魔者だったよ。結子さんの傍に行くたび2人の邪魔をするなって散々怒られた」
結子と新太が両片思いと信じていたのだから、瑞姫があれだけ結子に近付く凌に怒っていたのも今なら納得がいく。
凌だけは最初からすべてをわかっていて、ずっと黙っていたらしい。
前を見つめる凌の横顔をしばらく見つめていた結子だったが、しだいに俯き表情を落ち込ませた。
「……凌さん、ごめんなさい。私なにも気付けませんでした」
自分があまりにも鈍感で周りが見えていなかったせいで、凌を傷つけてしまった。
「何で謝るの? 俺は平気だよ」
「凌さん……」
「俺がしつこくてしぶといのは結子さんが一番わかってるよね? あのくらいじゃ全然へこたれない」
あっけらかんとそう言う彼が俯く結子をのぞき込み、笑った。
ようやく顔を上げた結子は、スカートのポケットにしまっていたそれを彼の前に静かに差し出した。
「私にはもったいないかもしれません…………それでも手離したくないんです。凌さんにもう一度つけてほしいんです」
肌身離さず持っていた凌がくれたバレッタを、今度は結子が差し出した。
まっすぐに凌を見つめた結子の手を、バレッタごと彼は優しく握りしめた。
「何度でも」
結子はただ恋をした。
恋を知らなかった結子に、たった1人凌だけがまっすぐぶつかってきてくれた。
結子はただそんな彼に恋をした。
優しく握られる彼の手を、今初めて自分からぎゅっと握り返した。




