第56回 豪邸日和
緑の丘の上、巨大できらびやかな豪邸の一室で、ミントは言われた通りにペンを動かしていた。
「詰まり、答えは41.8%だ」
プリンがさらりと言うと、
「はへ〜、ありがとう、プリン!」
しっかりと答えを書き終えたミントが、顔を上げて彼にお礼を言った。
「……照れる」
ので、いつもと変わらず枕で顔を隠すプリン。
ぽふん
「いやぁ、にしても、プリンの家っていろいろ凄いね〜?」
夏休みの宿題を魔法でしまうと、ミントはくるりと辺りを見回しながらそう言った。
「む?」
「あら自覚なし?」
「ミントのお家と変わらない」
「うん。どこら辺が?」
そう言われて不思議そうに小首を傾げたプリンに、ミントが爽やかに突っ込みを入れると、
「テーブルがあって、椅子があって、クローゼットがあって、あかりがあって、ベッドがある」
彼はそれぞれを指さしながら、ミントの家と同じ点を挙げていった。
「うん。でも、どれも質と規模が違うよね」
「うむ。ミントと同じ」
ミントはほのぼのと、プリンは嬉しそうにと、二人とも笑ってはいるが、会話はどこかすれ違っている。
「オレの家か〜……あ、ねぇプリン?」
「む?」
「この前ココアに言われたんだけど、オレって鈍感なの?」
ミントの家、と言われて先日の祭りの後にココアに言われたことを思い出した彼は、小首を傾げたプリンに聞いてみた。
「?」
(……。……鈍感……感覚が鈍いこと)
すると、プリンは鈍感の意味を考えた後、
「えいっ!」
つねっ
「ひたっ!」
真剣な面持ちで質問してきたミントの頬を軽くつねってみた。
すると、ミントは正常に反応した。
「うむ。大丈夫だ。ミント正常」
「本当? よかったぁ」
ふふふ、と笑いながら言うプリンと、突っ込み役の役目を果たさずに素で安堵するミントであった。
「それにしても、ポトフ遅いね?」
「む。忘れてた」
「こらこら」
アクリウムの森を抜け、広大な丘を登るとそこに現れたアラモード邸の門の前に、ポトフは呆然と立ち尽くしていた。
「……デカすぎではありませんか……?」
屋敷も庭も敷地も門までもがデカすぎなプリンの家の前で、ポトフがぽつりと呟くと、
ピピッ
『身長180センチ、黒髪に右目の眼帯に左耳の十字架ピアス』
突然、ポトフ三人分くらいの高さの門が口を利いた。
「おォ?! なんか門に分析されたァ!?」
ので、ポトフは素直に驚いた。
『該当。ようコそ、アラモード邸へ』
プリンがあらかじめ入力しておいたデータに該当したので、門は彼にアラモード邸への道を開いた。
『――馬鹿犬様』
と、言いながら。
「……馬鹿犬って……」
不満を感じたポトフであったが、ここで反論したら門を閉められてしまいそうな気がしたので、敢えて何も言わないことにした。
(だいたい、馬鹿犬って、馬だか鹿だか犬だか分かんねェじゃねェか)
代わりに、わけの分からない文句を心の中で呟きながら、ポトフはアラモード邸へと歩き出した。
カチ
「カチ?」
ちゅどおおおおおおん!!
「ちゅどおおおおん?!」
突然庭から爆発音が聞こえてきたので、ミントがびっくらこいていると、
「大丈夫。地雷の音だ」
プリンはさらりとそう言った。
「大丈夫要素どこにもねえええ?!」
ので、ミントは勢いよく突っ込みをかました。
「ななな、なんで庭に地雷が埋めてあるのさ?!」
窓に駆け寄り、もうもうと上がっている爆煙を見ながら、ミントがプリンに訪ねると、
「侵入者よけだ」
彼は再びさらりとそう言った。
「そんな、猫よけみたいにさらっと言われても……」
「ふふふ、言っただろう? 僕の家はセキュリティが万全だ、と」
「確かに言ってたけどさあ……!!」
ふふふ、と慎ましく笑う彼に、なんか違うだろ、と頭を抱えながら突っ込んでいる途中で、
「――侵入者?」
ミントは侵入者という言葉にハッとなった。
「ちょ……待って? 侵入者?」
「うむ。侵入者」
ミントの言葉に、こっくりと頷くプリン。
「……ええと、地雷はさっきの一つだけ?」
「ううむ。ちゃんとしたルート以外のほとんどの所に埋まってる」
ミントの質問に、ふるふると首を横に振るプリン。
「でも、地雷踏んだら吹っ飛ぶよね?」
「うむ。吹っ飛ぶな」
「あっ……はは……詰まり……」
プリンの答えを聞き、ミントがギギギと窓の外に目を向けると、
ちゅどおおおおおおん!!
ちゅどおおおおおおん!!
ちゅどおおおおおおん!!
大惨事。
「ポトフううううう?!」
「ふふふ、大爆発」
叫ぶミントと、黒く笑うプリン。
やはり、二人はどこか、すれ違っていた。