第5回 ライバル日和
太陽が沈んで、辺りが暗くなった頃。
「「終わった……」」
プリンとポトフが同時に同じ言葉を発した。
どうやら、一心不乱に取り組んでいた掃除がようやく終わったようだ。
ちなみに、どうして彼らが今まで頑張っていたかと言うと、それは、ひとえにミントに褒めて貰いたいが為である。
「あ?」
「むっ……」
しかし、掃除場所から出てリビングに入ると、同じ目的を持った者、詰まり、ライバルとバチッと目が合ってしまった。
「……あっはっはっ! 風呂掃除するのに何時間かかってんだよ、テメェ?」
軽く睨み合った後、ライバルに口喧嘩をふっかけるポトフ。
「それは貴様も同じことだろう」
すると、プリンは透かさず言い返した。
「……と言うか、今までトイレに込もってたのか、貴様は。くさくさ」
プリンが小馬鹿にしたように鼻で笑うと、
「はァ? このトイレはもはやピッカピカで良い香り状態だってェの」
余裕綽々の笑みを浮かべながら応えるポトフ。
「ふっ。お風呂はもっとぴかぴかだ」
挑発的な笑みで更に言い返すプリン。
「あっはっはっ! そんなことほざくなら見せてみろよ?」
そう言いながらお風呂場に足を踏み入れたポトフは、
「なっ?!」
ピカピカに磨きあげられた壁と床と浴槽と、それに張られたもくもくと湯気を上げているお湯を見て、目を見開いて固まった。
「ふふふ。どうだ? 完璧だろう」
そんな彼を見て、勝ち誇ったように笑うプリン。
が、しかし、
「バカか、テメェ?!」
ポトフは彼に向かってそう怒鳴った。
「な―…」
予想外の反応に、プリンが何かを言い返そうとしたところ、ポトフは自分のバッグを勢いよく開け、
「アヒルちゃんなくして何が完璧だ?!」
と、取り出したアヒルちゃんをプリンに見せ付けながらそう言った。
「――!!」
雷に打たれたような衝撃を受けるプリン。
アヒルちゃんの存在は、完全に盲点だった。
ちゃぷ
ぷかぷか
「……よし。これで完全だぜ」
「うむ。これで完璧だな」
湯船に黄色いアヒルちゃんを浮かべ、満足そうに頷くポトフとプリン。
「やっぱ風呂にはアヒルちゃんが欠かせねェよな?」
「な」
趣味の一致。
なんだか仲が良いのか悪いのか、よく分からない二人であった。
「ただいま〜」
「「! ミント!」」
部屋の扉が開き、そう言えば今までミントがいなかったことにようやく気が付いたプリンとポトフ。
「あ、掃除終わったの?」
お風呂場から出てきた二人を見て、ミントがそう尋ねると、
「あっはっはっ! 勿論だぜ、ミントォ♪」
「わ!?」
当初の目的を思い出したポトフは、ミントをトイレへと引っ張っていった。
「な? 綺麗だろォ?」
ずるい、とでも言いたげなプリンを無視し、期待に満ち溢れた目でポトフがミントに顔を向けると、
「わあ! うん! すっごい綺麗になってるよ、ポトフ!! しかも薔薇まで飾ってあるし!」
ピカピカのトイレを見て、驚いたようにミントがそう言った。
「あっはっはっ! 流石俺―…」
「ミント、こっちも!」
「へ?」
ポトフが満足そうに笑っている隙を見て、プリンはミントをお風呂場に連れていった。
「わあ! プリン、すっごいピカピカ!! それに、お湯まで張ってくれたんだね!」
ピカピカのお風呂場を見、またもや驚きの声をあげるミント。
「ふふふ。頑張った」
そんな彼を見て、満足そうに笑うプリン。
「……」
それがなんとなく気に食わなかったポトフは、
「ミントォ、俺の方が綺麗だろォ?」
「え?」
ミントの腕を掴み、ちょっと捉え間違えれば物凄いナルシストな発言をした。
「……何を言うか。僕の方が綺麗に決まっているだろう」
「へ?」
彼に対抗し、ミントの反対側の腕を掴んで、やはりちょっと捉え間違えれば物凄いナルシストな発言をするプリン。
「「むむむ」」
プリンとポトフはミントを挟んで火花を散らした後、
「「ミント、どっちが綺麗?!」」
再びちょっと捉え間違えれば物凄いナルシストな発言をした。
「? どっちも綺麗だよ」
ミントはきょとんとした表情で小首を傾げながら、ちょっと捉え間違えれば物凄いキザな返答をした。
「「そ―…」」
「あ、そだ。はいこれ」
「「!」」
納得いかない二人が何か言う前に、ミントは思い出したように手に提げていた袋から、プリンと骨付き肉を取って二人に差し出した。
「お掃除お疲れ様」
そしてミントは、にこっと笑った。
「……」
「……」
そんな彼を見て、戦意を喪失したプリンとポトフは、
「……? どしたの?」
「「ありがとう、ミントっ!!」」
「うわあ?!」
首を傾げたミントに、お礼を言いながら抱きついた。
その夜。
ミント
「……またアヒル浮かべたのか……」
趣味の不一致。