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学校日和2  作者: めろん
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第92回 免許皆伝日和

 旅館から帰る途中の、バスという名の大型の馬車に揺られながら、


「……はぁ……」


ミントは溜め息と共に、がっくりと頭を落とした。


「む。ミント、頭落ちた」


ので、プリンがそれを拾い上げ―…って、怖い怖い。


「どォしたんだァ?」


力なくうなだれた彼に、ポトフが小首を傾げながら尋ねると、


「……や……なんか、つくづくカッコ悪いなぁって思って……」


ミントはうなだれたまま、呟くように質問に答えた。


「む? 馬鹿犬がか?」


「ん? 何そのカッコ悪い=俺的な思考回路?」


「びっくり。よく出来マシタ」


「あっはっは、なんか鈍器とかねェかな?」


そんな元気のない彼を挟んで、いつものように会話するプリンとポトフ。


「……ゆえに、オレもかっこよくなりたいなと」


ほのぼのと喧嘩腰になり始めた彼らの間で、ミントはぎゅっと鞄を握り締めてそう言った。


「え? 俺みたいに?」


それを聞いて、ポトフは黒い髪をふぁさっと払いながら聞き返した。


「うん」


すると、ミントはこっくり頷いた。


「……」


「……」


「……」


「……」


「「……。え?」」


ので、プリンのみならずポトフまでもが目を見開いて固まった。


「オレ、ポトフみたいにかっこよくなりたい」


びっくり仰天顔で停止しているポトフに、顔を上げたミントは真っ直ぐな目を向け、


「だってオレなんてチロルと一緒にいると何かあるとすぐ赤くなっちゃって返答すらろくに出来なくなっちゃうのに、ポトフはさっき別れ際にココアにあけおめことよろ的なことを言った後にちゅーしても」


「んだとこの眼帯ヤ――」


「全然赤くなってなかったし普通ににっこり笑ってたでしょ? だから、オレもそんなふうになりたい!」


途中で何故かバスに乗っていて後方から不良のように絡んできたショコラを振り向きもせずにグーで伸しつつ、真剣そのものの表情で彼に弟子入りを志願した。


「ぴわわ……み、ミント、熱でもあるの―…」


「ふっ……俺に任せろ、ミント」


本気でミントの頭の状態を心配するプリンの口を左手で封じつつ、ポトフはふっと微笑んで頼もしい言葉を返した。


「! 本当?!」


「あっは、俺がミントの頼みを断るわけねェだろ?」


「む〜っ!」


そんなこんなで、目を輝かせたミントとにこっと笑うポトフと彼に口を押さえられてむぅちゃん化したプリンは、


『アクリウム前ーアクリウム前ー』


「お。じゃァ、まずは俺の家に行こォぜェ?」


「うん!」


「む〜っ!!」


ポトフの家に向かうのであった。













 アクリウムにある青い屋根の家の中の、


「……なんか、何もないねぇ?」


「うむ。びっくり」


ガランとしたポトフの部屋にちょこんと座ったミントとプリンは、意外そうに部屋の中を見回した。


「なんかこう……もっとすごいのかと思ったのに」


「うむ。何かこう、ぐちゃぐちゃーな感じで」


「バリバリーな感じで」


「ちかちかーな感じで」


「ノリノリーな感じで」


「趣味悪ーな感じで」


「趣味悪ってなんだ趣味悪って」


と、ミントとプリンが抽象的な会話をしていると、何かがたくさん入った箱と飲み物を載せたお盆を持ったポトフがやって来て、聞き捨てならないことを口にしたプリンをごすっと箱で黙らせた。


「ぴわ?!」


「……つうか、なんで枕までいるんだよ?」


いきなり後頭部を殴られ前のめりになった彼に、ポトフがテーブルにお盆を置きながら尋ねると、


「……。…………、……………………………さあ?」


プリンはしばらく真剣に考えた後、疑問符を浮かべて小首を傾げた。


「お前、もっと自分の意思をもって行動しろよ?」


そんな彼に、ポトフがさらりとそう言うと、


「うむ、分かった。牛乳ヤー」


プリンはこくりと頷いて、目の前に置かれた牛乳に文句を言った。


「まァこんなバカはほっといて、本題に入るぜミント?」


「う、うん……」


牛乳ビンを口の中に突っ込まれたプリンを、気の毒というか自業自得というか、取り敢えず複雑な気持ちで横目に見ながら、ミントはポトフの言葉に頷いた。


「こほん、ミントはすぐ顔が赤くなるのと返答が出来なくなるのを治したいとな?」


「えっと……そ、そうぞなもし?」


ポトフのキャラに合わせようと言葉を選んだが、若干自信がない様子なミント。


「まァそォいうとこも可愛いんだけ――ゴホンッ! えェと、顔が赤くなるのは恥ずかしいとかそういう感情、もしくは風邪を引いて熱が出てることが理由で、返答が出来なくなるのは緊張している、もしくは返答したら自分にとって不利益なことが生じるというのがまァ大体の理由だ」


ミントの微妙な努力も虚しく、さららといつも通りに語り出したポトフは、


「恐らくミントの場合はどっちも前者だな」


「……え? ええ、まあ、そうですね?」


文脈と状況から考えて単純明快でありそうなことを真剣に推測した。

ちなみに、ミントは彼の最初の呟きは無視という方向にしたようである。


「詰まり、ミントはそういう状況に慣れていないということだ」


そしてピンと人さし指を立てて、彼なりの結論を下した。


「! な、成程……」


その言葉にハッとして、こくこくと頷くミント。


「てなわけで」


すると、ポトフはコホンと咳払いをして、


「はいどォぞ」


彼が持ってきた箱をどさっとテーブルの上に置いた。


「? これは?」


フタがしまっている為に中身が見えないので、ミントが小首を傾げると、


「おねェさんイチオシの純恋愛ストーリー映画ズだぜェ♪」


ポトフはパカッとフタを開けながら、にこっと笑ってそう言った。


「…………………はい?」


「ぷはっ」


ミントが彼の言葉を聞き返すと同時に、プリンの口から牛乳ビンが取れ、


バァン!!


「そう! これを見たらいい勉強になるわよミントくん!!」


金髪お姉さんのエリアが、茶髪お兄さんのソラを引き連れやって来た。


「って、ええ!? 僕も?!」


ちなみに、ソラは巻き込まれただけの模様。


「あ、おねェさん。まずはどれからがいいと思います?」


「そうね、やっぱり"ボブとアリエッタ"からがいいんじゃないかしら?」


「そォですね。はいスタァト♪」


――こうして、


『大丈夫……キミは何があっても俺が守るよ、アリエッタ……』


『ボブ……!!』


「うふふ〜、素敵ね〜♪」


「はい!」


「……なんかオレ、すっごく寒くなってきた」


「あは……僕もだよミントくん」


「ぷわ……ねむねむ」


彼らは仲良く華々しくも寒々とした映画を、長時間に渡って鑑賞することになったのであった。

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