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学校日和2  作者: めろん
234/235

第234回 復活日和

 ココアから発せられた、まるでお侍のような言葉に応えて覚悟を決めた籠のなかのポトフ。

この状況を切り抜けるためならば仕方がない。

我ながらアホな罠にかかったものだ、と彼が人生の反省会を始めたところで、


「――」


何かが、触れた。

少しの間を置いて、何か条件反射で弾けるように目を開けると、


「……っ」


バッと身を退いてはいるものの、顔を完熟したトマトのごとく真っ赤っかにしているココアが、そこにはいた。


「……」


「……」


「……」


訪れる沈黙。

停止中のポトフの頭に、いつだったか口にした言葉が思い返された。


――呪いは、キスで解くってのがお約束だろォ?


パキィン!!


直後、彼を閉じ込めていた頑丈な檻が、いともたやすく砕け散った。


「……」


「……」


「……」


続、沈黙。


「ッ、貴様はどうしてそう単純なんだ?!」


後の、怒号。

プリンはズビシっと彼を指差して怒鳴り付けた。


「お、俺、今……?!」


理不尽に怒られたポトフは、信じられないといったようすで口元を右手で覆う。


「ココアちゃんにちゅーしてもらっ」


「ダークネスサクリファイスー!!」


余計なアテンションプリーズをしたポトフを遠慮なくぶっ飛ばすココアは、依然として顔が赤い。


「なんだそのふざけた呪いは! 僕の時間を返せ貴様!!」


珍しく取り乱すプリン。

彼は、どれだけの書物にかじりつこうとも辿り着けなかったその解決法のあっさり加減に、それはそれはご立腹。


((ああ、だから納得がいかなかったのか))


ゆえにあんな苦渋の決断のような顔をしていたのかと納得するココアとポトフ。

うん、図書館制覇するくらい頑張ったんだもん、納得いかないよな。


「……っ、馬鹿者め……」


 しかし、方法はどうであれ、呪いが解けたことには変わりはない。

ひどく安堵した様子のプリンは、出所祝いに闇の十字架で盛大にぶっ飛ばされた弟の隣に膝をつき、右手に魔力を集中させた。


「?! な、枕!?」


その異様な魔力に、ポトフは思わず目を見張る。

この、途方も無いほどに膨大な魔力は一体どこから。


「「――!?」」


その答えは、もう隠すことをやめた枕から。

プリンがずっと抱えていたそれには、彼の日々の魔力が貯えられていた。

魔力の気配を消すまじないをかけた枕には、このときのための膨大な魔力が蓄積されていた。


「まく……、な、何を?」


それらを一点に集中させている彼に、ポトフは疑問を投げ掛ける。


「……人間の、身体中の遺伝子すべてを変化させる薬なんてない」


その問いに答えると言うよりは、独り言のようにプリンは言葉を口にした。


「だから、人間が永遠に狼男になる薬なんて、存在しない」


高まる魔力に呼応して、巻き起こる風にローブとその水色の長い髪を踊らせながら、


「そして、アクリウムが誇る名医に長年回復魔法をかけてもらっているのに消えない刺し傷なんて、あるわけない」


プリンは、まっすぐな瞳をポトフに向けた。


「詰まり、それはお前にかけられていた、言葉の呪いが原因だったんだ」


 言葉の呪い。

意図せずに呪いとして彼を苦しめていたその言葉は、考えられる範囲では、彼が捨てられる直前に吐かれたひどく心ない言葉。

恐らくは、それが今の今まで彼に狼男の呪いをかけ、その呪いが発動している間に受けた傷の治りを妨害していたのだろう。

 それが解けた今、彼の身体のなかに邪魔するものは何もない。

プリンは左手で彼の眼帯を取り去った後、ありったけの魔力を込めた右手を、ポトフの右目にかざした。


「――"リザレクション"っ!!」


思わず目を瞑る程のまばゆい光が、プリンとポトフを包み込む。

複雑な魔法陣が何重にも展開され、容赦なく術者の魔力を奪い去る。


「「!!」」


 ――"リザレクション"。

その名の通り、術者が対象とした人物を復活させる回復魔法。

完全に使いこなすことが出来れば、死者をも復活させることが出来るとも言われているこの魔法。

しかし、膨大な魔力と繊細なコントロール、細心の注意と複雑な知識を要することから、医者であっても使えるものはほんのわずか。


「……! ポトフの傷が……!」


 それをいっぱしの学生が使ってみせたことに、ココアとポトフは驚くばかり。


「ま、まく――」


光がおさまり、思わず閉じた瞳を開けると、ポトフはいつもとの違いにいち早く気が付いた。


「……!」


視界が、広がっている。


「右目が、治ってる?」


まさかそんなことが起きるとは、夢にも思っていなかったポトフ。

だって、あれだけエリアが回復魔法をかけても、全然治らなかったのに。


「……ふ……、よかっ」


彼の様子から、ちゃんと右目が機能していると知る。

 ふわりと微笑んだ後、くらっと倒れそうになったプリンを、


「お疲れさま」


ガシッと受け止めたのは、ミント。


「! ミント! もう倒し終わったのー?」


その姿に、ココアが労いの言葉を掛けようとしたところで、


「ううん。多すぎて無理」


ミントは、きっぱりと否定した。


「「え」」


ぱきっと固まったココアとポトフに向けて、ミントはにっこり笑ってみせると、


「逃げるよ!」


プリンを担いでσの背に乗ってそう言った。

直後、薔薇の鞭で器用にすくわれるココアとポトフ。


「ようし、エンジン全開! 出発進行ー!」


『迫る木々にご注意ください、なんだなぁ〜♪』


「ちょっ、ミント危な」


「ッイヤーーーーー?!」


『『ぐばばばばば!!』』


ミントとプリンを背中に乗せ、ココアとポトフをぶら下げながら、エンジンを全開にして駅に向かってかっ飛ばすσであった。


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