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学校日和2  作者: めろん
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第66回 風邪引き日和

 綺麗に晴れた秋空の下、国立魔法学校の広々としたグラウンドにて、秋らしく学校らしく、体育祭が開かれていた。


『……よし、全員位置についたな。ほんじゃあ、』


寮ごとに分かれて指定された位置に集まった生徒たちを見て、ニット帽を被ったオレンジ髪の体育担当のエル先生は、マイクを取ってクールに口を開いた。


『大玉入れの、始まりじゃあああ!!』


そして、突然オーバーヒートした。


「「? 大玉―…」」


ぼぅん


「「―…って、本当にデカあ?!」」


彼が指を打ち鳴らすと同時に現れた無数の大玉に、息のぴったり合ったリアクションをする生徒たち。


『どうした、おどれら?! 試合はもう始まってるんやぞお!?』


試合を開始したのにも関わらず、誰も大玉を投げないので、ご立腹なエル先生。


「先生」


そんななか、勇気ある少女がすっと手を挙げた。


『?! なんじゃあ、ヨーグルト!?』


「玉が大きい必要性が分かりません、と言いますか、玉が大きくてカゴに入りません」


そして彼女、アロエは、暴走気味のエル先生にさらりとそう言った。


『気合いが足りいいいいん!!』


すると、エル先生はマイクを投げ捨て、


『うおおお!! 気合いじゃあああ!!』


とか叫びながら、自ら大玉をカゴに向かって投げ始めた。


「……! 成程、気合いか!」


「そ、そっか! 気合いかぁ!」


「よ、よし、俺たちも気合いだ!!」


「「おおー!!」」


熱血エル先生の大きな背中を前に、見事その気になってしまった生徒たちは、彼と同じように大玉を、それがとても入りそうもない小さなカゴへと、いや、夢と希望に満ち溢れた明日へと向かって投げ始めた。


『こ、これが教育……!』


それを見て、クー先生は目を輝かせ、


『暑苦しいですね』


ポリー先生は彼女とは正反対の感想を述べた。


「……暑苦しいのは性に合いません」


「アロエは炎属性なのにねー?」


熱い闘魂に火がついたエル先生とその他の生徒たちを眺めながら言うアロエとココアと、


「ミントきゅん? ミントきゅんはいずこ〜?」


そんなことは意にも介さずきょろきょろとミントを探しているチロルであった。












「うはァ〜……相変わらず無茶苦茶だなこの学校」


 ウサギさん寮の男子寮の部屋の窓からグラウンドを見下ろし、ポトフは思わず苦笑いをした。


「コホ……ね、オレは大丈夫だから二人は体育祭に行ってきなよ?」


すると彼の後ろから、かすれた声が聞こえてきた。


「ヤ」


ので、その声の主、ミントの額に濡れたタオルを置きながらプリンが言った。


「いや、"ヤ"じゃなくて」


「ヤー」


「長音符つけたら……て、コホ、こんなの前にもあったよね?」


風邪を引いていながらも突っ込みを入れることを休まないミント。


「ミントと一緒」


ぷうっと膨れて譲らないプリン。


「珍しく同意見」


腕を組んで頷きながら言うポトフ。


「あは……ありがと、二人とも」


そんな彼らに弱々しく笑いながらミントがお礼を言うと、


「……照れる」


「あっはっはっ! 気にすんなってェ♪ それに」


プリンはいつものように枕で顔を隠し、ポトフはいつものように明るく笑ってから、


「ミントがいねェと詰まんねェもんな?」


「うむ。知らない人ばっかりで」


と、顔を見合わせながら言った。


「……え? "知らない人ばっかりで"?」


彼らの言葉を確認するようにゆっくりと聞き返すミント。


「うむ」


「おう」


それに、プリンとポトフはこっくりと頷いた。


「え、えええ?! コホ、さ、三年間も同じところでご飯食べてるのに!?」


ので、ミントはむせながら驚いた。


「……ふむ。そう言われてみれば」


「そォ……だけど、食うことに集中してるからなァ」


そう言われて初めて気が付いたかのように、顎に右手を当てるプリンと、ぽりぽりと頭を掻くポトフ。


「いやでも、コホコホ、っキミらあんなに女子に自己紹介されてたでしょ!?」


喉は痛いが突っ込まずにはいられない突っ込み根性をもったミント。


「前はバッチリ覚えてたけど、今はココアちゃん一本ですからっ!」


「うむ。人間の脳は、興味がないことはすぐに忘れてしまうからな」


えへんと胸を張って自信たっぷりに言うポトフと、聞き捨てならない台詞を素で吐くプリン。


「えええ? じゃ、コホ、本当に知らない人ばっかりなの? ウサギさん寮の人が何人いるかも分からないの?」


驚いたようにミントが尋ねると、


「「……」」


プリンとポトフは再び顔を見合わせた。


「ミントと僕と」


「ココアちゃんと俺と」


「……」


「……」


「……」


「……」


「「……。四人?」」


「大ハズレ」


彼らの記憶にあるウサギさん寮の人物は、たったの四人だけのようだ。


「あのねぇ……ウサギさん寮には、コホ、三十一人いるんですけど?」


呆れたように溜め息をつきながらミントが言うと、


「むっ。タオル乾いちゃった」


「お、おォ、本当だ!」


彼らはわざとらしく話題転換した。


「はあ……コホコホ」


 ミントの額に乗っていたタオルを濡らしにプリンがぱたぱたと走っていくと、ミントは再びの溜め息をついた。


「大丈夫かァ?」


「コホ……うん」


「……」


時々苦しそうに咳をして声が枯れている顔が赤い彼を見て、


「……。……風邪は、移すと治る……」


つらそうな表情のまま、ポトフはぽつりと呟いた。


「? コホ、何か言っ」


「なら、俺が貰ってやる」


その後、有言実行。

至極真剣な表情で、ポトフはその綺麗な顔をミントに近付けた。


「え?」


「……ミント……」


「いやいやいやいや何を血迷っていらっしゃるんですかポトフさああああああん?!」


ので、ミントはその顔を両手でがっしりと捕まえて力の限り自分の顔から遠ざけた。

すると、


バァン!!


「「?」」


突然部屋の扉が勢いよく開いた。


「ミントきゅん!!」


「?! ゴホ、ち、チロル!?」


そして、酷く慌てた様子のチロルが現れた。


「コホゴホ、ど、どうしてここに?!」


「こ、ココアにミントきゅんがハヴァクォールドって聞いたから」


「発音いいな―…」


チロルはミントの問いに答えた後、


「……ミントきゅん……」


「―…って、オイ」


その綺麗な顔を、ミントの顔に近付けた。


「何をなさっておられるのですか?」


ので、ポトフを押さえていた左手だけを離し、それで彼女の顔を同じように遠ざけた。


「やん、照れちゃって可愛いっ♪」


するとチロルは彼の左手に自分の手を重ねながら、


「風邪は、移すと治るって言うでしょ? だから、アタイが貰ってあげちゃう〜みたいな〜っ♪」


にっこりと笑ってそう言った。


「……わぁ、それさっきも聞いた」


熱があるにも関わらず、同じ理由で同じように美男と美女に迫られ、顔を青くしたミントのところに、


「ミント、おかゆ出来たっ!」


「ミントさんが動けないって本当ですか?」


爆発した何かを持ったプリンと、危険に光るメスを持ったアロエが現れた。


「わはー、愛されてるね、ミントー?」


アロエの隣でのほほんと笑うココアと、


「……ウン。超うれしー」


風邪は引くもんじゃないなあ、と、心の底から思ったミントであった。

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