第82回 疾走日和
あからさまな悪役の手紙に誘われて、
「プリン……大丈夫かなぁ?」
「あ、あっはっはっ、大丈夫に決まってんだろォ?」
「そ、そうだよー! 何せあのプリンだよー?」
ミントたちは、青の森の中を歩いていた。
「「……」」
あのプリン、と聞いて、そんなに顔を会わせているわけでもないのだが、リンとウララは余計に心配になっていた。
「そ……そうだよね! あの、枕が手から離れない限り何があってもほとんど起きないプリンだもん、大丈夫だよね!」
「そォだぜ! あの、頭いいクセにバカでドジで間が抜けててどんくさい枕だから大丈夫だぜェ!」
「うんうん! あの、ことあるごとに"ぷゆ"とか"ぴわ"とか言ってるプリンだし、大丈夫だよー!」
先を歩く彼らの会話を聞いて、
「「……」」
リンとウララは、ますます心配になっていた。
「わあ、すごいよ、ユウ! 森が青いよ!」
「ああ、そうだな」
その後ろで、周りの木々を見回しながら友人の袖を引くアオイと、それにふっと微笑んで答えるユウ。
「わあ、すごいぞ、ゆうこり」
「《暗雲の閃光は破滅をもたらす》」
その反対隣で彼の袖を引きながら同じ調子で死神が言うと、ユウは躊躇なく彼をぶっ飛ばした。
「……ゆうこりんのひーき……」
「……それにしても、隣の席の奴が誘拐されたのに気付かなかったのか?」
黒コゲ死神の言葉を当然のごとく無視して、ユウはきゅうりを取り出しながらぼそっと呟いた。
「あ、それ私も思った」
彼の呟きを拾い、
「ねえ、ミント。隣の席だったんでしょ? それなのにどうして気が付かなかったの?」
ウララは、小首を傾げながらミントに質問した。
「「――!?」」
直後、一様に見開かれた皆の目が、一斉に彼女に向けられた。
「……え?」
私、何か変なこと言った? とか考えていると、
「……そう……だよね?」
「――!?」
彼らの先頭を歩いていたミントを見て、ウララはびっくり驚いた。
「オレの……オレのせい、だよねっ?」
何故なら、彼の肩と声が、込み上げてくる感情によって震えていたから。
「オレが……気付かなかったから……っ」
「ち、違っ!! そういう意味じゃ」
「ごめ……ごめん……なさ……っ、ふええ〜ん!! プリン〜!!」
「「! ミント!!」」
ウララの否定の言葉も聞かずに、責任を感じたミントが泣きながら駆け出したので、ポトフとアオイは慌てて彼を追い掛けた。
「……ない……って、あ、あれ?」
最後まで言葉を紡いだウララは、
「「……」」
自分にビシバシと非難の目が向けられていることに気が付いた。
「……ウララ、ひどい、です」
「ホントだよー! そんなこと言ったら責任感じるに決まってるじゃーん!」
「うららんサーイテー」
その次の瞬間、リンとココアと死神は、女の子な口調で彼女を責めた。
「違っ、って言うか、これはユウが――」
ので、ウララは責任転換を試みた。
「空気読め、どアホ」
が、きゅうりを持ったユウが楽しそうなお顔をしていらしたので、
「――巧妙な罠?!」
彼女は、自分が罠にはまってしまったことに気が付いた。
「っもー、兎に角、ミントに追い付くよー!」
「そしたら、ミントさんにちゃんと謝ってください、です」
「わっ、分かってるわよぉ!」
「ぷ。泣いてやんの」
「しばくぞウラァ!!」
「びゅーん」
「って、いや、走れよお前!?」
そう言ってココアとリンとユウは走り出し、死神は巨大な鎌の刃と柄に足をかけて飛び、ウララは突っ込みながら駆け出した。
一方、彼らのずっと前方で涙を散らしながら走り去っていったミントを、
「待てよミントォ!!」
「待ってミント!!」
ポトフとアオイは、必死こいて追い掛けていた。
「うわーん!! プリンー!!」
しかし、ミントは彼らの言葉など聞きもせずに爆走する。
「っの……」
ので、ポトフはふっと体勢を低くして、
「待てェェェ!!」
「うわあ?!」
力いっぱい地を蹴って更に加速し、前方を走るミントをガシッとしっかり捕まえた。
「ほかァく!」
「わあ、ポトフすごい!」
まるで鹿でも捕まえたかのような言葉を口にするポトフと、少し息を切らせながらもくすりと笑ってぱちぱちと手を叩くアオイ。
「っやだやだやだあ!! 離して離してはーなーしーてー!!」
ポトフにがっしりと腕を掴まれてながらも、ミントは必死に抵抗していた。
「……離さねェよ」
そんな彼に、若干荒くなっていた呼吸を整えたポトフは、
「離したら、また走り出すだろォ?」
「だってだってオレのせいでプリンが」
「おーちーつーけ。だからミントのせいじゃねェ。って言うか」
ミントの言葉を遮って、すっと後方を指さした。
「目的地過ぎてる」
そして、衝撃の事実を口にした。
「うん。だいぶ前に通りすぎちゃったよ?」
その後、アオイが衝撃の事実を付け足した。
「……」
「……」
「……」
間。
「……え?」
「だァら"待て"って言っただろォ?」
「え、ええええええ?!」
「あ、で、でもほらっ! ウォームアップ出来たよね!」
自分の迂濶さに悲しくなったミントと、小さな溜め息をつくポトフと、物事をポジティブに取ってミントを励まそうとするアオイであった。