第233回 覚悟日和
まばゆい琥珀色の光が溢れ出し、幻獣、グリフォンが現れた。
「行くよσ!」
『了解なんだなぁ〜!』
σ(シグマ)を召喚したミントは、気合いを入れたσとともにメタリックマたちに向かっていった。
「俺の、呪い……?」
ざわりと風が木々の枝を躍らせたその後で、ポトフはゆっくりと聞き返した。
「うむ」
それを迷いなく肯定するプリン。
もちろん、これは冗談ではない。
「……!」
そこで、ポトフがバニラから受け取ったいつぞやのカードを思い出すココア。
――"言霊の呪い"。
そう記してあった、何か理由もなく不吉を感じさせる不気味なカード。
しかし、その前にも後にも特に変わった様子のないいつも通りな彼に、ココアはすっかり安心していたのだが。
「ぷ、プリン、どうやって解くか知ってるのー?」
ざわざわと沸き上がる不安を落ち着かせるように、ココアは恐る恐る尋ねた。
すると、プリンはこちらに顔を向ける。
青く澄んだ瞳がココアを捕らえ、彼はゆっくりとその重い口を動かした。
「知らん」
「「って、知らんのかいィ?!」」
ココアとポトフのツッコミが、これまた見事にシンクロした。
「仕方ないだろう。知らんものは知らん」
「いや何ほっぺ脹らましてんだよテメェ?!」
「えええ、じゃあ一体どーするのー!?」
可愛くねェ! と付け足すポトフと焦るココア。
「……学校の図書室の本は全部調べた」
「ええ!? それでも載ってなかったのー?!」
悔しそうなプリンの言葉に、ほろりときたポトフはほっといて、
「ねえ、きっと解決できるようになってるんだと思う!」
メタリックマを押さえ込みながら、σに乗ったミントが振り向きもせずに口を開いた。
どうやら、戦いながらも今までの会話を聞いていたらしい。
「"今まで学んできたこと"のなかで、答えはもう見付けてるんじゃない?」
困っている友人を、一生懸命勇気づける。
こんなところで諦めちゃいけない。
「む、今までの……」
「学んできたことー?」
「……何か、ヒントになるよォなこと」
頑張っているミントのためにも、早くこの状況を打開しなくては。
友人たちは、再び考え始めた。
これは、予想ではあるがポリー先生からの課題。
筆記のテストでも、それこそ重箱の隅をつつくようなかなり細かい問題を提示する。
授業中の何気ない一言が、彼女の求める答えだったりもする。
「――! あ」
あ、と何か閃いたプリンの口が、思わず声を出す。
「「え?」」
ゆえに、ココアとポトフから期待の眼差しが向けられる。
流石は天才。
頼りになるぜ。
「……いや……しかし……?」
しかし、彼の表情は何故かかんばしくない。
なにか、自分の考えを認めたくないような、そんな感じ。
「ど、どしたの? 何かいい考えが浮かんだんじゃないのー?」
苦々しい顔をした彼に、ココアは疑問符を浮かべる。
「う……うむ……」
腑に落ちない。
腑に落ちないが、今はそんなわがままを言っている場合じゃない。
「……、ココア」
「んー?」
ゆえに、プリンは致し方なくココアの耳を借りることにした。
(こ、ココアちゃんとこしょこしょ話……!!)
枕テメェ!! と怒りの炎をメラリと燃やすポトフの手前で、
「っええええええー?!」
ココアは、顔を真っ赤にして仰け反った。
その表情はさしずめ、え、何故にそんなことをせなあきまへんのん? と、いったところだろう。
「むう、馬鹿犬のためだ」
たぶん、と付け足しながらもココアに言い聞かせた後で、
「馬鹿犬」
「?」
プリンはポトフに顔を向けた。
「柵と柵の間に顔を付けた上で目をつぶって歯を食い縛れ」
「はァ?!」
そんなお願いは、すんなり聞いてくれるはずもなく。
「いいから黙って言う通りにしろ」
「おま、何する気だ枕テメェ?!」
「何かをするのは僕じゃない。ココアだ」
「っ、何!? ココアちゃ?!」
しかし、
ぴた
「む。甘んじて受ける気になったか」
相手がココアなら、許容できるようだ。
「ちょ、ちょっとプリン本気なのー!?」
が、覚悟を決めたポトフの不安を煽る声。
え、敢えてもう一度確認するほど危険なことなの?
「うむ。可能性はある。納得いかないが」
そしてお前は何故にさっきから自分の考えに納得してないの?
「〜っ! じゃー、プリンあっち向いててよねー!?」
思わず目を逸らして欲しくなるようなことする気なの?!
「む? 分かった」
ココアに言われた通り、素直にくるりと背を向ける。
「……」
「……」
「……」
後、流れる沈黙。
聞こえてくるのは、ミントとσの奮闘の声と、風が木々を揺らす音。
自らを盾に時間を作ってくれている彼のためにも、ここは早く解決しなくては。
「っ、ポトフ覚悟ー!!」
ココアは己に課せられた使命を果たすべく、半ばやけくそになりつつ地を蹴ったのであった。