第32回 命令日和
壁に激突して撃沈したココアを、ミントは、よっと背負って立ち上がった。
「ぴわわっ……ミント、僕がテレポートで送るっ!」
「お、俺が此処で回復させればいいんじゃねェか?」
試合が終わったばかりなのに、と心配そうに言うプリンとポトフ。
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。オレのせいだし。それに、二人はこれから試合でしょう? 試合前にそんなに魔力使っちゃダメだよ」
そんな二人にミントはそう言うと、
「じゃ、行ってくるね!」
くるりと回れ右をし、ココアを医務室へと連れていった。
「ぴわわ……行っちゃった……」
ココアを背負って走っていってしまった彼を見て、引き続き心配そうな表情のプリンと、
「セットでいただきたい」
ぐっと右手を握るポトフ。
「……」
しらっとした目を彼に向けるプリン。
「うはァ〜、二人とも可愛いくて困っちまうなァ♪」
「貴様の存在が一番困る」
幸せそうなポトフに、プリンはさらりとそう言った。
『レディースおーっと誰もイナーイ!!』
『元気ですね』
レディースアンドジェントルメーンのノリで観客席を見て言ったクー先生に、ポリー先生は素直な感想を述べた。
『いやぁ、そんな照れます!』
『誰も褒めてません』
『そうですね! では、セミファイナルパート2を始めまーす!』
ポリー先生の言葉をさらりと受け流してみせたクー先生。
『赤リンゴコーナー、ポトフ=フラント!!』
「お。普通だ」
ステージに上がりながら、アナウンスが普通に戻ったことに安堵するポトフ。
『紫リンゴコーナー、プリン=アラモード!!』
「ぷわ……ねむねむ……」
その反対側から、口に右手をかざして小さく欠伸しながら登壇するプリン。
「試合開始だ」
二人がステージの中央で対峙すると、セル先生は試合を開始させた。
ぷー
「死にさらせェェェ!!」
「貴様がな」
バシーン!!
試合開始と同時に、ポトフの足とプリンの枕が激突した。
『おっとー! これまでのすべての試合で不戦勝したプリン選手とポトフ選手、両者ともいきなり殺る気満々です!』
『"やる"がおかしいです。と言いますか、枕って武器にもなるんですね』
早速実況を始めるクー先生と、コメントするポリー先生。
「あっはっはっ! 今日こそ決着つけてやるぜェ!! 覚悟しろォ、枕ァ!!」
タッとお互いに離れると、プリンをズビシッと指さして言うポトフ。
「……決着など、いつもついているだろう。貴様の負けという形で」
そんな彼に、挑発的な返事をするプリン。
「んだとテメェ?!」
その挑発に、見事に乗ってしまったポトフ。
「事実を言ったまでだ」
更に挑発するプリン。
「ぶっ飛ばァァァす!!」
「おお? 出来るといいな?」
「ぶっ殺ォォォォす!!」
怒りが爆発したポトフは、盛大に咆哮すると、ブワッと一気に魔力を高めた。
「ランラン!!」
「微風」
ポトフが魔法を唱え、自分を包むように現れた光の球を、プリンはとても微風とは言えないような微風で掻き消し、
「コウコウ!!」
「旋風」
頭上に現れた十字架から乱射される光線を、渦巻く風で相殺し、
「キラキラァ!!」
「神風」
白熱した巨大な光の柱を、超突風で迎え撃った。
ちゅどおおおおおおん!!
ポトフの光魔法とプリンの風魔法がぶつかる度に、戦場に爆発が巻き起こる。
『激戦ですね!!』
『そうですね』
『て言うか、光と風って普通ぶつかるんでしょうか、ポリー先生!?』
『……まあ、魔法ですからね』
痛いところを突いてきたクー先生に、苦し紛れにそう答えるポリー先生。
「わは〜、やってるやってる」
医務室にココアを運び終わったミントが、大爆発が起きている会場に戻ってくると、早速プリンとポトフの声が聞こえてきた。
「いちいち止めんなよバカ!!」
「止めない方が馬鹿だろう?」
「……相変わらずだね」
無茶なことを言いなさるポトフと、さらりと言い返すプリンを見て、思わず苦笑いするミント。
「はわ! た、確かに!」
「……」
ハッとなったポトフに頭を抱えながら、プリンは何も持っていない右腕を大きく振りかぶった。
「舞風」
その時産まれた風の刃を、プリンはポトフに向かって思い切り投げつけた。
風の刃は、回転しながら進んでいくうちに、みるみる巨大になっていく。
「! プリズムソード!」
ガキィン!!
巨大化しながら襲いかかってきた風の刃を、ポトフは光の剣で見事に弾くと、
「ピカピカァ!!」
透かさず光魔法を唱えた。
カッ!!
「「!!」」
『わ!?』
『っ! 目くらまし系の光魔法ですね』
直後、目を開けていられないような強い光が、日が暮れて暗くなった辺り一面を照らした。
「もらったァ!!」
強烈な光に当てられて目を瞑ったプリンに、ポトフは正面から光の剣を振り下ろした。
「――!」
その直後、瞳を開け、身の危険を察知したプリンは、とっさに叫んだ。
――それは、風魔法でも瞬間移動魔法でもない言葉。
「おすわり!!」
プリンの声が、広い会場に響き渡った。
「……」
『……』
『……』
「……は?」
次いで、固まるセル先生とクー先生とポリー先生とミント。
「……か……体が……勝手に……っ?!」
それは、光の剣を取り落としたポトフが、プリンの目の前で"おすわり"をしていたから。
「あ……」
我に返ったプリンは、しまったという顔をしつつも、ぴこーんと何かを思い付いた。
「……ばーん」
「きゅうん」
ぽてっ
プリンが指で鉄砲を打つ動作をすると、ポトフは可愛らしい声を発しながら仰向けに倒れた。
「――はっ!! くっ……くそっ……!! なんで……っ!?」
「……。……フラント、戦闘不能。よって勝者、アラモード」
「な、何ィ?!」
ので、セル先生は右手を挙げてそう言った。
『なななっ、なんとー!! ポトフ選手は犬だったー!!』
「ふざけんなァァァ?!」
その後、クー先生とポトフの声が会場に木霊した。