第43回 被虐日和
「暇だわ」
「暇、ですね」
野原に座って青い空を見上げながら、ウララとリンが退屈そうに呟いた。
「……くう……」
「……」
そこから少し離れた所で体を丸くして眠っているアオイの隣で、ユウはいつものようにきゅうりをかじっている。
「にしても、凄いわね、あの魔法学校」
「はい、どこかで見たことがあるような気がしないでもない、ですが、お城のよう、です」
「あー、分かる分かる。私もどっかで見たことあるような気がするのよね〜。何処で見たのかしら?」
「……よく分からない、ですが、何故か箒に乗って空を飛ぶ眼鏡少年が連想出来ます、です」
「あー、それも分かる。それで、なんか頭のいい金髪の女の子とノッポな赤毛の男の子が―…」
などと、空から目を離して国立魔法学校にそれを向けたウララとリンが、非常に危険な会話をしていると、
「あれ? ウララにリンにユウにアオイ、こんな所で何してるの?」
という、聞き覚えのある、高めの少年の声が空から降ってきた。
「! ミン―…って、箒に乗って空を飛んでるううう?!」
その声がした方へ顔を向けたウララは、箒に乗って宙に浮いているミントを見て驚いた。
「? 飛んでるけど?」
その反応に、不思議そうに小首を傾げるミント。
「ほ……本物の魔法使いだわ、リン」
「は、はい、です……」
目の前にいる魔法使いを見て、今更な反応を示すウララとリン。
「えっと、何してるの?」
彼女たちの反応を不思議に思ったが、まあいいか、と箒から降りたミントは話題を元に戻した。
「へ? あ、ああ、暇してるのよ」
その質問に、我に返ったウララが答えた。
「わあ、じゃあ、みんなも入ろうよ!」
すると、ミントがぱあっと顔を明るくして言った。
「? 何に、ですか?」
リンが小首を傾げて尋ねると、
「箒鬼ごっこ」
ミントはさらりとそう答えた。
「リンたち、飛べない、です」
さらりと返すリン。
「え!? そうなの?!」
異世界の人は箒に乗って空を飛べないということを初めて知ったミント。
「うーん、じゃあ、どうしよっか?」
その後、ミントは顎に左手を当て、うーん、と首を捻り出した。
「良い人だわね、カワイイし」
「はい、です」
暇な自分たちの為に首を捻っている彼を見て、ウララとリンが何かボソっと呟くと、
「や……やっと追い付いたぜェ……」
「……もーっ……ミント速すぎだよー?」
「ぷ、わ、ぴわわ!?」
アオイとユウの頭上から、ポトフとココアの声と、プリンが降ってきた。
「……《天空をめぐる無形の刃》」
ビュワ!!
「ぴわわわわわわわ?!」
降ってきたプリンに向け、風魔法を発動させるユウ。
よって、プリンは彼らの上に落下することなく、野原の上に落下した。
「……ぷゆゆう……」
「……くう……」
ダウンしたプリンと寝ているアオイをそのままに、ミントは、やって来たポトフとココアに状況を説明した。
「じゃー、かくれんぼしようよー!」
すると、即刻決まった。
「ココアちゃんにさんせェ〜♪」
「うん、それなら箒使わないしね!」
「わっ! かくれんぼだって、リン!」
「懐かしい、です」
「……いくつだお前ら?」
一人何か乗り気ではない声がした気がしたが、八人は早速かくれんぼを始めるのであった。
「九十九、ひゃーく!」
百まで数え終わったミントが目を開けると、
「お疲れ様です、ミントさん」
彼と同じく鬼になったアオイが言った。
「もう、"です"とか"さん"とかいらないよ?」
そんな彼に、ミントが腰に手を当てながら言うと、
「え? ……あ、はい―…うん、分かった。ミント」
アオイはこくりと頷き、言葉遣いを訂正した。
「よし! 探すよ、アオイ!」
「うん!」
そう言ってミントが走り出すと、アオイもくすりと笑って走り出した。
「プリンってワタルと同じで消えられるのね?」
「そだよー。プリンはテレポートが得意なんだよー」
「……消えるのは結構、ですが、目の前で消えられるのは心臓に悪い、です」
「ごめん」
「「?!」」
ウララとココアとリンの三人が、隠れる場所を探しながらそんな会話をしていたら、その隣にプリンが突然現れた。
「ちょ、驚かせないでよ、プリンー?」
「む。ごめん」
ココアに言われて再び謝るプリン。
「で、どうして戻って来たのー?」
「僕が隠れようとした所に馬鹿犬が走ってきたから戻ってきた」
「あは、流石双子ー♪」
「ふ、双子って言うな!」
「ポトフと双子は嫌なのー?」
「ヤー!」
「……何故枕?」
「謎、です」
ココアと会話しているプリンが持っている枕に、ウララとリンが疑問符を浮かべていると、
カリッ
という、何かをかじったような音が、ごつごつした岩だらけの斜面の下の方から聞こえてきた。
「「……」」
無言でそちらに目を向ける四人。
次いで、アイコンタクトするココアとリン。
「かじった音がした」
「……明らかにユウだわね?」
「ね」
「ね、です」
「……? 何ニヤニヤして―…」
実際にニヤニヤしているのはココアだけなのだが、無表情ながらも楽しそうなリンにも理由を尋ねると、
「「行ってこーい!」、です」
ドン!
「きゃあ?!」
二人はウララの背中をドンと押した。
「ぴわわ?! ウララが転がり落ちた!?」
「いーの! ほら、行くよー?」
「い、いいのか?!」
「プリン、気にしなーい気にしない、です」
ガラガラズガドシャーン!
「……どんな登場の仕方だ?」
岩だらけの斜面を派手に転がって登場してきたウララに、さらりと突っ込みを入れるユウ。
「あ……あんのヤローども……!!」
自分を突き落としたこととユウと一緒にさせたことに対して憤り、これが終わったらココアとリンにボウガン喰らわしてやる、とか思うウララ。
「……って言うか、なんでこんな鬼の近くに隠れてるのよ?」
取り敢えず起き上がり、服についた汚れを叩き落としながらウララが尋ねると、
「めんどい」
大きな岩に寄りかかっているユウは、きゅうりをかじりながら簡潔に答えた。
「めんどい……って、かくれんぼが?」
「お前の質問に答えることが」
「あんたねぇ、かくれんぼを笑う者はかくれんぼに泣―…って」
ワンテンポ遅れて、彼が言ったことに気付くウララ。
「! ……」
その時、ユウは何かを感じ取り、
「んだとテメ―…」
「黙れ。見付かるぞ」
怒鳴り声をあげようとしたウララを黙らせた。
「ふ、ぐがあ……っ?!」
彼女の首を、両腕で力いっぱい絞め上げて。
「? どうしたの、ミント?」
「なんかさっき声が聞こえなかった?」
すると、上の方からミントとアオイの声が聞こえてきた。
「……!! ……!!」
黙る!! 黙るから離して!! と、訴えようにも声が出ないウララは、首を絞められて苦しいのやら、この密着状態が恥ずかしいのやらで、顔が真っ赤になっている。
「……気のせいかな?」
という声が聞こえ、足音が十分に遠ざかっていったところで、
「……行ったな」
パッ
「ガハゴホゲホゴホッ!」
ユウはパッと腕を離して、ウララはその場に崩れ落ちた。
「ぁ……あんたねぇっ! な……何もチョークスリーパーで……っ黙らせることないでしょ……っ?!」
空気をたくさん吸った後、ウララがバッとユウに顔を向けると、
「……苦しかったか?」
ウララの前にしゃがんだ彼はふっと微笑み、彼女の頭に右手を乗せた。
「……あ……あああ当たり前でしょう?!」
バフッと赤くなった顔をそのままに、ウララが目の前にいるユウにそう言うと、
「じゃあ、次は五分に挑戦してみような?」
彼は彼女の頭を撫でながら麗しい笑顔でそう言った。
(殺サレル)
そんな彼を目の前に、いろんな意味で殺サレルと思ったウララは、砂煙を上げて脱兎のごとく逃げ出した。
「あ、ウララだ」
「ウララ、自分から出てきちゃダメだよ?」
よって、鬼に見付かってしまった上に注意されてしまったウララであった。
皆様こんにちは。
ココア
「びよってますかー? って、コレいい加減しつこいと思うよー?」
大丈夫です。薄々気付いてます。
……こほん。本当に見捨てないでくださった男前な、あるいは女前な方々、私、めろんは、そんなステキな貴方様方にめろんめろんでございます。
「それ詰まんないと思うよー?」
大丈夫です。薄々気付いてます。
……こほん。ではでは、まだまだ不定期更新が続きますが、これからも学校日和2にお付き合いなさってくださいますと、めろんは弾けます。
「意味不明な作者ですが、これからもどうぞよろしくお願い致しますー」
はい。どうぞよろしくお願い致します。
「では、また次回ー!」
……お会いできますよね?
「ネガティブでシメちゃったー?!」