第45回 父の日日和
「ミントー」
「? 何―…」
しとしとと穏やかな雨が降り続く季節。
聞き慣れた声に名前を呼ばれたミントが振り向くと、
「―…プリンんんん?!」
そこに立っていた美男子、プリンを見て、思わず叫び突っ込みを入れた。
「うむ。僕はプリンだ」
「ななな、何、鼻メガネなんか装着してんのさ?! って言うか、こんなん何処で手に入れたのさ!?」
理由は、プリンが鼻メガネを装着していたから。
ちなみに、鼻メガネとは、レンズの他に、やたら大きな鼻と小粋な髭がついている、素敵な眼鏡のことである。
折角そんなにかっこいい顔をしているのに、台無しも甚だしい!! と、ミントはプリンから素早く鼻メガネを没収した。
「む?」
すると、プリンは不思議そうに小首を傾げ、
「今日は父の日だぞ?」
と、言った。
「???」
父の日+鼻メガネ=意味不明。
そんな式が脳内で組立ったミントは、
「なんで父の日に鼻メガネしなきゃならないのさ?」
と、素直に質問してみた。
「うむ。それは、馬鹿犬が今日は父の日だと言ったからだ」
「……はい?」
「それで、父の日には父親のような格好をしなきゃいけないから、それをつけろと」
ミントが取り上げた鼻メガネを指さしながら、プリンは純粋なオーシャンブルーの瞳を彼に向けて答えた。
「……」
プリンの答えを聞き、大体の状況を把握したミント。
(……まあ、信じることは良いことだよね)
ミントはそう思いながら、
「それ嘘だよ、プリン」
彼にさらりと真実を教えてあげた。
「――!?」
衝撃。
「……」
のち、怒り。
「……。今回は好きなだけ仕返していいと思うよ?」
下を向いて拳を握り締め、ガタガタと震え出したプリンにミントが言うと、
「――クク、次回があるといいがな? テレポート」
邪悪なオーラに満ち溢れたプリン、詰まり、ゴマプリンは、危険な笑みを顔いっぱいに湛えて姿を消した。
「……ご愁傷様、ポトフ」
自業自得だと思いつつも、ミントはポトフの為にぱむっと合掌しておいた。
「……父の日かあ……」
その後ミントは机に座り、抽出から一枚の画用紙と一本の鉛筆を取り出した。
≫≫≫
コンコン
「? 入れ」
王室のドアがノックされたのを聞き、国王、ルゥはすぐにドアの向こうの人物に入れと命じた。
「……お前な、もう少し用心深く部屋に人を入れろよ? お前を殺そうとしてる奴だったらどうすんだ」
ので、隣に控えていた兵士長、シャーンが呆れたように注意した。
「なんで? そんな奴が来たら楽しいじゃん」
「……。あそ」
今更ではあるが、戦闘好きな国王って、どんなもんなんだろうな、と、シャーンが頭を抱えていると、
「むーっ!」
ギギギッ……
王室の大きなドアが、一人の少年によってゆっくりと開かれた。
「! おお! ミント!」
王室に入り、今度は一生懸命ドアを閉め始めた彼、ミントを見て、ルゥがぱあっと顔を明るくすると、
「るーさまー!」
やっとドアを閉め終えたミントは、てててとルゥの元へと走ってきた。
「"るー"じゃない、"ルゥ"だ。OK?」
「るーさま!」
「うし! 可愛いから許す!!」
当時五歳のミントの頭を撫でながら、機嫌良く言うルゥ。
「あのね、今日、父の日でしょ? だから、みんなでクッキー作ったの!」
すると、ミントは肩に提げた黄色い園児バッグから小さな袋を取り出し、
「はい、るーさま!」
にこっと笑ってルゥに差し出した。
「オレにくれるのか? ありがとな」
それをにこっと笑って受け取ったルゥは、
「おお! めちゃんこ美味いぞ、ミント!」
中に入ったクッキーを一枚取って食べてみた。
「えへへ、めちゃんこー」
そう言われて、嬉しそうに笑いながら彼の言葉を真似するミント。
「くあ! もう可愛いなお前一体誰に似たんだよ? はい、あーん」
「わあ!?」
「美味いか?」
「うん! うまいー!」
と、楽しそうにクッキーを食べている二人に、
「……」
悲しいかな、完全に置き去りにされている彼は兵士長でミントパパ。
名前はシャーン。
(……父の日って……父の日って……)
なあミント、お前の父は俺じゃないのか? と、シャーンが心の中で悲しい疑問を浮かべていると、
「「ごちそーさまでしたっ!」」
ルゥとミントが両手を合わせてそう言った。
(……。父の日のバカヤロー)
夕日に向かって思い切り叫びたい心境のシャーンであった。
「おっしゃミント、お礼にコーラ買ったげるぞ!」
「! わーい!」
ふよふよふよ
シャイア城から自宅への帰り道。
自分の後ろにミントを乗せたシャーンは、箒に乗って夕日をバッグに空を飛んでいた。
「♪」
「……? 何かいいことでもあったのか?」
後ろにちょこんと乗っているミントが嬉しそうだったので、シャーンが振り向きながら尋ねると、
「うん! るーさまにコーラ買ってもらったし、ほめられた!」
ミントは元気に頷いてそう答えた。
「……。クッキーのことでか」
蘇る今日のお昼の悲しき記憶。
「うん! おいしかったなぁ♪」
「ははは、俺には何もないのな?」
こくりと頷いたミントを見て、前に向き直り、何かを諦めたように清々しく笑いながらボソッと独り言を呟くシャーン。
「……。……あげない」
すると、後ろから小さな声が聞こえてきた。
それは、夕方の涼しい風に掻き消されてしまいそうなくらい小さな声。
「? あげ―…」
それを聞き取ったシャーンは、予想に反した言葉に、再びミントを振り向くと、
「―…だって」
彼の先程の明るい表情は、一変していた。
「!? ミント?!」
彼の突然の表情の変化に驚き、目を見開くシャーン。
「……だって……何回かきなおしても……」
園児バッグの脇から飛び出ている、くるくると巻かれた画用紙を握り締め、
「ぜんぜん上手にかけないんだもん……っ!」
ぼろぼろと泣きながら、ミントは震えた声でそう言った。
その涙は、自分に絵の才能があまりにも無さすぎる悔しさから。
「……!」
肩を震わせている小さなミントからの、真剣で一生懸命な言葉を聞き、
「……馬鹿だな。下手でもいいから見せてみろよ?」
シャーンはふっと微笑んでそう言いながら、彼を向いて座り直した。
「……っ」
ミントはうつ向いたまま、ごしごしと涙を拭うと、
「……おこらない?」
と、静かにシャーンに尋ねた。
「怒らない怒らない」
答えた後、しばらくしてからミントから画用紙を受け取ったシャーンは、
「……」
それに描かれた絵を見て、うっかりフリーズしてしまった。
「……。前衛的だな」
これは一体……あ、ああ、そうか、俺か。……俺か? ……俺……だよな、と、自己解決したシャーンは、なんとか感想を捻り出した。
「……? ぜん?」
その言葉に、やっと涙が止まったミントはきょとんとした顔で小首を傾げた。
「……誉め言葉だ」
そんなミントの頭に、ぽんと右手を置いて、
「ありがとな、ミント」
シャーンはにこっと笑いながらそう言った。
「!」
その言葉を受け取り、ミントは驚いたようにシャーンを見上げた後、
「じゃあ、飛ばすぞミント!」
「……うんっ!」
にこっと笑い返しながら元気に頷き、シャーンと共に家に帰っていった。
≫≫≫
……てな記憶がふと蘇ったミントは、なんとなく画用紙にシャーンの似顔絵を描いてみていた。
ガチャ
「し……死ぬかと……あともうちょっとで本気で死んじゃうかと思ったぜ……」
「!」
似顔絵が完成した丁度その時、ゴマプリンから命からがら逃れてきたポトフが部屋に帰って来たので、ミントはパッと振り向いた。
「ねえ、ポトフ」
「ごふっ……なんだァ、ミントォ?」
そして机に鉛筆を置いたミントは、代わりに画用紙を手に取って、
「これ、何に見える?」
「はェ?」
と、尋ねながらポトフにそれを見せた。
「……」
ズタボロになっているポトフは、顎に右手を当て、その絵をまじまじと見ながらじっくりと考えた後、
「……ゾウリムシ?」
と、真剣に答えた。
ちなみに、ゾウリムシとは、微生物の一種である。
「……」
すちゃっ
ミントは、無言でポトフに鼻メガネを装着した。
ガチャ
丁度その時、プリンが帰ってきた。
「……」
「……」
「……」
間。
「……お……俺の……」
「「……ふっ」」
「俺の顔がァァァァァァァァァァァァァァァァ?!」
「あはははははははっ!」
「ふふふふふふふふふっ」
「わわわ、笑うなァァァァァァァァァァァァァ!!」
一番大切にしている顔を見て爆笑されたナルシーな彼は、素早く鼻メガネを外して、力の限り吠え続けた。
皆様こんにちは。
えー、わたくしごとではございますが、私、明日英検です。
ミント
「こんなん書いてる場合じゃねえ?! ……っと、こんにちは、ミントです」
今回は、私がふとした時に思い付いた、ちびっこミントのお話でした。
「なんか恥ずかしいな……って、ふとした時って?」
現代社会の授業中。
「まったく関係ねえ!? って言うか、授業に集中しろよ?!」
まあ、そこら辺はどんまいってことで。
「うん。そだね。作者の人生がどんまいってことで」
話は変わりますが、人気投票にご参加なさってくださった方々様々、誠に、誠にありがとうございました!
「ありがとうございました!! いやぁ、奇跡だね」
イエス! ミラクル!
「……」
と、言うわけで、またまた調子に乗りましてですね、投票・質問等は、懲りずにまだまだ受け付けておりますので、どうぞお気軽に、適当に、なんかもう、その日の気分で投票なさってください! とか言っちゃいます!
「……質問等って、なんなのさ?」
例えば今晩のおかずとか。
「めちゃんこどうでもいい?!」
もっとおかず増やして欲しいとか。
「お母さんに言って?!」
と、まあ、そんな感じで質問要望等いろいろウェルカムなので、もしもお暇でしたならば、いつでもどこでも何度でもどうぞ!
「……。はい。では、不定期ではございますが、次回また是非お会いしましょうね!」
以上、どうでもいいかもしれない後書きでした!
「なら書くな」
手厳しい。