表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学校日和2  作者: めろん
87/235

第87回 持久走日和

 北風の吹く寒い日の朝、国立魔法学校の玄関前に、ジャージ姿の生徒たちがやって来た。


「ぷゆぅ、ちゃぶい」


なかなかジャージというものが似合っていない彼、プリンは、抱えていた枕をきゅーときつく抱き締めた。


「わは〜、今日は本当に寒いね〜」


ほわっと白くなった自分の息を見て、ミントがほのぼのとそう言うと、


「なんでもっと早く言わねェんだよ、ミント?」


彼は、ポトフにきゅーっときつく抱き締められた。


「……って、何してんのさポトフ?」


「抱擁V」


「マッド」


『『ジェラララァ!!』』


 という具合いに、マッドホイップがポトフの頭に噛みついた時、


「よし、全員揃ったな」


ニット帽を被ったオレンジ色の髪の体育教師のエル先生は、出席簿を魔法で片付けた。


「……」


「……」


『『ジェラ』』


そして、頭から血をどくどく流しているポトフと目が合った。


「……大丈夫か?」


「大丈夫じゃありません」


「大丈夫か。ほんなら」


自分で問い掛けたクセに彼の解答をさらりとクールに流したエル先生は、


「持久走、始めるで」


スッとピストルの銃口を空に向けた。


「「え?」」


「"え?"やない。持久走始めるで」


一律に疑問符を浮かべたウサギさん寮の男子生徒たちに、エル先生はさらりと言い返した。


「い、いや、でもセンセ、コースはどない―…」


そんなエル先生に、彼と同じようなニット帽を被ったソバカス少年、タマゴが質問すると、


「このセイクリッド島、一周じゃ」


エル先生は、涼しげな、かつ、不敵な笑みを浮かべてそう言った。


「「い、いっ」」


「文句ある奴は、このピストル眉間に撃ち込んだるで?」


((え? それ本物なんですか?))


彼はクールに生徒たちを黙らせると、


「いくで」


左手と右腕で耳を塞ぎ、


「持久走の、始まりじゃあああああ!!」


ドパアアアアアアアン!!


と、いつも通り、オーバーヒートした。


「おォし! どっちが先にゴールにつくか競争だぜ、ミントォ!」


「むう! ポトフなんかに負けないんだからぁ!」


「あっは、言ったな〜ァっ!」


銃声と一緒に元気よく駆け出したのは、いつの間にか回復魔法を使っていたポトフと、いつの間にかマッドをしまっていたミント。


「島一周って、どんだけあると思ってるんですかあっ?!」


「……まあ、地図で見た感じはちっさい島やけどな」


「ふにゃあ、それは縮尺の問題ですううう!!」


彼らに遅れていやいやながら走り出したのは、猫耳少年のサラダとタマゴと、その他のウサギさん寮の男子生徒たち。


「わっしゃっしゃっ! やっぱ子どもはこうでないと―…」


 だんだんと小さくなっていく彼らを見て、腰に手を当てながら軽快に笑っている途中で、


「―…な……」


「ぷわ……」


エル先生は、スタートラインにプリンが立っていることに気が付いた。


「……ねむねむ……」


しかも、かなり眠そうだ。


「何しとんのじゃアラモードおおお?!」


スッパアアアアアアン!!


「ぴわ?!」


ので、エル先生は思わずスリッパで彼をどついた。


「……痛い」


「! ご、ごめんなぁ―…って、ちゃうわ!! おどれはここで何しとんのじゃ?!」


思わず謝ってしまったエル先生は、はっと我に返ってプリンに問うた。


「……。まばたき」


「なんでやねん?!」


スパアアアアアアアン!!


ちょっと考えた後のプリンの答えに、勢いのいい突っ込みを入れるエル先生。


「む? まばたきしないと目が乾くだろう?」


「んなこた百も承知じゃボケえ!!」


小首を傾げたプリンに、エル先生はもういっちょ突っ込みをかました後、


「……お前、またサボる気じゃあ、あるまいな?」


と、片方の目を細くして質問した。


「ううむ。サボタージュする気だ」


「一緒じゃボケえ!!」


スッパアアアアアアン!!


きっぱりと答えたプリンにスリッパ突っ込みをきめたエル先生は、


「体育を休むってんなら、きっちんとこの紙に理由を書いてもらうで?」


ぽんっと原稿用紙を呼び出し、ズバッとプリンにそれを突き付けた。


「む……分かった」


その紙を面倒臭そうに受け取ったプリンは、面倒臭そうにペンを呼び出し、面倒臭そうにさらさらと理由を書いて、


「はい」


面倒臭そうにそれを先生に提出した。


「おし、どれどれぇ?」


そこには、プリンの、教科書のごとく綺麗な文字で、


"走りたくないから"


と、書いてあった。


「……ほっほ〜う、べらぼうに素直な理由やな〜?」


「……照れる」


「って、だ〜れ〜が〜認めるか」


それをびりびりと破ってポイッと後ろに投げ捨てたエル先生は、


「む、ポイ捨てよくない」


と、正統派な発言をしたプリンの、頭の後ろでひとつに束ねてある長い髪をしっかと掴むと、


「強制参加じゃあアラモードおおおおお!!」


「ぴわわわわっ?!」


そのまま勢いよく駆け出した。


「おおお! なんや燃えてきたでえええ!!」


「ヤー! ヤー! 寒いのヤー! 走るのヤー!」


「子どもは風の子おおおおお!!」


「ヤーーーーーーっ!!」


プリンの心の底からの力いっぱいの拒絶も虚しく、彼は両目にメラメラと盛んに燃え上がる炎が宿ったエル先生によって強制的に持久走に参加させられる羽目になったのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ