第231回 実践日和
木の枝で羽根を休めながら、小鳥たちが春の歌をさえずる森のなか。
「ふにゃにゃ……っ!!」
ミントは、超頑張っていた。
「っあーもう! 無理これ持ち上がんない!」
これ、とは、ポトフを閉じ込めている檻のこと。
友人を助けようと頑張っていたミントは、疲れたように檻から手を離して座り込んだ。
「えェ?! もォちょっと頑張ろォぜミントォ!?」
早々に諦めた彼に、中から檻を持ち上げようと頑張っていたポトフが声をかける。
「だって全然動かないんだもん」
「いやそこでぷくっと膨れられても可愛いとしか思わねェぞ?」
「可愛かない!」
ぶーっと膨れっ面になられて困ったポトフに、ミントはぷんすか言い返す。
可愛いという言葉は、彼にとっては誉め言葉でもなんでもないようだ。
「まったく、自分で入ったんだから自分でなんとかしなよ?」
「いや、なんとかできねェから出られねェんだけど」
「取り敢えずもう一回持ち上げてみて!」
「ふぬぬ……!」
「気合いが足りん!」
「ふぐぐぐぐぐ……っ!」
「もっと本気で!!」
「ふぬわァ!!」
柵を掴んで力いっぱい持ち上げようと試みる。
それでもやっぱり、ポトフの檻は動かない。
「う〜ん……あがらないねえ?」
「あ、あがんねェな……」
手強い檻に頭を悩ませるミントと、疲れて息があがってきたポトフ。
「なーにやってるのよ二人ともー?」
そこへ、足の痺れがおさまったのか、ココアがツカツカとやってきた。
「こーゆーときは、プリンの出番でしょー?」
「む」
同じく正座により血行が悪くなっていたプリンとともに。
「「あ」」
そっか! と、素直に納得する二人。
そうだ、プリンが得意とする魔法――テレポートならば、この状況を打開できるに違いない。
「ふむ。それはそうだが」
しかし、プリンはこてっと首を傾げて、
「僕、ここの座標が分からない」
と、言い放った。
確か、テレポートを使うには、移動対象と移動先の座標を知る必要がある。
「それでも構わないなら、テレポ」
「「って、いやいやいやいや?!」」
失敗すればそれは瞬間消滅というとんでもないハイリスクで、そしていろんな意味でノーリターンな魔法。
それをさらっと使おうとしたプリンを、ミントとココアとポトフは一斉に止めにかかった。
「冗談だ」
「ウソこけ目が本気だったぞテメェ?!」
「しかもローブもはためいてたよプリンー!?」
ぱっと手を下ろした彼に、冗談じゃないと突っ込み攻撃をするポトフとココア。
「……」
その間、ツッコミに参加せずに檻をどうすればいいか考えていたミントは、
「! あ、ねえ」
ある考えが頭に浮かんだ。
「もしかして、これがクー先生が前に言ってた"今まで学んだことを最大限に活かせるような試験"ってことなんじゃないかな?」
呼び掛けに呼応してこちらに注目した三人の友人に、ミントはその考えを披露した。
「む? つまり、今まで学んだことで」
「解決しよー、ってことー?」
プリンとココアの聞き返しに、こくりと頷いて肯定するミント。
「となると……ん? 檻から出るための学習なんてしたかァ?」
それを受けて、ポトフは改めて首をひねる。
「あ! 前に魔法学でポリー先生が言ってたよー!」
勢い良く手を挙げたココアは、いいアイデアが浮かんだのかにっこにこ。
「"正攻法がダメなら、力ずくでぶっこわす"♪」
「ちょっと待ってココアちゃ」
「ダークネスサクリファイスー!!」
ちゅどおおおおおおん!!
ポトフの素早い制止の声も虚しく、ココアの最大魔法が檻に直撃した。
「あらら。ダメみたいだねー?」
人が通り抜けられないとはいえ、スッカスカの檻に当たった魔法の余波は、漏れなくポトフに大打撃。
「ふむ。そう言えば、魔科学でクー先生が」
なんか黒焦げた彼に構うことなく、顎に手を当てていたプリンは、
「"魔酸で溶けない金属はない"と」
ぱきんと指を鳴らして、工業用の大量の魔酸という名の酸を呼び出した。
「っていや待てお前殺す気か?!」
「冗談だ」
「だからさっきから冗談が笑えねェんだよテメェはよォ!?」
タンクで呼び出しておいてどうやら冗談だったらしいプリンに、真っ青ポトフが頑張って反論する。
「あ、そう言えば、魔物学でセル先生が言ってたよね?」
ぴこんと豆電球が光ったミントに、ポトフは長年の、と言うかさっきまでの経験から身構える。
さあ、次は何が来る。
「"無駄な努力はやめていさぎよく諦めろ"」
なんか、一番寂しい発言きた。
「む。では諦めるか」
「そーだねー。全然びくともしないしー」
「"諦めて逃げるのも策のうちだ"て言ってたしね」
「いやいや去るな!? 去るでない!! って、ちょっ、ホントおいてかないでェェェ?!」
はははと談笑しながら歩きだした三人の背中に向けて、必死に叫ぶポトフであった。