第54回 誤認日和
ピヨピヨピヨ
広大な丘の向こうから日が昇り、小鳥たちが爽やかに歌い出した頃。
「……む……」
カーテンつきの広々としたベッドからむくりと起き上がったプリンは、寝癖がついている長い髪をそのままに、近くに置いてある時計を手に取った。
「……」
その時計には、夏休み二日目の日にちが表示されていた。
「……新記録」
新記録達成。
一日と十二時間寝てのけたプリンは、別に記録に挑戦していたわけではないのだが、グッと地味にガッツポーズをした。
「ぷわ……ふむ、プリンが食べたいな」
その後、小さな欠伸をし、プリンはようやくベッドから降りて活動し始めた。
大勢の人で、いつもより賑わっている王都市、シャイアにて。
「ん?」
コーラを大量に買って店から出てきたミントは、駅の近くに人だかりが出来ているのを発見した。
「なんだろ?」
コーラのフタを開けながらそう呟いた一秒後に、その答えが出た。
「! ミントォ!!」
人だかりの向こうから、黒髪眼帯少年が元気よく手を振ってきたから。
「あ、ポトフ」
そんなポトフに、ミントが薄ーく反応すると、
「会いたかったぜミントォ!!」
ガバーッ!!
彼は群がっていたお姉さん方をぴょんと飛び越え、ミントをガバーッと抱き締めた。
「うん。コーラ飲めないんだけど」
抱きついてきた彼にさらりと文句を言うミント。
その間に、ポトフに飛び越えられたお姉さん方は、なんだ彼女がいたのか、と、渋々その場から去っていった。
「あっはっはっ! ミントが俺の彼女だってェ〜♪」
「うん。めちゃんこ不服なんだけど」
楽しそうに笑うポトフと、さらりと文句を口にするミント。
「……で、なんなのさそのカッコは?」
「え? かっこいい?」
「言ってない。カッコ」
何か聞き返してきた彼をばっさりと切り捨てた後、ミントが尋ねると、
「だって今日はお祭りだろォ? だから、浴衣ァ♪」
ポトフはヒラヒラと袖を振りながら答えた。
「……前、開けすぎじゃない?」
彼の浴衣を見ながら、ミントがさらりとそう言うと、ポトフはフッと口を綻ばせて、
「ドキドキした?」
と聞きながら、ミントの右の頬に右手を添えた。
「うん。ぞわぞわした」
流し目ポトフを再びばっさりと切り捨てた後、ミントはその手を払い、すたすたと歩きながら平然とコーラを飲み始めた。
「ん?」
しばらく歩いていると、ミントは路地に二人の男を発見した。
「……はェ?」
それに反応をして顔を上げる、若干落ち込んだのか、ミントの後ろをトボトボとついてきたポトフ。
「あ、ポトフが二人いる」
「はェ?!」
ミントが前方をすっと指さしながらそう言うと、ポトフは驚いたようにそちらに目を向けた。
「キミらすっごく可愛いねぇ」
「彼女ぉ、俺たちと遊ばなぁい?」
そこには、背の高い男二人が、壁に女の子を追い込んで何か言っている姿があった。
「俺、あんなにブサイクじゃねェぞミント?」
「そっちじゃねぇよ」
「それに、あんなにナンパじゃねェ」
「あはは、どの口がそんなこと言ってるのカナ?」
ぷうっと頬を膨らませた彼に、ミントが爽やかに突っ込みを入れると、
「あんたたちとなんか遊ばないよー!」
「そうよ! あんたたちなんかお呼びじゃない〜〜〜みたいな〜〜〜っ!」
捕まっている女の子二人が強気な返事をした。
「「!」」
その声と口調に驚くミントとポトフ。
「このめちゃんこラブリィ〜な間伸び口調とこの声は……」
「この実際今時いるのかよと思わせる口調とこの声は……」
それぞれ呟いた後、顔を見合わせて頷き会ったポトフとミントは、キッと男二人に目を向けた。
「ろうしょ―…」
ガシッ
「―…?!」
「ちょっとそこのお兄さん方? 二人とも嫌がってるじゃないですか」
そしてポトフが強烈な蹴りをお見舞いしようとしたところ、ミントにガシッと止められてしまった。
(ミント!?)
(お祭り前に街の中で変な騒ぎが起きたら、お祭りがなくなっちゃうでしょ? だから、ここは穏便に)
(え? ウ音便?)
(古典じゃねぇよ)
こんな非常時にもすっとぼけているポトフに、ミントがさらりと突っ込みを入れたところ、
「「あ? んだ……と……?」」
ミントの言葉に威勢よく振り向いたお兄さん方は、振り向いたと同時にその勢いがなくなった。
「「……?」」
そんな彼らに、ミントとポトフが疑問符を浮かべていると、お兄さん方はニタリと笑ってミントに話しかけてきた。
「キミ、このコたちのお友達?」
「彼女も可愛いねぇ〜。どう? お友達と一緒に俺たちと遊ばない?」
と。
どうやら、彼らはミントを女性と認識したようだ。
ついでに言っておくと、ポトフに関してはアウトオブ眼中だ。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……。ポトフ」
ややあって、コーラが大量に入った袋をそっと道に置いたミントが、隣にいる友人の名を呼んだ。
「なんだミントォ?」
彼の言葉に、わざとらしく反応するポトフ。
「やっぱいいよ。やっちゃって」
そんな彼に、恐ろしいことをさらっと言うミント。
「……祭りは?」
フッと笑いながらポトフが問い掛けると、
「大丈夫、中止になんかならないよ。って言うかむしろ」
ミントは、その両手に薔薇の鞭と食人植物の鞭を装備した後、
「これから始まるところだしね」
と、答えた。
「りょォかい♪」
――こうして、王都市、シャイアの一角で、
「俺のココアちゃんに手を出すなァァァ!!」
「チロルにも、って言うかオレは男だあああ!!」
一足先に夏祭りならぬ血祭りが始まったそうな。
ドカンバコーン!!
ココア
「お……"俺の"って……(赤面」
チロル
「いいなぁ……。アタイもミントきゅんにぶたれたい……(うっとり」
ココア
「……っ(鳥肌」