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学校日和2  作者: めろん
230/235

第230回 成敗日和

 さわりと静かに葉の揺れる大木の下、


「……たく、なんでのっけからこんなに疲れてんのさ?」


袖で額の汗を拭いながら、ミントは一度大きく息をついた。


「む、おっきい岩と」


「クマさんに追い掛けられたからでーす」


「んん、正しい。正座あと三分ね」


「「はーい」」


疲労の原因であるハプニングを生み出した、プリンとココアを正座させながら。


「先生、足痛いでーす」


「ぷゆ……先生、痺れた」


「我慢なさい」


「「はーい」」


 なんてやり取りを三人がしているなか、


「お?」


ポトフは、ふとあることに気が付いた。

風に乗ってふわりと届いたのは、


「! あんなところにシカが!」


シカのにおい。

そちらに目を向けると、右斜め前方にシカが横たわっていた。


「いっただっきまァす!」


大好物が目の前に存在している。

これはもう、行くっきゃない。


「いい? 二人とももうちょっと慎重になってよ? 下手に動かないポトフを見習っ」


がしょーん!!


「て、ポトフううう?!」


ミントが気付いた頃は時すでに遅く。

ポトフは、シカを餌にした棒でつっかえてあったカゴのなかに、見事に捕らえられてしまった。

これはもちろん、ミントが言う見習うべき姿では断じてない。


「しまった!?」


 と、思わず叫びながら口の周りを拭うポトフ。


「って、バッチリ食べたんかい?!」


と、思わず心配も忘れて突っ込むミント。


「ちょ、もう何してんのさ言ってるそばから!?」


「だってシカが仕掛けてあったから」


「んなダジャレ言ってる場合?!」


「い、いや別にダジャレのつもりでは……」


慌ててカゴの前までやってきたミントの言葉に対応するポトフ。


「とにかく出て!」


「お、おう!」


 そんなゆるい会話をしている場合ではないことは、一応把握していたらしいミント。

こんな罠を仕掛けているようでは、近くに敵がいることは明らか。


ガサリ


ほらみたことか。


『あんぎゃあああ!!』


 二人の目線の先に、なんか"あんぎゃあああ!!"とかおぞましい鳴き声をあげながら、恐竜チックな魔物が現れた。


「……」


「……」


「「……」」


取り敢えず、びびるよね。


「ポトフ?」


「ん?」


少しの間を置いて、ミントとポトフはお互いの顔を見合わせた。


「"ここは俺に任せろ☆"みたいな、かっこいいこと言う気ない?」


という、ミントの質問に、


「その言葉、そっくりそのまま返していい?」


ポトフは、にっこりと笑って答えてみせた。


「いやそれを更にそっちに――」


『あんぎゃあああ!!』


「――って、ちょ、た、タイムタイムタイムタイムっ!!」


再びけたたましい雄叫びをあげた魔物相手にタイムを乞いながら、ミントはバッと後ろを振り向いた。


「プリン、ココア!!」


ポトフがカゴに入っている今、頼りになるのは後ろの二人。


「「あしびれたー」」


しかし、彼らは足が痺れていた。


「……」


そう言えば、さっきまで正座させてたなあ。


『あんぎゃあああ!!』


「って、うわあああ?!」


 タイムの時間が超過してしまったのか、魔物はもう一度吠えた後、ミントに向かってやってきた。


「まっ、待ってください話せば分かります取り敢えず一旦落ち着きましょう恐竜さん?!」


ゆえに、ミントは和解を試みた。


『あんぎゃあああ!!』


そんな彼の前に立ちはだかる言葉の壁。

何を言ってるのかさっぱり分からない。

でもきっと、今まさに踏み潰そうとしておられるのだから、"イエス"とかそういう方面の返事ではないんだろうなあ。


「オレがきみに何したって言うのさあああ!?」


冷静な判断をして逃げ出したミントは、興奮状態のモンスターに半泣きだ。


『あんぎゃあああ!!』


そのちょこまか逃げる彼をドシンドシンと追い掛ける魔物。

それほど速いわけでもなさそうなのだが、圧倒的なのは、歩幅の差。


「ちょ、落ち着きましょうて!」


『あんぎゃあああ!!』


平和的解決を求めるミントの言葉は、暴れだした魔物には聞こえないようで。


「いやなんでもかんでも暴力で解決させるなんて良くないですって!」


『あんぎゃあああ!!』


と言うか、それ以前にこの魔物は人語を理解できるのかどうなのか。


「いやだから暴力は」


『あんぎゃ』


でも、やっぱり暴力はよろしくないわけで。


「ダメだって言ってんのが分かんねえのかボケえええ!!」


ズバアアアアアアアン!!


 何を言っても攻撃態勢を崩さない魔物のバカでかい図体に、ミントの薔薇の鞭がクリーンヒットした。

そんな華奢な鞭に打たれたところで痛くもかゆくもないように思えるのだが、


どしーん!!


魔物は、その攻撃された腹を大幅にへこませて、力なく地面に横転させられた。


「ったく、暴力はどんな理由であれ許されることじゃないんだよ?」


何やらぴくぴくいっている魔物に対し、武器を収めたミントはぷんすかしながら注意した。


『あ、あんぎゃ……』


「ましてや弱いものいじめなんて最悪だよって言うかなんでシカを餌にポトフ捕まえてるのさ肉の量的に確実に損してるじゃんバカだなそれくらい罠仕掛ける前にちゃんと考えて」


くどくどと説教しだしたミントに、


「「……」」


ただただいい知れぬ恐怖を覚えるプリンとココアとポトフであった。


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