第47回 暗黒日和
キーンコーンカーンコーン
「!」
キーンコーンカーンコーン
「……鐘が鳴ってしまいましたね。では、今日はここまでにします」
腹減ったなァ、とか思いながら聞いていた四時限目の魔法学の授業が終わり、ポトフはささっと教科書類を片付けた。
「よォしっ! 食堂行こうぜ、ココアちゃん♪」
続々と教室を出ていく生徒たちに負けないよう、パキンと右手の中指を打ち鳴らして勉強道具を魔法で自分の部屋へと移動させた後、素早く隣に座っているココアを夕食に誘うポトフ。
「……すー……」
が、隣からは、返事ではなく寝息が返ってきた。
「……。寝てる……」
居眠りしているココアは珍しかったようで。
机に突っ伏して寝ている彼女を見て、ポトフは数回まばたきをした後、
「……無防備すぎるぜ、ココアちゃん?」
ふっと微笑み、何やら危険なことを呟きながら、ココアを起こそうと、彼女の肩に手を伸ばした。
「――!」
その時、突然ピーンときたポトフは、伸ばした右手を引っ込めた。
「隣で寝てるってことは、俺、ココアちゃんに信頼されてる……っ?!」
そして、感動したようにその手を自分の口にかざすポトフ。
しかし、感動しているところ悪いが、授業中の居眠りに隣の席の人への信頼など存在しないと思われる。
「……」
「……」
静かに机に突っ伏しているココアを見て、ポトフはその綺麗な顔で麗しく微笑み、
「その信頼、裏切らさせてイタダキマス」
ぱむっと両手を合わせてそう言った。
「て裏切るんかーい?!」
バシコーン!!
「ぐはァっ?!」
直後、眠っていた筈のココアから突っ込みと張り手が勢いよく飛んできた。
ズザーガラガラガッシャンドサドサドサバコーン!!
「いったた……、起きてたの、ココアちゃん?」
何やら数秒の間でいろいろと痛そうなことが起きていそうな音がしたにも関わらず、すぐに上体を起こしてココアに問いを投げ掛けるポトフ。
「当ったり前でしょ起きるわよそりゃー!?」
ツカツカとポトフの元に移動し、彼をズビシッと指さしながら言い返す、ご立腹なココア。
「じゃァ、もォちょっと寝たふりしてなきゃ」
「出来るかボケえええええ?!」
口を尖らせたポトフに、どこかキャラが違う突っ込みをぶちかますココア。
どうやら相当ご立腹なようで。
「……。レディがそォんな汚い言葉使っちゃ」
ポトフはそんなココアの右手をぐいっと引っ張り、
「きゃ―…」
「ダァメ♪」
ちゅ
と、彼女の口を塞いだ。
ガラリ
「何してるのポト―…」
丁度その時、なかなか教室から出てこないポトフを呼びに、ミントがガラリと教室の扉を開けた。
「―…、……フ……」
最後の文字を発音した後、ミントは両頬を紅潮させ、
「……お……おじゃましました……」
と言って、ぱたむと扉を閉めた。
「……」
「……」
……。
「きゃっ、恥ずかしっ☆」
「来たれ終焉!! ダークネスサクリファイスううう!!」
ちゅどおおおおおおん!!
という具合いにポトフをぶっ飛ばした後、ココアは急いでガラッ!! と扉を開け、
「違う!!!」
と、力いっぱい何かを否定した。
「ひや!?」
すると、何故かプリンの背後に隠れていたミントが思わず声をあげて驚いた。
「み、ミント、どうしたの?」
何がなんだか分からないといった表情のプリンが、自分の後ろに隠れているミントに尋ねると、
「ごごごごめん!! で、でも、オレそんなつもりじゃ」
彼を綺麗に無視して、ミントは全身全霊で謝罪した。
「でもだってまさかお楽しみ中のところを邪魔するなんてごめんオレ本当死んだ方がいいよねえええ?!」
「違うけど死ねえええええ!!」
パニック状態に陥って、何やら誤解を招くような表現を用いやがったミントに、ココアは乙女らしからぬ言葉を最大ボリュームで発した。
それはもう、赤鬼も真っ青になるような形相で。
「深淵の果て、常闇の都へと導け!!」
極限まで高まった魔力と、随分と物騒な呪文。
その二つの条件が満たされた時、ココアの前に漆黒の巨大な魔法陣が現れた。
「――滅びの使者、ルイン!!」
ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
破滅をもたらす暗黒の使者、"ルイン"の名をココアが叫んだところより先のことを覚えていた者は、誰もいなかったと言う。