第232回 解法日和
「うーん」
「ふむ……」
「……えーと」
「んんん」
森から聞こえてくる悩む声。
ミントとプリンとココアとポトフは、開かずの檻に苦戦を強いられていた。
己の腕力を信じて持ち上げようにも、魔法のごり押しという力ずくで破壊しようにも本当にびくともしない鉄壁の檻。
まさか、こんな厄介なトラップだったとは。
「もー、ポトフのバカーっ!!」
「ホンッッットにごめんなさい」
怒るココアに返す言葉もないポトフは、ただただ深々と謝罪するしか他になく。
「えと、あの恐竜を倒しても消えないってことは、アイツは関係なかったってこと?」
「うむ。恐らくは」
何やら脱出に向けてポトフに穴を掘らせ始めたココアをよそに、ミントとプリンは相談タイム。
「となると、あのトラップを仕掛けたのは」
「馬鹿犬が無類のシカさん好きと知っての罠だろうから、恐らくは先生たちだろうな」
手抜きなのかそうではないのか、よく分からない罠を仕掛けるとみえた魔法学校の先生方。
「……スイッチの心理的な挑発はフェイ先生かベル先生あたりで、岩ゴロゴロの体育的な猛ダッシュはエル先生?」
そこで、ミントは今までのことを、やらかしそうな先生たちとこじつけてみた。
「む。動物的な怒りは魔物と生物のどちらも当てはまるからセル先生かリア先生か?」
彼に合わせて、プリンも同じように考えてみる。
「卵とシカ入手は意外と行動派な家庭科のピット先生で、あのメタリックパワーアップはむちゃくちゃ科学者のクー先生?」
「では、クマさんに妙に美術的模様がついてたのはケア先生辺りの遊び心か」
なんとなくな雰囲気で、ある程度当てはめられた様子の二人は、
「と、言うことは」
改めて檻に目を向けた。
あらかた当てはめた先生の名前。
そして、自動的に檻を担当した者に当てはまる、残った先生は、
「「……ポリー先生」」
一番まともで真面目で真剣でひたむきで勉強第一な黒髪美人教師、ポリー先生。
実際問題、この檻はそう簡単には攻略できない。
ピノキがつらいこの時期にも関わらず、彼女は一切手を抜いていないようだ。
「ここ掘れワンワーン!」
「おりゃあああ!」
だからきっと、あんな安易な方法で脱出することなんて出来はしない。
「んと、ポリー先生の専門は魔法学で、得意なのは雷魔法と無属性魔法だよね」
「ふむ、触っても大丈夫ということは、雷魔法ではないようだな」
なんか、どこから持ち出したんだと思うようなちっちゃいスコップで頑張っているポトフを傍観しながら、ミントとプリンは考察を続ける。
「……無属性……」
「……檻……」
その間、ココアは彼女なりに穴堀りポトフを一生懸命応援している。
「「――!」」
しばらくの思考の末、ほぼ同時にピンときたミントとプリン。
「む、もしかして」
プリンは自分の考えの正誤を確かめるため、ポトフを捕らえている檻に触れた。
「? 何してんだ枕?」
「! 何か分かったのー、プリンー?」
そのまま目を閉じて集中。
彼の行動に、ポトフとココアは思い思いの反応を示した。
「……! やっぱり」
再び目を開けたプリンは、記憶が当たっていたことを確信する。
と、同時に、何かとても厄介そうな顔。
「「やっぱり?」」
疑問符を浮かべて聞き返す二人。
「プリン、何か分かったの?」
彼らの心の声を代弁したのは、ミント。
「うむ。恐らく」
「そう、じゃあ」
肯定した友人の返事に安心した彼は、
「出来るだけ早く解決お願い!」
『『ぐばばばばば!!』』
しつこく追ってきていた、メタリックマと対峙していた。
「!」
「ミントォ!?」
「ちょ、まだついてきてたのー?!」
ミントが気付いたことは、敵の接近だったらしい。
驚き慌てるポトフとココアの隣で、
「……っ」
プリンは、頭に手を当て必死に解決法を考え始めた。
「ね、ねープリンー?」
至極真剣な彼に、ココアはためらいつつも質問する。
「これってどんな魔法の檻なのー?」
本人は分かったようだが、こちらはさっぱり分からない。
物理攻撃を食らわせようにも傷一つつかず、変身魔法で檻を別の物にするか、檻を通り抜けられるサイズの物にポトフを変身させようとも無効化されてしまう。
「……。これは、恐らくポリー先生の呪魂魔法」
困り果てた様子の彼女に、プリンは思考を続けながらも説明した。
「だから、この魔法に対する正攻法でないとこれは攻略できない」
呪魂魔法は、呪いを解く魔法を使うか、その呪いが成立する条件を解消しないかぎり解けることはない高度で強力な魔法。
ゆえに、他の物理的な手法は、まったくもって受け付けない。
「そ、その正攻法って?」
心配そうな表情で、檻を両手で掴んだポトフが問う。
「この魔法は、お前の呪いに連動しているらしい。だから」
檻に触れて、魔力を探った結果の事実。
ゆえに、この檻を解く方法は――。
「お前にかかった呪いを解くことだ」