第55回 鈍感日和
パンパン
「……で、どうしてこんなとこにいるのさ?」
服についた汚れを払い落としながら、ミントがココアとチロルに尋ねると、
「ミントきゅんのお家に行こうと思った〜〜〜みたいな〜〜〜っV」
チロルは彼の右腕に抱きつきながら、キャピッと明るくそう答えた。
「……」
「……」
「……」
「?」
彼女の爆弾発言に、ぽかんと口を開けて固まってしまったミントとポトフと、にやりと楽しそうに笑うココアと、不思議そうに小首を傾げるチロル。
「……え? えーと、オレの家に?」
「うん♪」
「い、いやでもほらオレの家は超汚いと言うか意味不明と言うか不審者が大量発生していると言うか―…」
にっこり笑って頷いたチロルに、焦りながらそう言うミント。
どうやら彼は、彼の家に大量発生している輩とチロルを会わせたくないようだ。
「……。……ダメ?」
すると、チロルがうるうるした瞳を向けてきたので、
「ウェルカムですはいーっ!!」
ミントはテンション高めで応答した。
「本当!?」
「ははは、勿論サ! ささっ、しゅっぱーつ!」
オレのバカ、とか思いながら、彼は拳を振り上げて進み始めた。
「?」
と、その時、
「あれ? どしたの、ポトフ、ココア?」
ミントは不思議そうに小首を傾げた。
「家、こっちだよ?」
そして、退散しようとしていたポトフとココアに、前方を指さしながらそう言った。
「……」
「……」
「……」
「?」
彼の爆弾発言に、今度はポトフとココアとチロルがぽかんと口を開けて固まり、ミントが小首を傾げた。
「……え? いや、でも、なんと言いますかー……」
「お、おォ……ココアちゃんと俺は遠慮させていただくぜェ?」
「ほ、ホラ! 二人がこう言ってることだし……」
素で首を傾げている彼に、焦りながらココアとポトフとチロルがそう言うと、
「なんでよ? 一緒に行こうよ」
二人が遠慮する理由が理解出来なかったミントは、にこっと笑ってポトフの腕を掴みながらそう言った。
((え、ええええ〜……?))
勿論、ポトフにミントの手を振り払うことなんて出来やしない。
こうして、予想外にミントが鈍感だった為、結局彼の家には四人で行くことになってしまったのであった。
ミントの家の門から、二人の少女がひょっこりと顔を出した。
「リン隊長! 只今この家にミントとポトフとココアと謎の美少女が入っていきました!」
「……だぶるでぇと、だとしても、家に行くならココアとポトフさんには空気を読んで欲しいところ、ですね、ウララ窓際隊員」
楽しそうに報告するウララと、空気読めよ、と無表情で言うリン。
「そうね……って、なんで窓際!?」
「窓の外にします、ですか?」
「リストラされたあ?!」
などと、ウララとリンが門の前で騒いでいると、
「!」
ゲシッ
「きゃあ?!」
と、後ろから何者かに蹴り飛ばされた。
が、事前にそれを察知したリンは、ひらりと華麗にかわしてみせた。
「った、いきなり何すんのよ?!」
一人だけ蹴り飛ばされたウララがバッと後ろを振り向くと、
「邪魔」
そこには、ユウが立っていた。
「邪魔って、別にこれだけ空いてるんだから通れるでしょ?!」
「気分」
「いや気分でヒト蹴るなよ最悪だなテメェ?!」
「目障り」
「さっきよりはちゃんとした理由かもしれないけどさっきより最悪になったわよおおお!?」
「……じゃあなんとなく」
「気まぐれええええ?!」
「うざい逝け。《暗雲の閃光は破滅をもたらす》」
ちゅどおおおおおおん!!
てな具合いに、ウララがユウの魔法にぶっ飛ばされたところ、
「お待たせ、ユウ。って、あれ? どうしたの?」
そこへ、公園で小鳥さんとさよならしてきたアオイがやって来た。
「ああ、盗賊の肩に蚊が止まっててな」
魔法発動の理由を尋ねてきた彼に、ユウがさらりと答え、
「わあ、優しいね、ユウ」
「どこがじゃボケェェェェ?!」
アオイがくすりと笑ってそう言った直後、ウララの飛び膝蹴りが飛んできた。
「回復、はえぇ、です」
「……チッ。弱かったか」
「なんか残念がってるって言うか殺す気でしたあああ?!」
「「……」」
「わざとらしく目線逸らしてんじゃないわよおおおお!?」
「痛いっ、痛いよウララっ?」
何やら残念そうなリンとユウと、はらいせにアオイをぽかぽか叩くウララ。
「ヒトの家の前で何やってんのさ?」
するとそこへ、ミントとその他三人がやって来た。
「お前の家の前でこの二人がコソコソ盗聴―…」
「なあああんでもないわよ皆さああああああん?!」
とんでもないことを言おうとしたユウの口を両手で塞ぎながら、ウララがやかましくそう言うと、
イラッ
「《壮麗なる龍はすべてを呑み込む》」
ドパアアアアアアアン!!
その両手を無理矢理離されたウララは再び、イラッときたユウに魔法でぶっ飛ばされた。
「リンたち、お祭りにミントさんたちも誘おうと思った、です」
その間、しゃあしゃあとミントの問いに答えるリン。
「わ、本当? オレたちも丁度お祭りに行くとこだったんだぁ♪ ね?」
それを聞いて、ミントがにこっと笑いながら後ろの三人に同意を求めると、
「「う、うん……」」
彼らは、引きつった笑顔で頷いた。
「それは丁度いい、です」
「ね! じゃあ、早速お祭りにしゅっぱーつ!!」
「わあ、お祭りだって、ユウ!」
「ああ、楽しみだな」
「ごめんね、チロルー? 私たちが、先にお祭りに行く、って言ったばっかりに……」
「……いいの……席外してくれようと思ったんでしょ……?」
「……ミントって意外と鈍いんだなァ?」
そんなこんなで、七人は仲良くお祭りに出掛けて行ったのであった。
「……私、放置……?」
ズタボロになったウララを残して。