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学校日和2  作者: めろん
62/235

第62回 雨と森日和

 ぽつぽつと雨に窓ガラスを濡らされながら、真っ黒な蒸気機関車は国立魔法学校に向けて走っていた。


コツ


「チェックメイト」


車内の個室にて、駒を動かしたプリンがさらりと言うと、


「っだァァァァァァ!!」


彼との勝負に負けたポトフは、魔法で宙に浮いていたチェスの盤を引っくり返した。


「あはは、またプリンの勝ち〜」


「……照れる」


「くっそ、どォして……」


隣でコーラを飲みながら観戦していたミントが笑いながら言うと、プリンは枕で顔を隠し、ポトフは悔しそうに自分でバラバラにしてしまったチェスの駒を拾い始めた。


「プリンってチェス強いんだね〜?」


先程から勝ちまくっている彼にミントが言った。


「ううむ。こいつが弱いだけだ」


「喧嘩売ってんのかテメェ?!」


すると、プリンは首を横に振り、ポトフは拾った駒を彼に投げつけた。


「微風」


が、それらは全て向きを変え、ポトフの顔面へと向かっていった。


『はいはい、お菓子やジュースはいらんかね〜?』


ガラッ


「コーラください!」


「僕はプリンだ」


駒に負けて倒れたポトフを無視して、おばちゃんからコーラとプリンを購入するミントとプリン。


「ね、じゃあ、今度はオレとやろうよ!」


「うむ。いいぞ」


その後、彼らは楽しげにチェスを始めた。


「……」


とことん無視されているポトフは、起き上がって窓の外に目を向けた時、


「……。雨」


外では雨が降っていることに初めて気が付いた。


(雨は好かねェ)


とか思いながら、だから今日はついてないんだな、とポトフが自分に言い聞かせていると、


ガララッ


「おっはよー!」


元気よくココアが現れた。


「おっはよォ、会いたかったぜココアちゃァんV」


「うん、おはよーポトフ。イービルフィアー」


同時に、彼女を抱き締めようとしたポトフは思い切り後方へとぶっ飛ばされた。


ガッシャーン!!


「ぴわ?!」


「ああ!? 何やってんのさポトフ?! 折角いいとこだったのに!!」


ので、チェスの試合を邪魔してしまった彼は、ミントに怒られた。













 国立魔法学校前の駅に到着すると、生徒たちは学校へと続く森の中に入っていった。


「やーだなー。雨降ってるのにー」


荷物を引きながら、ココアが嫌そうな声を発すると、


「! じゃァ、俺が」


「でもしょーがないかー。行こー?」


ポトフが何かしようとしたが、彼女は森の中へと歩き出した。


「あはは……どんまいポトフ」


何やら先程から可哀想な彼の背中を弱く叩くミント。


「ミントォ……」


うるりら


「! な、泣かないの!」


うるりらと若干うるんだ彼の瞳を見て、ミントはどこからか骨付き肉を持ち出して、彼の口に突っ込んだ。


「! ……ふむ」


 森に少し足を踏み入れたところで、プリンははたと立ち止まった。


「? どしたのー、プリンー?」


そんな彼に、自分も足を止めながら、ココアが疑問符を浮かべると、


「これは、空間遮断魔法」


プリンは辺りを見回してからそう言った。


「「?」」


その言葉に、疑問符を浮かべるミントとココアとポトフ。


「この森と、この森の外との空間が遮断された」


「空間が、遮断された?」


彼の言葉をミントが聞き返すと、


「うむ。詰まり、森の外に出ることも、テレポートすることも出来なくなった」


プリンはこくりと頷いて、さらりとそう言った。


「……」


「……」


「……」


「……」


「……え? それってヤバくねェ?」


少しの間を置いてポトフが問うと、


「うむ。やばいな」


プリンはこくりと頷いた。


「え、えええー?! じゃー、私たち、この森から出られないってことー!?」


「うむ」


「いやさらっと頷いてる場合じゃ―…」


「どォしたらこの魔法が解けるんだ、枕?」


わたわたと騒ぎ出したミントとココアをよそに、口から骨付き肉の骨を出しながらポトフがプリンに質問すると、


「術者にこの魔法を解いてもらうか、この魔法が消えるスイッチとなるものを見付けて壊せばいい」


プリンはこくっと頷いて、さらさらと答えた。


「術者は……まァ、こんな大規模な魔法だから、複数いることになるよなァ」


「しかも、丁度私たち生徒が全員森の中に入った時に魔法がかかったんだから、たぶん先生たちの仕業だよねー?」


それを聞いて、ポトフとココアが術者を推測し、


「それじゃ、術者に魔法を解いてもらうのは無理っぽいね。……うーん、魔法を解くスイッチって、なんだろうね?」


ミントがうーんと首を捻った。


「うむ……それは術者が決めることだからな。でも、確実にこの空間の中にあるものだぞ」


その隣で、同じく首を捻るプリン。


『凄いねぇ? 一瞬の魔力の動きだけで、そこまで分かっちゃうだなんて』


「「!」」


 すると、四人の前方の茂みの奥から、少しばかりの笑いを含んだ声が聞こえてきた。

それに驚いた四人が、バッとそちらに目を向けたが、森の草木とこの雨のせいでその先は暗く、声の主の姿を確認することは出来なかった。


『たぶん、今はキミたちだけだよ? 自分が森に閉じ込められたことに気付いたのは』


少々(かん)に障る声が、楽しそうに言葉を続ける。


「……この感じ……魔物、だな」


「うん。でも、声がミントに似てるよねー?」


「うええ? オレってあんなムカつく声?」


「ううむ。たぶん、喋り方の違いだ」


そんなことを言いながら、前方にいるであろう敵に身構える四人。


「!」


その直後、


「ココア! 危ない!!」


ミントが叫んだ。


「え」


「ココアちゃん!!」


彼の言葉をココアが理解する前に、ポトフは彼女を守る為に、彼女の前に飛び出した。


ぼわぁん


「! ポトフ!!」


すると、巨大なシャボン玉のようなものが前方から飛んできて、それがポトフに当たると同時に力の抜ける音を発しながら爆発した。


「ポトフ! 大丈夫?!」


目の前でもうもうと上がる爆煙に焦るココア。


「嘘……どうして」


彼女の右斜め後方で、ミントは目を見開いて驚いていた。

何故なら、彼のその視線の先に、


「χ(カイ)がいるの?」


不揃いな複数の時計を自身の体の周りに浮かべて不気味に笑うピエロ、召喚獣の"χ"がいたから。


『あらン?』


が、驚いたのはお互い様だったようで、


『どうしてアタシのご主人様が二人もいるのかしらン?』


χは前と後ろを高速で見比べながら、オカマ口調でそう言った。


「二人?」


χの言葉に、ミントが疑問符を浮かべると、


『あれえ? まず、一番弱いのを潰すつもりだったのに』


彼らの前方から、こちらに向かってくる足音が聞こえてきた。


『……ま、いっか。結果として回復役を潰せたわけだし』


そうして、ガサッと茂みが大きく鳴り、


「「!」」


『どうもハジメマシテ。オレがこの魔法を解くスイッチ――』


敵は、ようやくその姿を現した。


『――ミントだよ』


彼らの前に、ミントが現れた。

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