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学校日和2  作者: めろん
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第49回 日暮れ日和

 円形の街の中央に巨大な城がそびえ立つ、此処は王都市、その名もシャイア。


「ただい―…」


西の空に日が落ちて、夜空に無数の星が美しく輝き出した頃。

その城、シャイア城からそれほど離れていない所にある、庭付き一戸建ての赤い屋根の家に仕事が終わって帰ってきたミントパパ、シャーンは、ドアを開けると同時に硬直した。


「……」


目を擦ってもう一度目を開き、見間違いではないことを確認した上で、


「なんで首から下だけ溶けてるんだ、ジャンヌ?」


玄関先でえらい心臓に悪いことをやっている理由を、生首ミントママ、ジャンヌに尋ねた。


「七夕だからよ!」


すると、生首の状態でその場ですいすい回りながら、ジャンヌは簡潔に答えた。


「……。そうか」


シャーンはそれだけを言うと、玄関に鍵をかけて壁に箒を立てかけた後、平常通りリビングに向かって歩いていった。


「ゲヘヘヘヘ! 笹の葉メ〜ルヘ〜ン♪」


残された生首は、七夕らしい歌をアレンジして歌いながら、彼の後についていった。

王都市・シャイアは、本日も誠に平和である。










「!」


 いつもの巨大な食堂での夕食の時間、自分の夕食を持ったココアの濃い桃色の瞳に、茶髪眼鏡少女が映った。


「やっほー♪ 久しぶり、アロエー!」


「あ。お久しぶりです、ココアさん」


ひらひらと左手を振って元気に挨拶したココアに、さらりと挨拶を返した彼女は"アロエ"。


「ここ座っていいー?」


こちらに気付いたアロエの隣の席を指さして、ココアが小首を傾げながら尋ねると、


「……。別にいいですが、今日はポトフ=フラントと一緒には食べないのですか?」


と、アロエが逆に質問をしてきた。


「な――べ、別に毎日一緒に食べてるわけじゃないもーん!」


彼女の横に座りながら、若干顔を赤くしたココアがぷうっと頬を膨らませた。


「……そのようですね」


アロエはそう言って眼鏡をかけ直すと、懐から怪しげな手帳を取り出した。


「! で、出た! アロエの手帳……っ!!」


そのまんまなことを、物々しくココアが言った。


「なんでも、ココアさんはポトフさんの"あーんしてV"とか、"顔にケチャップついてるぜ♪"とかまあ、ベタベタな攻めが苦手だとか」


ぱらりと手帳を開き、つらつらと語り出すアロエ。


「だ、だだだ、だってそりゃ、こんな公衆の面前で」


顔を赤くしながらも反論を試みるココア。


「そうですね。お二人の時は別に嫌がらないと言うかむしろ―…」


「にょおおおおおお?!」


ページを捲って何やら恥ずかしい情報を流し始めたアロエを、顔を真っ赤にして全力で止めに入るココアであった。


「かァわいいなァ♪」


 そんなココアを遠くの席から頬杖をついて見ていたポトフは、ふわりと微笑んで何か呟いた。


「あはは、随分と一途になったね〜ポトフ〜?」


ポトフの向かい側に座ってコーラを飲んでいたミントは、のほほんと笑いながら彼に向かってこう言った。


「昔はタラシまくってたのに」


「あっはっは、聞こえ悪ィぞミント?」


ココアから目を外して、ミントにピントを合わせたポトフが突っ込んだ。


「だって、本当のことでしょう? 前はどの女子にも可愛い可愛いって言ってたし」


「いやまァそれは実際可愛いし♪ バット」


ミントの発言を認めた後、ポトフは逆接の接続詞をつけたし、


「ココアちゃんは特別V」


と言った。


「左様でございマスカ」


楽しそうなポトフに、さらりと返すミント。


「勿論、ミントも特別ゥ♪」


すると、ポトフはそう言って素敵に笑ってみせた。


「はいはいどーも」


「ミントー!」


 ミントがそれを適当に流すと、後ろでひとつに束ねた水色の長い髪を弱く上下させながら、プリンが右手にプリンを持って小走りでこちらにやって来た。


「テメェは格下」


やって来たプリンに、ポトフはさらりとそう言った。


「バリューレスは黙っていろ」


その言葉に、彼よりも更にさらりと返すプリン。


「バ……テメェ、俺の価値は0円すなわちタダってことかァ?」


若干震えながら聞き返すポトフ。


「商売の基本がなってないな。そのものの価値と同等の値で売ったら、こちらにはなんの利益もないだろう?」


「まさかのマイナス?! 貰ってくれてありがとうの領域!?」


「そんなことより」


 自分の価値がタダ以下だと言われ、流石にショックを受けたポトフとの会話をぶった切り、プリンはミントに顔を向けた。


「ミント、今日、たなぼた!」


「うん、そうだね。"ば"だけどね」


プリンの態度の落差の激しさを改めて感じつつ、コーラを飲みながら応えるミント。


「む? たーなー……"ば"?」


ぴこっと小首を傾げるプリン。


「そう。七夕」


「たなばぼ!」


「あはは、キミは"ぼ"が大好きなんだね〜?」


彼なりに一生懸命なプリンを見て、ミントは何かを諦めたように爽やかに微笑んだ。


「うむ、兎に角それだ!」


プリンは、ちょっとズルかった。


「あはは、じゃあ、笹取りに行こうか?」


彼が言わんとしたことを先読みし、空のコーラのビンをテーブルに置きながらミントが尋ねると、


「うむ!」


プリンは元気よく頷いた。

そうして、即刻プリンを食べ終えた彼と共に立ち上がったミントは、


「ほら、ポトフも行こうよ?」


と、うなだれているポトフに声をかけた。


「……!」


すると、ポトフは顔を上げて、


「ミント……俺を貰ってくれるのかァ……?!」


目を輝かせてそう言った。


「何バカなこと言ってんのさ?」


そんな彼に、ミントは呆れたように笑ってみせた。


「ココアに貰ってもらいなさい」


「なんか言ったー?」


その隣で、ココアが素敵に微笑んだ。


「!?」


いつの間に、と、ミントが驚いていると、


「ミーンートー?」


ココアからにょきっと角が生えた。


「ごごごごめんなさいいい!!」


「待ちやがれええええええ!!」


「ぴわわ! ミント!!」


「待ってココアちゃ〜ァんV」


ドタバタと駆け回り始めたミントとココアとプリンとポトフと、食堂で騒ぐのは控えていただきたい、とか思う、その他大勢の生徒たちであった。

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