第88回 イブイブ日和
「? あれー? ミントがいないよー?」
冬の間の長期休暇の為、国立魔法学校の生徒たちで賑わう駅のホームにて、ミントがいないことにふと気が付いたココアは、きょろきょろと辺りを見回した。
「む。ミントいない」
「それさっきココアちゃんが言ったじゃねェか」
彼女に言われてそのことに気が付いたプリンとポトフも、彼女と同じように辺りを見回す。
「うーん、どこ行っちゃったのかなー?」
さっきまで一緒にいた彼がいないことによって、ココアは非常に困っていた。
と、いうのも、
(……ミントがいないと、周りからの視線が尋常じゃないくらいおっかなくなるんですけどー……)
「ミントー?」
「っかしいなァ……ミント〜ォ?」
彼女が、プリンとポトフが並んで歩こうとしない為、女子生徒の皆さんに未だ大人気な彼ら二人に挟まれるかたちになるから。
(……。よく考えたら、なんでミントがいたら視線が和らぐんだろー?)
確かに、彼女の周りにいる異性が増えることになるのに、周囲からの敵意が和らぐのは不思議である。
「あ、ごめん! 探してくれてたの?」
「「! ミント!」」
そんなことを考えていると、人混みの向こうからミントが走ってやって来た。
(あ。和らいだ和らいだ)
同時に、周囲からの視線が和らいだ。
「ミント、どこ行ってたの?」
「もォ、心配したじゃねェか?」
「ホントホントー。プリンの二の舞になってるのかと思ったよー」
「ごめんごめん―…って、それシャレになんないよ本気で」
友人に心配してもらった彼が、本気と書いてマジと読んだ直後、
「あ。噂をすればー」
ココアがすっと前方を指さし、
「おんぎゃあ?!」
「む。ミントが産まれた」
彼らの前を、ムキムキくんが通りすぎていった。
「素通り……ってことは、ちゃんと枕のこと忘れたみたいだな?」
相変わらずむっさいなァ、とか思いながら、ポトフがぽつりと呟くと、
「あ。ポトフがプリンのこと心配してる」
「じゃー明日はホワイトクリスマスイヴだねー」
「貴様に心配される筋合いはない」
ミントとココアは物珍しそうに彼を見て、プリンはそんな彼を鼻であしらった。
「べ、別に心配なんかしてねェよ!?」
「あ。ポトフが照れてる」
「じゃー明後日はホワイトクリスマスだねー」
「ててっ、照れてもねェ! ってェか、あァもォ……おんぎゃァ!!」
「移るのかそれは」
そんなことを言いながら、四人は蒸気機関車に乗り込んだ。
「さてと」
がたごと揺れる車内で、ミントはおもむろにナイフを持ち出した。
「「?!」」
ので、
「みみ、ミントっ?!」
「おぉお、落ち着いてよー!?」
「そォだぜホラひっひっふー!!」
同室にいたプリンとココアとポトフは、ガタッと立ち上がって両手を前に突き出した。
「オレに何を産めってのさ?」
そんな彼らに突っ込みを入れた後、
「まあ、順番間違えたオレが悪いんだけど」
ミントは、自分のバッグの中から四角の箱を取り出した。
「はい。えっと、ちょっと早いけど、冬休みになっちゃうし。というわけで、メリークリスマス、と、誕生日おめでと〜」
それをパカッと開けると、真っ赤なイチゴが載ったホールケーキが現れた。
「「!」」
それを見てびっくり顔になった三人に、
「……それと、期末テスト前に勉強見てくれたお礼デス」
ミントは申し訳なさそうに笑ってそう言った。
「「っわー!! ありがとう、ミント!!」」
「あはは、どういたしまして」
途端に目を輝かせてお礼を言ってきた彼らに返事をした後、ミントはホールケーキを四つに切り分けた。
「はいどうぞ」
そしてパキンと指を打ち鳴らし、それぞれの手元にお皿に載せたケーキとフォークを渡した。
「わー! ケーキだー!」
「うむ。まごうことなきケーキだ」
「おォし! じゃァちょっと早いけど」
ミントからのクリスマスケーキを受け取った三人は、椅子に座り直すと嬉しそうに顔を上げ、
「「メリークリスマス!」」
お決まりの言葉を口にした。
ぴくっ
――が、彼らはうっかり忘れていた。
「……クリスマス?」
このなかに一人、クリスマスという単語が嫌いな人物がいたことを。
「「?」」
彼らが顔をその人物に向けた頃には時既に遅し。
「……誰が……誰が……」
彼、ミントは、わなわなと震えながら小さな声を発したかと思うと、
「誰がクリスマスが服着てるヤツだコラアアアアアア!!」
包丁を持ったまま、ぐわーっと立ち上がって雄叫びを上げなさった。
「いいい、いや、誰もそんなこと言ってねェぞミント?!」
「って言うかその単語駅のホームでも言ったって言うかさっき自分で言ってたじゃーん!?」
「ふむ。どうやらホワイトがつくものと、自分が言うのは構わないようだな」
「「って冷静に解析してる場合かーーー!?」」
わたわたあせあせとしながらも、まったく焦った様子のないプリンに息のあった突っ込みをココアとポトフがかました後、
「おんぎゃあああああ!!」
「「おんぎゃあああ?!」」
赤子が産まれた時のような叫び声を上げながら、彼らはドタバタと汽車の中を駆け回り出した。
「……あ、移っちゃった」
「「ってだから余裕だなオイィィィ?!」」