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学校日和2  作者: めろん
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第58回 植物日和

 朝っぱらからすでに暑い夏のある日、シャーンは朝食を取りに一階に降りてきた。


「おお、美味そうな焼き魚だな。ジャンヌ、醤油」


自分の分の朝食が用意されている席に着いて、すでに朝食を取っているジャンヌに醤油を取ってくれるように頼むシャーン。


「合点承知!!」


それに合点承知したジャンヌは、


ぶくぶくぶくーっ


と溶け、迷うことなくシャーンの焼き魚の上に乗っかった。


「……食えってか。これを食えってか」


「さ、流石ジャンヌ様……!! メルヘンです! 半端なくメルヘンです!!」


彼女の行動に、テンションの低い反応を示すシャーンと、瞳をキラキラと輝かせてテンションの高い反応を示すフラン。


「ゲヘヘ!! 名付けて、"謎の液体に浸っている焼き魚"!!」


「メルヘンすぎですジャンヌ様ー!!」


「どうしたまろか、パパさん? 食べないまろか? みんとんのお料理はおいしいまろよ?」


『む〜?』


「ああ、美味しかったんだろうな。謎の液体に浸る前までは」


「? ……よく分かんないけど、まろ、みんとんのお手伝いするまろ〜♪」


『む〜、む〜♪』


「あっ! 駄目ですよ、マロ様と夢魔様! 貴女たちがお皿なんかを持って歩いたら―…」


ずりっ


「まろー!!」


『むむー!!』


バリーン!!


「ああ、もうほら言わんこっちゃないじゃないですか?!」


「……。これに醤油かけたらどうなるんだろうな?」


「ウチと醤油とが夢の共演?! ちょ、やべぇそれメルヘンの極みね!!」


「まろー!! 転んだまろー!! 痛いまろー!!」


『むー!! むー!!』


などと、三人と一匹と液体が朝っぱらから騒いでいると、


バキャ


何かが砕け散った音がした。


「『……っ』」


同時に、ピタッと口と体の動きが止まる三人と一匹と液体。

その後、彼らが先程の音がした方向にギギギと顔を向けると、


「……オレ、出掛けてくるから」


粉々に砕け散ったコーラのビンの先で、どす黒いオーラを垂れ流しているミントはそう言って、ブライト家から出掛けていった。


「「い、行ってらっしゃいませ……」」


『む〜……』


そんな彼を、彼らは引きつりまくった無理矢理すぎる笑顔で見送った。














 夏の強い日射しを受けてきらきらと輝く運河に架った橋を渡り、ミントは大通りにやってきた。


「「……っ?!」」


すると、先程まで沢山の人で埋まっていた筈なのに、大通りの真ん中に道が出来た。


「……」


それは、ミントが未だにどす黒いオーラを垂れ流しているからである。


「……」


 いつもと比べ物にならないくらい通りやすくなった大通りを、ミントが無言で通り抜けると、


「……?」


彼は、人気の少ない細い道の向こうに、二人のお兄さんを発見した。


「……。あの二人は……」


ミントが呟くと、


「キミ、超可愛いねぇ?」


「どう? 俺たちと遊ばない?」


そのお兄さん方が、なんか喋った。


「……」


やはりあのお兄さん方は、お祭りの日にミントを女の子と間違えた二人組。

ただでさえイライラしてる時に更にイライラしてきたミントは、


「ドレインフラワー」


彼らに左手を向けて魔法を唱えた。


「あ、はい。いいですよ」


そして、壁に追い込まれている人物がほんわか了承したのにも関わらず、


「芽吹け」


ミントは彼らに向けた左手を右上に払った。


「ホント?」


「はい。ええと、何をして遊びますか?」


ポコッ


「―…て、あれ?」


ミントが魔法発動の合図を出すと、二人のお兄さん方の頭から双葉がポコッと飛び出した。


「わあ、可愛い葉っぱですね」


「「は?」」


再びほんわか発言をした人物――アオイの言葉に、お兄さん方が疑問符を浮かべると、


ぐぐぐぐぐぐ……ポンッ!


頭の双葉は急激に成長し、その先端に、綺麗な向日葵(ひまわり)の花が咲いた。


「わあ、ひまわり!」


綺麗な向日葵を見てくすりと笑うアオイ。

どうやら彼は、その向日葵に養分を吸い取られて倒れているお兄さん方に気付いていないようだ。


「て、あれ? アオイ?」


お兄さん方がカラカラに(しお)れて倒れたので初めて見えた壁に追い込まれていた彼を見て、ミントはびっくり驚いた。


「あ、ミント。おはよう」


「おはよう――っ、じゃなくって!!」


くすりと笑って挨拶してきたアオイに挨拶を返した後で、


「何危ない人たちと遊ぼうとしてんのさ?!」


と、ミントは遅ればせながら突っ込みを入れた。


「わあ、朝から元気いっぱいだね」


が、しかし、アオイはくすりと笑ってそう言った。


「いやいや誰のせいだと思って―…」


「見て見てミント。ひまわりが咲いてるよ」


「―…。ソウデスネ」


ほんわかアオイに突っ込む気が失せたので、素直にこっくりと頷くミント。


「綺麗だね〜」


大輪の向日葵を見て言うアオイに、


「……。アオイって、植物が好きなの?」


と、ミントが小首を傾げながら質問した。


「うん!」


アオイはくすりと笑って頷いた。


「本当? じゃあ、ついてきて!」


それを聞いて、ミントは嬉しそうに駆け出した。


「え? あ、待ってミント!」


ので、アオイは慌てて彼を追い掛けた。











 街の門を出て、シャイアから少し離れた所にある森の近くの一本の大きな木の下に、ミントとアオイはやって来た。


「わあ……!」


「どう? 綺麗でしょ?」


驚いたアオイの隣で嬉しそうに言うミント。

彼らの目の前には、綺麗な花々で彩られた美しい花壇が広がっていた。


「これ、ミントが作ったの?」


「うん、そう。現実逃避する為に」


びっくり顔で尋ねてきた彼に、何やら悲しい答えを返すミント。


「すごいね〜!」


「えへへ〜♪」


アオイが感動して、ミントが照れたように笑っていると、


べろり


「わ!」


アオイは突然何者かに顔を舐められた。


「な、何?」


と、不思議に思ったアオイが横を見ると、


『ジェラ』


そこには、黄緑色の巨大な口のオバケが。


「わ、マッドが攻撃してこないなんて、アオイは本当に植物が好きなんだね!」


口のオバケ、もとい、マッドプラントは、ミントがそう言った直後、弾けるように笑い出した。


『『ジェララララララララジェラジェララア!!』』


花壇の隣に生えていた大きな木は、ウサギさん寮のミントたちの部屋にいた、あのマッドプラントだったのであった。

ベビーだったマッドも、今や二階建ての家並に成長して、口も沢山ついている。


「わあ……」


 棘のように鋭い牙を光らせ、紫色の分厚い舌をだらりと垂らし、狂ったように笑い続ける奇怪な植物、マッドプラントを見て、


「可愛い♪」


と第一声を発したのは、恐らくアオイとミントくらいであろう。


「だよね!?」


「うん!」


『『ジェラララァ!!』』



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