第3回 逃走日和
「いったた……大丈夫、ポトフ?」
ミントは頭を押さえながら起き上がり、ガチコーンと激突してしまったポトフに顔を向けた。
「って、ポトフ?!」
その瞬間、ミントは文字通り飛び上がった。
「……ミン……ト……」
それは、うつ向き加減のポトフが泣いていたから。
「ごごご、ごめん、ポトフ!! オレ、うちのバカ親に"エイプリルフールだぜイエア☆"とかくっっっだらない理由で日にち騙されたから遅刻しちゃって駅に行ったらもう汽車出発してたから箒でここまでぶっ飛ばして来たんだけどいきなり箒が空中分解しちゃって荷物と帽子落としちゃってそのあのええとオレの帽子知らない?!」
「……」
身振り手振りを交えながらのミントの必死の弁解に、ポトフはうつ向いたまままったく反応しない。
「……ごめんね、ポトフ? そんなに痛かった?」
一気に騒いで気持ちが落ち着いたのか、申し訳なさそうな表情でミントがうつ向いている彼の顔をしゃがんで下から覗き込むと、
「グゥレイトォォォ!!」
「うわあ?!」
ポトフはガバッとミントを抱き締めた。
「ぽ、ポトフ?」
グゥレイトォォォって何さ? とか思いながら、ミントが彼の名前を呼ぶと、
「よかったァ、生きてたんだな!? 帽子は落としただけなんだな?! もォ、焦らせんなよ、ワニの口に引っ掛かってたからワニに食われたかと思ったんだぞ!?」
「ワニの口に!? 焦らせてごめんなさい!! そして焦ってくれてありがとう!!」
ポトフの言葉に驚き、彼に謝りながらも、やっぱり、グゥレイトォォォって何さ? とか思うミント。
「あー! ミントー! 久しぶりー!」
「! ココア」
ポトフの腕の中から解放され、ミントが帽子を被っていると、ココアがそこにやって来た。
「久しぶり、って、プリンそれどうしたの!?」
振り向いた途端、頭に大きな瘤が出来たプリンが目に入り、ミントは透かさずそれに突っ込みを入れた。
「ぶう……急に空からバッグが降ってきたんだ」
頬を膨らませながら、プリンはバッグをミントに見せてそう言った。
「あ、ごめん、プリン。それオレの」
その黒いバッグを見て、彼に頭を下げて謝るミント。
「む? そうだったのか」
それを聞いて、しゅっと元の顔に戻るプリン。
ついでに、頭の瘤もしゅっと引っ込んだ。
「……ありがとう。久しぶり、プリン」
「うむ。久しぶり」
引っ込んだ!? と心の内で突っ込みつつ、ミントはバッグを受け取りながら久しぶりの挨拶を交した。
「あっはっはっ! これで四人揃ったなァ!」
「ふふふ。そのようだな」
「春休みぶりだね〜!」
「あはは♪ でさー?」
お互いの顔を見合わせ、明るく笑い合う四人。
「何?」
「む?」
「はェ?」
そして、ココアに顔を向ける三人。
「後ろにおっそろしいのがいるんだけどー?」
ココアは笑顔を引きつらせてそう言った。
「「うし―…」」
そのままココアの後ろに目を向ける三人。
『グルルルルルラァ……』
そこには、鋭い牙と爪を有し、背中に革のような大きな翼を持ち、腹以外は堅い鱗で覆われている、桁外れに巨大な魔物が、
『グオオオオオ』
『ガオオオオオオオ!!』
三体いた。
「……わあ、何あれ?」
「……ふむ。恐らく、ドラゴンだ」
「……えっとー、ドラゴンって、あの危険度MAXで有名なドラゴンー?」
「……わァお。ファンタジ〜ィ……」
四人は放心状態でそんな会話を交した後、
「逃げよっか」
「「大賛成」」
ミントの提案に同意し、全速力で逃げ出した。
『グルルルルラアァ!!』
「ヤーーーーーーー!!」
「きゃーーーーーー!!」
「ココアちゃんは何があっても俺が守るぜェ!!」
『ガオオオオオオオ!!』
「じゃあ、早くなんとかしなさいよーーー!!」
「え? "速く"? お安いご用♪」
「って、確かにポトフの方が足早いけど何お姫様だっこしてんのよー?!」
「……案外余裕なんだな、お前ら?」
『グオオオオオ……ゴッホゴッホ!!』
「うわあああ!! なんかむせてるよおおおお!!」
こうして、四人は国立魔法学校へと逃げて行くのであった。