第8回 弱点日和
「ミントー、早く行くよー?」
「あ、うん」
青の森に入っていったココアとミントが見えなくなった頃、
「はァ……何故だ……何故俺だけ六匹なんだ……」
森の入り口で、ポトフががっくりと肩を落とした。
「……それだけ頼りにされているということだろう」
するとその隣で、枕を抱えたプリンがそう言った。
「――! そっか、そォだよなァ!! あっはっはっ! 流石俺!!」
その言葉を聞き、たちまち元気になるポトフ。
「うむ。やはりイケメンは違うな」
「だろォ?! よォし!! ここは六匹とは言わず、景気よく八匹ぐらいやってやるぜェ!! あっはっはっ!」
プリンに煽られてますますやる気が出たポトフは、軽快な足取りで森の中へと入っていった。
「うむ。頑張れ」
そんな彼の後ろ姿を見て、プリンは黒く微笑んだ。
「僕の分まで」
プリンの底は、黒いのだ。
「見て見て、ココア! 青い薔薇が咲いてるよ!」
「わーホントだスゴーイ」
昼下がりの青の森の茂みの中。
ミントはこの森に存在する青系統の色の植物に小声で感動し、ココアはそれを小声で受け流していた。
二人が小声で話している理由は、只今スケッチしている魔物に気付かれないようにしている為である。
ちなみに、スケッチしているのはココアだけ。
「青い薔薇は確か"奇跡"を意味してたから……この森は奇跡に、ミラクルに満ち溢れているんだね!」
「わー、ちょー凄いねー」
"奇跡"を何故か"ミラクル"と言い直したミントはスケッチをせずに、ココアの隣で、美しく咲いている青い薔薇に目を輝かせている。
「……こんなもんかなー? ま、いいや。ミントー、次行くよー?」
「あうぅ、花子〜……」
魔物のスケッチが完成したので、ココアがミントを引っ張りながら魔物に気付かれぬように回れ右して茂みを出ると、
「え」
「え?」
彼女は固まり、青薔薇の花子との別れを惜しんでいたミントが不思議に思って振り向いた。
「え」
そして、ミントもまた彼女と同じように固まった。
『『ねばぁ』』
何故なら、二人はカタツムリに包囲されていたから。
「……さて問題です。姿形が似ている動物と魔物との間にはどんな違いがあるでしょーか、ミントさん?」
固まったココアが、カタツムリから目を離さずに問題を出すと、
「取る行動が違うことがあります、ココアさん。動物の方は人間を見たらほとんど逃げ出しますが、魔物の方は人間を見てもほとんど逃げずに立ち向かって来ます」
ミントはその問いに、彼女と同じ調子で答えた。
「そうですね。では、その他にはどんな違いがあるでしょーか?」
「その他には、大きさが違うことがあります。しばしば動物の方よりも、魔物の方が大きかったりします」
ミントが答え終わると、ココアは爽やかな笑みを浮かべながら彼に顔を向けた。
「それでは、ミントさん。この大きなカタツムリさんたちは動物ですか?」
「いいえ、魔物です」
最後の質問に、ミントが爽やかな笑顔で答えた途端、
『『ねばああああ!!』』
巨大カタツムリの魔物が、威勢のいい雄叫びとは裏腹に、非常にゆっくりとミントとココアに迫ってきた。
「きゃああああああ!!」
するとココアが甲高い悲鳴をあげ、素早くミントの背中に隠れて彼を盾にした。
「こ、ココア?」
悲鳴をあげたことに驚いたミントが彼女の名前を呼ぶと、
「わ、わた、カタツムリ、ダメッ――いやあああ!! 来ないでえええ!!」
涙目のココアは、ミントの背中にしがみつきながら、顔を真っ青にして叫んだ。
「つつつ、ツインホイップううう!!」
ので、涙が弱点なミントも顔を真っ青にして叫んだ。
『『ジェララララ!!』』
直後、彼の両手に二本の鞭が装備された。
一本は、先端に真っ赤な薔薇と二枚の葉がついた薔薇の鞭、"ローズホイップ"。
もう一本は、鋭い牙を光らせ、紫色の舌を垂らして危険に笑う、二枚貝のような葉を四枚つけた食人植物の鞭、"マッドホイップ"。
「ココアを泣かすな!!」
台詞はかっこいいのだが、顔は非常に強張っている。
「舞い散れ! "矢車菊"!!」
ミントは二本の鞭を強く握り締めると、背中にココアをくっつけたままその場で勢いよく回転し、回転斬りならぬ回転打ちを放った。
べちゃちゃちゃちゃっ!!
回転打ちを喰らい、魔物は気持ちの悪い音と共に勢いよく四方八方に吹っ飛んでいった。
『『ねばぎばああ!!』』
と叫びながら。
魔物がお星様になった後。
ミントとココア
「「……ネバギバ?」」