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学校日和2  作者: めろん
53/235

第53回 朝一日和

 夏休み初日の朝。


「……くう……」


王都市、シャイアにある赤い屋根のお家の一室で、ミントはぐっすりと眠っていた。


バァン!!


が、しかし、


「みんとーん! 遊ぼうまろー!」


『む〜!!』


彼の眠りを妨げるように、ピエロ少女、マロと、まるっこい魔物の夢魔、通称むぅちゃんが、やかましく部屋に飛び込んできた。


「……ん、後でね……」


布団に潜り込みながら、彼女たちを適当に追い払う為の返事をするミント。


「まろぉ、起きてまろ〜! 後じゃなくて今遊ぼうまろ〜!」


『む〜む〜!』


布団に潜った彼を、揺すり起こそうと試みる少女と魔物。


「……ん、分かったってば……」


ちょっとイライラしてきたミント。


「分かったならお布団から出てきてまろ〜! 全然分かってないまろ〜!」


『む〜む〜む〜む〜!』


なおもしつこく食い下がるマロとむぅちゃん。


「……だからぁ……」


ので、


「あーそーんーでーあーそーんーでーあーそーんーでーまーろ―…」


『む〜む〜む〜む―…』


「黙れよテメェら」


彼女たちの要望通りにベッドから起き上がったミントは、まだ幼い少女と魔物に向けて、殺気を孕んだ低い声を発した。

――彼の可愛い顔は今、怖いを通り越して、やばい。


「あい! ごめんなさいでしたまろーっ!!」


『むむむむむーっ!!』


朝っぱらから騒ぐのは良くないということを身をもって学んだマロとむぅちゃんは、テンション高めで謝罪した後、速やかに部屋から出ていった。















 緑が美しい広大な土地、アラモードの丘の頂上に、宮殿のごとく巨大な豪邸が建っている。


コッ……


何十とある部屋のうちの一室の前に、抜き足さし足忍び足でやって来た彼、


「プぅぅぅリぐはあ?!」


ビタァン!!


お高そうなスーツに身を包み、青い髪をオールバックにしてビシッときめているプリンパパは、扉を突き破ろうとしてそれに顔面から衝突した。


「なっ……何故開かないんだ?! プリン!? プリン?!」


鼻を押さえながら、バンバンと扉を叩き始める、復活の速いプリンパパ。


『プリン!? お父さんだよ?! 此処を開けてくれ!! プリン、お父さんが会いに来たんだよ?!』


バン、バンバンバンバン!


「ぐー」


 扉の向こうから聞こえてくる騒音にまったく起きる気配のないプリンは、広々とした部屋にある、カーテンつきの広々としたベッドで、枕を抱えながらぐうぐうと眠っていた。


『プリン!? 私の可愛いプリン?!』


バンバンバンバン!


「ぐー」


扉の内側につくられた、真っ赤なソファーや、アンティークなテーブルなどから成る強固なバリケード越しに聞こえてくる騒音に、ぴくりとも反応せずに眠り続けるプリン。


『うわーん!! プリンー!!』


バンバン! バンバン!


「……む……」


ころんっ


「……ぐー」


ついに泣き出してしまったプリンパパに気付くことなく、ころんと寝返りを打つプリン。


『うふふ、あなた、会議に遅れますわよ』


『! ママ! プリンが、プリンが!!』


『うふふ、いつものことでございましょう? と言いますか、つべこべおっしゃってないで、とっとと行きやがってくださいましね』


『うわーん!!』


ずーりずーりずーりずーり


「ぐー」


プリンママに強制連行されたプリンパパの泣き声も虚しく、プリンはひたすらに眠り続けるのであった。


「むぅ……ピクルス隊長」


謎の隊長の夢を見ながら。














「ん……」


 爽やかな日射しが差し込み、ココアがゆっくりと目を開けると、


「あ」


目の前に、ピンク色の髪の青年の顔があった。


「お、おはようマイシスタ―…」


「ダークネスサクリファイス!!」


ドカアアアアアアアン!!


ので、ココアは迷うことなく彼、ココア兄に、目覚めの最大魔法をかました。


「ははは、今日も元気いっぱいで可愛いなあ、マイシスタ♪」


「もーバカキモクソ兄貴! ヒトの部屋に勝手に入んないでって何回言ったら分かるのよー?!」


ケロッと起き上がって笑う彼に、ココアが声を荒げてそう言うと、


「駄目じゃないかマイシスタ。"お兄ちゃんV"って呼ばなきゃ」


何やら違う返事が返ってきた。


「うっさいバカ!! 速く出てけ!!」


「ええ? だってまだ目覚めのキッスを―…」


「しなくていいよって言うかしたら殺すよー!?」


「ははは、照れるなマイシスタ♪」


「照れてないって言うか速く出てってよー!!」


「ん? 今から着替えるのか? お兄ちゃんが手伝ってあげるゾ☆」


「いらないから速く出てけってさっきから言ってるでしょー?!」


「ははは、遠慮するな。お兄ちゃんとマイシスタの仲じゃないか」


「もーホント頼むから五十八回くらい死んでくれませんかー?!」


話が通じているのか疑わしいココア兄に、頭を抱えながら叫び続ける彼の妹、ココア。


「ん?」


そんなココアをよそに、ココア兄は、彼女の枕元に飾ってある写真立てに気が付いた。


「……。……ココア?」


「何よー!?」


そして、先程のバカ明るい声から一変して、真面目な低い声で、未だ頭を抱えているココアに質問をした。


「このココアと一緒に写ってる人、だあれ?」


と、写真立てを手に取りながら。


「はあ? ポトフだけど、それがどーかし―…」


勢いのままに答えた後、ココアはハッとした。

そして、バフッと顔が赤くなった。


「……へーえ、ポトフっていうんだ〜?」


「っ! いいからもう出てってよー!!」


にっこりと笑ったココア兄の手から、写真立てを奪い取ると、


ゲシッ!!


バシィン!!


ココアは、彼を部屋の外へ蹴り飛ばした後、部屋の扉を思い切り閉めた。


「……お兄ちゃん、ポトフくんにゴアイサツしたいなぁ……はは、ははははははははははははははははは」


機械的に笑いながら、ココア兄は、どす黒い殺気を垂れ流しつつ自分の部屋に帰っていった。















「ふェくしっ!!」


 ミンミンと蝉が鳴く森の中で、ポトフは大きなくしゃみをした。


「……? 風邪かァ?」


鼻に右手を当てながら、寒気もしたし、とか思いながら、小首を傾げるポトフ。


「……まァいいか」


しかし、今のポトフにとって、それはどうでもいいこと。


「あっはっはっ! 鹿ステーキ鹿ステーキ♪」


何故なら、彼の左手には、しっかりと鹿が捕まえられているから。


「あ、おかえり、ポトフくん」


 森の奥にある、大きな病院が特徴的な静かで小さな町、アクリウムの青い屋根のお家帰ってくると、茶髪お兄さん、ソラが笑顔で出迎えてくれた。


「ただいまァ、おにィさん!」


そんな彼に、こちらも笑顔で挨拶した後、


「朝食狩ってきましたァっ!!」


と言って、ポトフはソラに今しがた狩ってきた鹿を見せた。


「わあ、凄いね!」


立派な鹿を見て、ソラはぱちぱちと拍手をしながら、


(僕は朝食を"買ってきて"って、言ったんだけどなあ……)


とか思っていた。


「……じゃあ、どうしよっか?」


まあいいか、と半ば何かを諦めつつソラが小首を傾げると、


「生!」


とポトフが即答した。


「却下」


ので、ソラも即答した。


「えェ〜? ……じゃァ、レアで」


「うん、分かった」


口を尖らせながら妥協したポトフに、ごめんね、と微笑みながらソラが頷くと、


「駄目よ。ちゃんと中まで火を通さなくちゃ」


という声が、後ろから飛んできた。


「動物のお腹の中には、数え切れない程たくさんいるんだから」


二人がそちらを向くと、金髪お姉さん、エリアがたしなめるようにそう言った。


「! エリア」


「! おねェさん」


何が、とは、敢えて聞かないソラとポトフ。


「お返事は?」


「……はァい」


「よろしい。じゃ、ソラ」


「うん、ウェルダンだね。バーンバニッシュ」


という具合いに、三人はいつものように朝食を始めたのであった。


「よし、ワラ人形を買いに行こう」


丁度その頃、公園に行こう的なノリでココア兄がワラ人形を買いに出かけたことなど、知るよしもなく。

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