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学校日和2  作者: めろん
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第61回 温泉日和

 もくもくと湯煙があがる広い広い温泉にて。


「覗きは犯罪ですよ、チロルさん」


「ビックーン!!」


乳白色に濁ったお湯につかったアロエがさらりと言うと、体にタオルを巻き付けているチロルがビックーンと驚いた。


「わざわざ驚きを言葉にしなくて結構です。それと、覗きというのは普通、と言ったら語弊がありますが、男性がすることでは?」


「だってそれって不平等じゃない! 今の世の中男女平等〜みたいな〜っ!」


「そんなレベルの低い男女平等は存在しなくて結構です」


ぷうっと膨れたチロルを、アロエはばっさりとぶった切った。


「え〜? だってだって、折角アタイのミントきゅんがあのウォールの向こう側にいるのにぃ〜」


そんな彼女に向かって、チロルが口を尖らせながらそう言うと、


「……まあ、どうしても覗きたいと言うのであれば、アロエは無理に止めたりはしませんが」


アロエはどうでもよさそうに、ぱあっと顔を明るくした彼女にこう言った。


「その壁に触れたならば、あなたの息の根が中途半端に止まりますよ」


と。


「ふ〜、いいホットウォーターね、アロエ〜?」


「そうですね」


覗き防止の特別な魔法がかかった危険な壁に恐れをなしたチロルは、黙って素直に温泉に入ることにした。










 危険な壁の向こう側、同じくもくもくと湯煙があがる広い広い温泉にて。


「む? 中途半端に息の根が止まる?」


アロエの言葉が聞こえてきたのか、プリンが不思議そうに小首を傾げた。


「……まあ、生かさず殺さずってとこなんじゃないかな?」


その隣でミントが恐ろしそうに危険な壁を見ながら、彼の顔に引きつった笑みを浮かべた。


「ふむ。成程」


納得したプリンが、今度ポトフをあの壁に当ててみようとか危険なことを考えていると、


「なんか、誰もいないねぇ?」


頭の上にタオルを乗せているミントが、くるりと辺りを見回しながら言った。


「うむ。たぶん、外で変質者と変質者が戦っていたからではないか?」


ので、プリンはさらりとそう返した。


「……。そだね」


変質者と変質者。

何も知らないでそれを聞いたら凄いバトルだな、とか思いながら、ミントは敢えて素直に頷いた。










 ボロボロになってぐったりと仰向けに倒れているショコラに手をかざし、


「メディケーション」


と、ポトフは回復魔法を唱えた。


「……すこー」


「別にそのままほっとけばよかったのにー」


温かな光に包まれ、体力が回復していびきを掻き始めたショコラを見下ろしながら、ココアがさらりとそう言うと、


「あっはっはっ……家族は大切にしなくちゃダメだぜェ、ココアちゃん?」


その場に座り込みながら、疲れたようにポトフが言った。


「……。ポトフが言えたことじゃないけどねー?」


ポトフにそのように言われて、彼とプリンのことを思い浮かべるココア。


「い、いやァ、それとこれとは―…」


「あらあら、お庭がぐっちゃぐちゃ」


「ははは、本当だねぇ」


 ポトフが何か弁解しようとした時、そこへ、のほほんとした感じの夫婦がやって来た。


「?」


「!」


ので、ポトフは疑問符を浮かべつつ振り向き、ココアは驚きながら振り向いた。


「あら、ココアちゃん。お庭がぐちゃぐちゃだけど、何故だか分かるかしら?」


すると、ココアに気が付いた濃い桃色髪の女性がおっとりと彼女に質問した。


「全部このバカ兄がやりました」


ので、ココアはそれに即答した。


「まあ、しょーちゃんったら!」


彼女の答えを聞き、女性は両手を腰に当てて、迫力なく怒った仕草をした。


「ははは、相変わらずのいたずらっ子だねぇ」


その隣で、ははは、とのほほんと笑う白い髪の男性。


「……?」


 何やら置いてきぼりを喰らっているポトフが疑問符を浮かべていると、


「あら?」


ぷんぷん怒っていた女性がポトフに気が付いた。


「まあ! ココアちゃんのお婿さん!?」


そして、随分と気の早いことを口走った。


「ふああ?! ななな、何言ってるのよママー!?」


「その通りです、おかァ様!」


「そこも!! 何言ってるのよポトフー?!」


ので、ココアは赤くなり、彼女の口からママと聞き取ったポトフは、ばっちりと頷いた。


「え……俺じゃ、ダメ?」


ココアの反応を見て、ポトフがもの悲しそうに尋ねると、


「ふあ?! い、いや……そういうわけじゃ―…」


傷付いた子犬のような彼の茶色い瞳に、ココアがぎこちなく首を横に振った。


「!」


「まあまあ! やっぱりそうでしたのね!」


ので、ポトフとココアママの顔がぱあっと明るくなった。


「って、ちょ」


「うふふ、ココアちゃん好みのイケメンだものね」


「本当ですかァ?!」


「な、何言って」


「ははは、どうかうちのココアを幸せにしてやってくださいな」


「くださいな〜」


「勿論です!!」


「って、聞けーーー?!」


突っ込みを入れる隙もなく話が進んでしまったので、ココアは虚空に向かって盛大に怒鳴った。


「そうだ! ココアの話をちゃんと聞くんだ!!」


 すると、いつの間に目が覚めたのか、ショコラがココアの後ろで口を開いた。


「! お兄―…」


ナイスなタイミングで目が覚めた彼に、ココアが振り向きかけると、


「しょーちゃんは、お庭を直してなさいね?」


ココアママが、にこっと笑ってそう言った。


「い、いや、今はそれどころじゃ」


「ね?」


「って言うか、この眼帯も庭壊しに加担」


「ね?」


「……………………ハイ」


母親の笑顔に負けたショコラは、破壊してしまった庭を直し始めたのであった。


(使えねえ!!)


ので、乙女らしからぬ感情を抱くココア。


「うふふ、あらいけない。まだお名前をお聞きしていなかったわ」


「あ、俺の名前はポトフ=フラントです」


 思い出したように名前を尋ねられ、ポトフが思い出したように答えると、


「ポトフ=フラント……まあ! フラントさんって、もしかして国立病院の?」


彼の苗字を聞き、ココアママは国立病院のエリア=フラント先生を思い出した。


「! はい!」


「まあまあ! それじゃ、もしかして?」


「はい、医者志望です!」


医者志望だったポトフ。


「ははは、素晴らしいね。容姿端麗、将来有望!」


「うふふ、凄いわ、ココアちゃん! 殿方をみる目があるわね〜!」


ポトフの言葉に、ココアパパとココアママは、嬉しそうにのほほんと笑った。


「……」


そんな彼らに対して、何やら置いてきぼりを喰らっているココアは、


「……いやー、それほどでもー」


何かを諦めたように清々しく笑っていたそうな。


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