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学校日和2  作者: めろん
94/235

第94回 悪戯日和

 国立魔法学校一階の魔物学の教室にて、


「「……」」


授業がまだ始まっていないのにも関わらず、ウサギさん寮の生徒の皆さんは、勉強道具一式を机の上にばっちりと置き、先生が来るのを静かーに待っていた。


キーンコーンカーンコーン


「「っ!」」


始業のチャイムが鳴り、びくっと肩をあげたのは、三年経っても慣れることのない恐怖、


キーンコーンカーンコーン


ガララッ!


この教室に、セル先生が、


キーンコーンカーンコーン


「ぃよう♪ おっまたへ〜!」


せ……セル先生が……、


キーンコーンカーンコーン


「おお、全員出席オレうれぴい☆」


せ、セル先生??


((せ、セル先生が……))


教室に現れたセル先生を見て、


((ち、ちっちゃくなってる……ッ!?))


ウサギさん寮の生徒の皆さんは、キャラより何より、180を軽く超える長身だった先生が、150強くらいにチビッコ化していることに驚いていた。


(ルゥ様だ。あれ絶対ルゥ様だ)


白銀の髪に紫の瞳はいつもと変わらないのでクラスメイトたちが彼をセル先生だと認めているなか、ミントはひとり、心の中で突っ込んでいた。


「おし、全員教科書の二百三十八ページを」


 真ん丸おめめになっている彼らに気付いていないのか、セル先生、もとい、この国の国王、ルクレツィア=シャイアルク、通称ルゥは、教科書を開


「開くと思いきや全員武器を持て!!」


「「って、えええ?!」」


くと思いきや、いきなりフォークを巨大化させてそう言った。


「えええじゃねぇぞ!! オレと戦ええい!!」


「「ええええええ?!」」


当然のごとく驚いた生徒たちに、フォークを振り回しながら戦いを挑んできた彼を見て、


「どーしたんだろ、セル先生ー?」


「つうかちっちゃくなってねェか?」


「ふふふ、ちっちゃい」


(ルゥ様だ。あれ絶対ルゥ様だ)


小首を傾げるココアとポトフと、何やらご機嫌なプリンと、この教室の中でただ一人だけ彼の正体に気付いているミントであった。
















ピーチチチチチ……


 一方その頃、


「……………………は?」


王都市、シャイアの中心に位置する白亜の王城の最上階にある国王の部屋の広々とした、まさしくキングベッドから身を起こした彼、セル先生は、目覚めの一言を発していた。


「こ……ここは確か、父上様の……いや、今はあいつの部屋か」


彼は辺りをくるりと見渡して呟いた、


「って、何故俺がここにいるんだ?!」


後、珍しく混乱かつ慌てた様子で珍しく大きな声を放った。


コンコン


と、丁度その時、


「失礼致します、ルクレ――」


豪華な装飾が施してある王室の扉が開き、緑色の髪の紳士――国王におつかえする人々の中で最も上の立場にいる国王の側近かつこの城の総長、


「――!!」


「! お、お前、この城の者か―…」


「ルクレツィア様!! やっと……やっと貴方のお父上様のようにご立派に成長なさったのですね!? 私めは、フィーナは感激でございます!!」


フィーナは、感動の涙を滝のごとく流した。


「ま、待て。俺は」


「あんなにちっさかったのにこんなにご立派に……これぞ牛乳パワー!! 胃腸が弱い貴方様の頑張りを、天にまします神様はちゃんと見ていてくださっ……うっ、すみません……うわーん!!」


「い、いや、俺の名はルクレツィアではなくて"セルシオ=ヴォルグランダム"」


「うわーん!!」


セル先生の何やらご立派なお名前を、涙のせいで聞き取れないフィーナ。


「お、おい、そんなに泣くな?」


と、意外に優しいセル先生。


コンコン


ガチャ


「失礼しまー……って」


 なかなか泣き止まないフィーナにセル先生がほとほと困っていたところ、王室の扉が再び開き、撥ねまくった赤い髪が特徴的な、この城の兵士たちの頂点に立つ兵士長、


「うわーん!!」


「何泣いてんだよフィーナ?」


ミントパパ、シャーンが現れ、珍しく泣いているフィーナを見て驚いた。


「! 極短足!!」


「極?!」


そして、セル先生からの酷い呼び名に、言葉では言い表せないほどの傷を心に負った極短足、もとい、シャーンは、


「って、セルシオ?!」


この王室に、国王のルゥではなく国立魔法学校の先生であるセル先生がいることにびっくり仰天した。


「お前、なんでこんなところに?」


「それはむしろ俺が聞きたいって言うかコイツどうにかしろ」


「あ、ああ、分かった。アクアシールド」


「うわ―…」


ごぽん


どうやら二人は知り合いらしく、目の前の出来事に驚きつつも普通に会話をしてみせた。

ついでに、わんわん煩いフィーナは、水の盾に閉じ込めた。


「……まあ、多分ルゥの仕業だろうな」


「当たり前だ。こんなことをする馬鹿など他に誰がいる?」


「……。そうですね」


 取り敢えずは静かになった部屋の中で、口を開いた途端に鋭い突っ込みを受けて落ち込んだ、意外とナイーヴなシャーン。


「ったく、ふざけた真似を……!!」


「はは……まあ、しばらく待ってたらそのうち帰ってくるだろ」


こらえがたい怒りを滲ませた表情で拳をギリギリと握り締めているセル先生をなだめようと、


「アイツ、たまに許しがたいほど悪戯好きではあるけど、ヒトの人生を略奪するような悪いヤツじゃ――」


困ったように笑いながら言い聞かせている途中で、


「――ないといいなぁ」


「希望かよ?!」


自分の発言に自信をなくしたシャーンに、セル先生は珍しく突っ込んだ。















 その頃、


ぴょんぴょんぴょんぴょん


「か、返せ返せ返せ返せぇ!!」


ぴょんぴょんぴょんぴょん


「ふふふ、ちっちゃい」


「ば、バカにすんな!! 返せ返せ返せ返せ!!」


ぴょんぴょんぴょんぴょん


プリンにフォークを取り上げられてその手を上に高く挙げられたルゥは、ぴょんぴょんと必死こいてジャンプして、フォークを取り返そうと試みていた。


「ふふふ」


「ば、バカにすんなよぅ……」


ぴょんぴょん……


――が、


「ちっちゃい」


「うわーん!!」


最終的には、泣かされた。


((な、泣いてるッ!? セル先生が泣いてるッ?!))


そんな彼を見て、未だ彼をセル先生だと信じて疑わないウサギさん寮の生徒の皆さんと、


(ルゥ様だ。あれ絶対ルゥ様だ)


最初からその正体に気付いているにも関わらず、始終なんの動きも見せないミントであった。

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